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令和6年司法試験民法 参考答案例


こんにちは、be a lawyer(BLY)のたまっち先生です。

今回は、昨日まで実施されていた令和6年司法試験の民法について、be a lawyerの個別指導講師(77期)が参考答案例を作成しましたので、公開させていただきます。

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では、早速、令和6年司法試験民法の参考答案例をみていきましょう。


【設問1(1)】
第1 Cが下線部1の反論に基づいて請求1を拒むことができるか
1 請求1は、Aの甲土地所有権に基づく物権的返還請求権であるところ、その請求原因たるAの甲土地所有権の存在、及びCによる甲土地の占有の事実は認められる。問題はCの占有権原の抗弁が認められるか否かである。
2 契約①は、Bを賃貸人、Cを賃借人として締結された甲土地の賃貸借契約であるが、契約締結当初、Bは甲土地の所有者ではないことから、かかる契約は他人物賃貸借契約にあたる(民法561条、559条、601条参照。以下法文名省略)。すなわち下線部1の反論は、契約締結当初、Bは甲土地に関する処分権限を何ら有していないことから、Cをして甲土地を使用収益せしめることはできないが、Bの死亡に伴いAがBを単独で相続したことにより(882条、896条)、甲土地の処分権限を有する所有者が他人物賃貸人の地位を承継したとして、AはCに甲土地を使用収益させる義務を負うとの主張である。
3 検討するに、他人物賃貸人を相続した賃貸目的物の所有者については、他人物賃貸人としての地位と、賃貸目的物の所有者としての地位が併存するものと解すべきである。なぜなら、相続という偶然の事情により自らに一切落ち度のない他人物賃貸の責任を負うこととなるのは、目的物所有者にとって酷だからである。そして両地位が併存することの効果として、他人物賃貸人を相続した賃貸目的物の所有者は、信義則に反するような特段の事情なき限り、両地位を選択的に行使できると解する。
4 本件にあてはめると、Cは他人物賃貸人として、契約①による甲土地を使用収益させる義務を負うこともできるし、所有者として、占有者に対し甲土地の明渡しを請求することもできる。そうである以上、Cが他人物賃貸人として甲土地を使用収益させる義務を負うことを前提とするCの占有権原の抗弁は認められず、Cは下線部1の反論に基づいて請求1を拒むことはできない。
第2 Cが下線部2の反論に基づいて請求2を拒むことができるか
1 下線部2の反論は留置権の抗弁である(295条1項)。上述したとおり契約①は他人物賃貸借契約としてBC間に有効に成立しており、契約中の特約によってBが負っていた、甲土地の使用及び収益が不可能になった場合にCに支払うべき300万円の損害賠償義務は、Aが相続している。Aがかかる義務を履行するまでの間Cが甲土地を留置することができるか否かは、300万円の損害賠償債権が甲土地について「その物に関して生じた債権」といえるか否か、すなわち牽連性が認められるかの問題となる。
2 債務の履行を促すべく特別の合意なく占有者に物の占有を許す留置権の趣旨を踏まえると、牽連性が認められるのは、債権が物それ自体から生じたといえるか、債権と物の引渡請求権が同一の法律関係又は生活関係から生じた場合と解する。これらに該当するかどうかの判断には、物の占有者と債権者の公平を考慮する。
3 本件で、Cの有する損害賠償債権は、目的物たる甲土地の使用が不可能になったことを条件として発生するものであり、賃貸借契約に基づく甲土地を使用収益する権限が転化したものといえる。Aの有する甲土地の引渡請求権は所有権に基づくものであり、両者は同一の法律関係から生じたものとはいえない。またAは自らに落ち度なくBに甲土地を賃貸されていたのであり、これを阻止すべく所有権を主張することがBの締結した契約の合意により制約されるのは公平の見地から相当でない。以上より、300万円の損害賠償債権は甲土地について「その物に関して生じた債権」とはいえず、Cは下線部2の反論に基づいて請求2を拒むことができない。

