令和6年司法試験刑法 参考答案例
こんにちは、be a lawyer(BLY)のたまっち先生です。
今回は、昨日まで実施されていた令和6年司法試験の刑法について、be a lawyerの個別指導講師(77期)が参考答案例を作成しましたので、公開させていただきます。
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では、早速、令和6年司法試験刑法の参考答案例をみていきましょう。
第1 設問1
1 甲の罪責
⑴ 甲が、Aの頭部を拳で殴り、腹部を繰り返し蹴るなどした行為によって、Aは肋骨骨折等の「傷害」を負っており、かかる行為に傷害罪(刑法(以下法令名称略)204条)が成立する。
⑵ 甲が、本件財布を自身のポケットに入れた行為に強盗罪(236条1項)が成立するか。
ア 暴行又は脅迫(同項)
(ア)「暴行又は脅迫」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫をいう。
上記行為は、Aの身体の複数箇所に繰り返し殴る蹴るなどするものであり、また、その結果、後述のとおりAは肋骨骨折等の傷害を負っている。
これらの行為によってAは、甲に対して抵抗する気力を失っており、甲の上記行為はAの反抗を抑圧するに足りる程度の「暴行」にあたりうる。
(イ)もっとも、甲は、上記行為の後になってはじめて、本件財布に入っている現金を自己の物にする意思を有するに至っている。
そこで、甲の上記行為は「暴行」とはいえないのではないか。
この点について、強盗罪は「暴行又は脅迫」を用いて財物を奪取する犯罪であることから、暴行又は脅迫後に財物奪取意思を生じた場合は、新たな暴行脅迫が行われない限り、「暴行又は脅迫」は認められないと解する。
もっとも、同罪が反抗抑圧状態を利用して財物を奪取する犯罪であるから、新たな暴行脅迫は、自己の先行行為によって作出した反抗抑圧状態を継続させるものであれば足りると解する。
Aは、甲の上記行為により、甲の手元に財布を置いた時点ですでに抵抗する気力を失っていた。そして、甲がAに対し、「この財布はもらっておくよ。」と言った際にも、Aは抵抗する気力を失っており、何も答えられずにいた。
これらの事実からすれば、甲が「この財布はもらっていくよ。」と言った行為は、上記行為によって作出された反抗抑圧状態を継続させるものであるといえる。
したがって、甲の上記行為は「暴行」にあたる。
イ 財物を強取した(同項)
甲は、上記行為によって、本件財布を自己のポケットにいれており、「財物を強取した」といえる。
ウ したがって、上記行為に強盗罪が成立する。
⑶ よって、甲の上記各行為に傷害罪、強盗罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。
2 乙の罪責
⑴ Aから本件カードの暗証番号を聞き出した行為に強盗未遂罪(236条2項、243条)が成立するか。
ア 暴行又は脅迫
(ア)上記行為の際、乙は「死にたくなければ、このカードの暗証番号を言え。」と言い、Aは、拒否すれば殺されると思い、仕方なく4桁の数字からなる暗証番号を答えている。
そのため、上記行為は、相手方の反抗を抑圧する程度の「脅迫」にあたりうる。
(イ)上記行為の際、乙は、既に本件カードを取得していた。そのため、Aから本件カードの暗証番号を聞き出すことができれば、乙は、本件カードをATMに挿入して現金を引き出すことができる地位を取得することができる。
そうすると、乙の上記行為は、このような財産上の利益の取得に向けられた行為であるといえ、「脅迫」にあたる。
イ 財産上不法の利益を得た
もっとも、Aは、本件カードの暗証番号を答えようとしたが、暗がりで本件カードを自宅に保管中の別のキャッシュカードと見誤っていたため、本件カードの暗証番号と異なる4桁の暗証番号を答えた。
そのため、乙は、結果として本件カードをATMに挿入して現金を引き出すことができる地位を取得したとはいえずない。
したがって、上記行為は「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」(43条)として、強盗未遂罪が成立するにとどまる。
⑵ ATMで預金を引き出そうとした行為に窃盗未遂罪(235条、243条)が成立するか。
ア 他人の財物
ATM内に保管されている預金は、ATMの管理者が所有する財物であるため、「他人の財物」にあたる。
イ 窃取
乙がAから聞き出した暗証番号は、本件カードの暗証番号ではなかったため、上記行為によ ってATMから現金を引き出すことができなかった。
そこで、上記行為は、窃盗罪の実行行為とはいえず、窃盗未遂罪は成立しないのではないか。
(ア) 実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいう。
また、行為は主観と客観の統合体である。
そこで、実行行為性は行為者が認識していた事情及び一般人が認識し得た事情を基礎として、行為の時点に立って、一般人の観点から構成要件的結果発生の現実的危険があったといえるかにより判断すべきと解する。
(イ)乙は、Aが答えた暗証番号が本件カードの暗証番号であると認識していた。また、一般人も、Aが答えた暗証番号が本件カードの暗証番号であると認識するのが通常である。
そして、乙は、Aが答えた暗証番号をATMに入力したが暗証番号が間違っている旨の表示が出たため、続けて同じ暗証番号を2回入力しているところ、正しい暗証番号を知っている者であれば、ATMに暗証番号が間違っていると表示されたとしても同じ暗証番号を入力するのが通常である。
そうすると、一般人の観点からすれば、上記行為の時点において、上記行為によって現金が引き出される現実的危険があったといえる。
したがって、上記行為は窃盗罪の実行行為といえる。