【設問1(2)】
第1 請求2が認められるか否か
1 請求2は、DがAに支払った乙建物の令和4年9月分の賃料が賃借目的物の一部滅失等により減額される結果(611条1項)、その一部をAが受領することについて法律上の原因がないとする不当利得返還請求である。Dの出捐によりAが利益を受けていることは疑いがないから、本件で問題となるのは利得にかかる法律上の原因の不存在、すなわちDが賃料減額の根拠として主張する、雨漏りにより令和4年9月11日から同年10月1日まで丙室が使えなかった事実について、「賃借人の責めに帰することができない事由によるものである」といえるか否かである。
2 検討するに、雨漏りが生じた物理的原因は契約②が締結される前から存在した原因であったことから、Dの乙建物使用により生じたものとはいえず、Dに帰責することはできない。他方で、一般に賃借人は、賃借物が修繕を要する場合、賃貸人がすでに既知の場合を除いて、遅滞なく修繕が必要な旨を賃貸人に通知する必要がある(615条)。これは通常の賃貸人が目的物の状況を細かく把握していないことから、修繕の機会を賃貸人に与える趣旨であると解されるところ、本件において、DはAに丙室に雨漏りが生じたことを一切通知していない。仮にDが遅滞なく雨漏りをAに通知していれば、Aが迅速に対応することにより、丙室が使用不能となった期間が短くなった可能性もある以上、雨漏りにより令和4年9月11日から同年10月1日まで丙室が使えなかった事実について、賃借人の責めに全く帰することができないとはいえず、賃借人も一定の範囲で責任を負うべきである。
 もっとも、仮にDがAに丙室に雨漏りが生じたことを通知していたとしても、雨漏りの修繕に一定の期間を要することは変わらないから、仮に通知がされていた場合にAが修繕にかかると思われた期間の範囲では、丙室が使えなかったことについてDに帰責性はない。
以上より、上記の範囲で請求2は認められる。
第2 請求3が認められるか否か
1 請求3は、契約②に関するDのAに対する必要費償還請求(608条1項)である。かかる請求が認められるか否かは、Dは賃貸人たるAに通知なく乙建物の修繕工事を自らの費用負担で行ったところ、Dの支出した修繕工事費用が「賃貸人の負担に属する必要費」といえるか否かにより判断される。
2 上述したとおり、一般に賃借人が自ら賃借物の修繕を行えるのは、急迫の事情がある場合か、賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、賃貸人がなお相当期間内に修繕が行わない場合に限られるが(607条の2)、この趣旨は、修繕の義務を負担する賃貸人に合理的な修繕費用で修繕を行えるようにさせることにもあると解する。すなわち、賃借人が、修繕費用が賃貸人の負担にあることをいいことに十分な思慮を経ずして修繕を行うことを防ぐことを法は予定している。だとすれば、修繕費用に関して通知義務を懈怠した賃借人の行える必要費償還請求は、賃借人が現実に負担した修繕費用額ではなく、合理的な修繕費用額の範囲に限られるというべきである。
3 本件では、修繕に関して急迫の事情はない。またDが本件工事に関して現実に建設業者に払った工事報酬は30万円であるが、本件工事と同じ内容及び工期の工事に対する適正な報酬額は20万円であった。よって、DのAに対する必要費償還請求は、合理的な修繕費用額である20万円の範囲で認められる。

【設問2】
第1 総論
1 請求4は、Iの甲土地所有権に基づく物権的返還請求権であるところ、その請求原因たるFによる甲土地の占有の事実は認められる。問題は、Iが甲土地の所有権を有しているといえるかどうか、そしてFによる対抗要件の抗弁(177条)が認められないかどうかである。
第2 Iが甲土地の所有権を有しているといえるか
1 Iは、甲土地をHから購入しているところ(契約④)、Hは甲土地をGから購入している(契約③)。ここで、GはHに対し、契約③の締結にかかる意思表示を錯誤取消(95条1項)する旨通知しているから、錯誤による取り消しが認められるか否かをまず検討する。
 Gは、甲土地の財産分与に関して課税されるのが財産分与を行った側である自身ではなくHであると誤信しており、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤」(95条2項1号)があったといえる。そしてその課税額は300万円であったところ、通常人であれば、300万円の課税がなされることを知っていればその取引を行う意思表示を躊躇していたといえるから、かかる錯誤は取引上の社会通念に照らして重要であるといえる。また意思表示の相手方であったHにおいても、課税対象を誤って認識していたことから、いわゆる双方錯誤(95条3項2号)であり、Gの重過失の有無は問題とならない。以上より、Gによる錯誤取消は適法に行われたといえる。
2 他方で、Gによる錯誤取消がIに対抗できるか否かが次に問題となる。95条4項にいう「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、意思表示の取消可否につき法律上の利害関係を有する者をいうところ、Gにより契約③が取り消されればHはGから甲土地の所有権を有効に取得できず、その転得者であるIも甲土地所有権を有効に取得できないことになるから、Iは「第三者」といえる。さらにIは、契約④締結時点で、Gが契約③に係る課税について誤解していたことにつき善意でかつ過失がない。よってGは契約③の取消をIに対抗することができない。よって、GとIの関係では、甲土地の所有権はIにあることになる。
第3 Fによる対抗要件の抗弁が認められないか否か
1 そうだとしても、Iは自身の所有権をFに対抗できるか。Fは、所有権移転登記を備えていないIは所有権を第三者に対抗できないと主張すると考えられる。
2 ここで177条の「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。本件は、甲土地についてG→IとG→Fの二重譲渡とみることができ、IとFは最終的に択一的に甲土地の所有者となることから、Fは177条の「第三者」に該当するといえる。よってIは登記なくして甲土地の所有権をFに対抗することができない。
 以上より、Fによる対抗要件の抗弁が認められ、IはFに対し甲土地の所有権を主張できない結果、請求4は認められない。
以上



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