(ウ)もっとも、上記のとおり、Aの答えた暗証番号は、本件カードの暗証番号ではなかったため、乙はATMから現金を引き出すことができなかった。
そのため、上記行為には、「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」(43条)として、窃盗未遂罪が成立する。
⑶ よって、乙の上記行為に強盗未遂罪、窃盗未遂罪が成立し、両罪は被害者を異にするため、併合罪(45条)となり、乙はかかる罪責を負う。
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第2 設問2
1 ⑴について
⑴ 1回目打
ア 構成要件該当性
丙の上記行為は、Cの顔面を拳で1回殴打するという、不法な有形力の行使にあたり、暴行罪(208条)の構成要件に該当する。
イ 違法性阻却事由
(ア)急迫不正の侵害
急迫とは、侵害行為が現に存在するか、間近に迫っている状態をいい、不正とは、侵害行為が違法であることをいう。
Cは、丙に対して殴りかかってきており、「急迫不正の侵害」といえる。
(イ)防衛するため
防衛するためとは、行為者が防衛の意思を有していることをいう。
丙は、身を守るために上記行為に及んでおり、「防衛するため」といえる。
(ウ)やむを得ずにした
やむを得ずにしたとは、防衛行為の必要性・相当性をいう。
丙は、上記行為の直前にCから顔面を複数回殴られる暴行を受けており、上記行為の際も、Cは続けて丙を殴ろうとしていた状態であったことからすれば、上記行為の必要性は認められる。
また、上記行為は、素手で1回殴るという態様であることからすれば、Cの行為と比較しても過度な暴行を加えたものとは評価できず、相当性も認められる。
したがって、上記行為はやむを得ずにした行為であるといえる。
ウ 小括
よって、上記行為には正当防衛が成立し、違法性が阻却される結果、丙は、上記行為について罪責を負わない。
⑵ 2回目打
ア 構成要件該当性
丙の上記行為は、Cの顔面を拳で1回殴打するという、不法な有形力の行使にあたり、暴行罪(208条)の構成要件に該当する。
イ 違法性阻却事由
(ア)急迫不正の侵害
Cは、なおも丙に対して殴りかかってきており、「急迫不正の侵害」といえる。
(イ)防衛するため
丙は、丁から声を掛けられて発奮していることから、攻撃の意思を持って上記行為に及んだと考えると、防衛の意思が認められないとも思える。
しかし、正当防衛状況においては、正常な判断を行うことは極めて困難であることからすれば、防衛の意思と攻撃の意思が併存している場合であっても、なお防衛の意思は認められ、専ら攻撃の意思で反撃行為を行っている場合に限り防衛の意思は否定されるべきと解する。
そうすると、丙は、身を守るために上記行為に及んでおり、専ら攻撃の意思で上記行為に及んだとはいえず、防衛の意思は否定されない。
(ウ)やむを得ずにした
丙が上記行為に及ぶ際、Cは丙に対して殴りかかろうとしているから、丙は自己の身を守る必要がある。
そして、上記行為は、Cの顔面を素手で1回殴打するものであり、Cの暴行態様と比較しても、過度な暴行を加えるものとは評価できず、相当性も認められる。
ウ 小括
よって、上記行為には正当防衛が成立し、違法性が阻却される結果、丙は、上記行為について罪責を負わない。
2 ⑵①について
丙による2回目打の際、丁が「頑張れ、ここで待っているから終わったらこっちに来い。」と声をかけた行為に暴行罪の幇助犯(62条1項、208条)が成立するか。
⑴ 「幇助」とは、実行行為以外の方法で、実行行為を容易にする行為をいい、幇助行為には物理的な幇助行為の他、心理的な幇助行為も含まれる。
丙は、丁による声かけを受けて発奮し、Cの顔面を殴打していることからすれば、丁による上記声かけは、丙による反撃を心理的に容易にするものであるといえ、「幇助」にあたる。
⑵ もっとも、丁の上記声かけを受けた丙の2回目打については、正当防衛が成立し、違法性が阻却される。
そして、幇助のような狭義の共犯が成立するためには、正犯は構成要件に該当し違法なものでなければならず(制限従属性説)、違法性の判断は共犯者間で異なることはない。
そうすると、共犯者の正当防衛の成否を判断する際には、正犯者を基準に判断することになる。
本件では、正犯である丙の2回目打に正当防衛が成立するため、丁の上記行為にも正当防衛が成立し、違法性が阻却される。
⑶ したがって、丁の上記行為に暴行罪の幇助犯は成立せず、丁は何らの罪責も負わない。
2 ②について
丙による1回目打について、甲に暴行罪の共同正犯(60条、208条)は成立するか。
⑴ まず、上記のとおり、丙の1回目打は暴行罪の構成要件に該当する行為である。
次に、丙の1回目打の際、甲は丙に対し「俺がCを押さえるから、Cを殴れ。」と言い、これを受けて丙は1回目打に及んでいる。
そのため、1回目打は、甲と丙が「共同」して「実行した」(60条)ものといえる。
⑵ 上記のとおり、丙の1回目打には正当防衛が成立し、違法性が阻却される。
そして、制限従属性説を前提とすると、丙の1回目打に正当防衛が成立する以上、甲についても正当防衛が成立するとも思える。
しかし、共同正犯には、狭義の共犯における要素従属性(制限従属性説)は妥当しないから、共同正犯が成立する場合の違法性の有無は、共同正犯者の各人について判断すべきであると解する。
甲は、Cを呼び出す際、Cから殴られるかもしれないと考え、この機会を利用してCに暴力を振るい、痛めつけようと考えており、Cからの侵害を予期していたのみならず、積極的にCを加害する意図を有していたといえ、急迫性が否定される。
したがって、丙の上記行為について甲には正当防衛は成立せず、違法性は阻却されない。
⑶ よって、丙の上記行為について、甲との関係では暴行罪の共同正犯が成立し、甲はかかる罪責を負う。