カンボジア人が日本を選ぶ理由
これまで実習生送り出し国の主翼を担ってきたベトナムの穴を埋める存在として、カンボジアへの期待が高まっている。
コロナ禍を乗り越えたカンボジアの経済回復は好調で、2021年後半以降、輸出・内需共に予想以上の成長を示している。
地政学的には中国が「一帯一路」の重要拠点に位置付けている一方で、内政的には7月の総選挙で37年ぶりにフン・セン首相から子息へ首相後継がなされるのではと囁かれている。
内外で注目を集める同国に、現在の日本はどのように映っているのだろうか。
カンボジア送出機関IIS COMPANY LTD 代表のロゼット・エルさん(写真)に話を聞きてみた。
ロゼットさんは、2008年にIISを設立し、14年以上にわたり日本、シンガポール、タイ等、海外への人材派遣業に携わっている。起業する前の約15年間は、ロンドンでの留学・就業経験をもつカンボジア人としては稀有(けう)な経歴の実業家だ。
「現在1万8千人以上のカンボジア人が日本で働いている。先進的で労働環境のよい日本の人気はポストコロナの今も健在ですよ」とロゼットさん。
韓国との競合状況が取り沙汰されるむきもあるが、長きにわたる日本の経済支援や、歴史的なつながりによって、いまだ日本人気は揺るぎないという。
特に日本の技術や製品に対する信頼度は高く、仕事のスキル習得に関心の高い、向上心ある若者が日本での就業を希望するケースが多いと分析する。
カンボジア政府も、技能実習生を送り出すことに協力的であり、帰国した実習生の評価は高い。ロゼットさんは、技能実習制度の活用がカンボジアの経済発展に大きく寄与するものと考えている。それはロゼットさん自身の経験によって裏打ちされた信念だ。
ロゼットさんはロンドンで人材マネジメントの経験を積んでおり、それが現在の事業に大いに役立っているという。海外で仕事をすることの意義や価値を肌身で感じているのだ。
海外経験がスキルアップや収入の増加につながり、ひいてはそれがカンボジア国を発展させる土台となると、ロゼットさんは熱く語る。
他国への送り出しに比べると、技能実習生に関わる業務負荷は格段に大きい。それでもこの事業を続ける理由は、若者たちが人生を切り拓いていく姿を目の当たりにしているからだ。
今、日本政府の有識者会議では、技能実習制度の本格的な見直しが議論されている。国際貢献を掲げながら、実際は安価な労働力の確保に使われているといういびつな制度のあり方が、ようやく改められることになる。制度の改善は、このような現場の声に耳を傾けてこそ、その真価を発揮するのではないだろうか。
志ある各国の若者から、「選ばれる日本」であり続けるための新制度を構築していただきたいと、切に願う。
(※このコラムは、ビル新聞2023年5月29日号掲載「カンボジア人が日本を選ぶ理由」Vol.48を加筆転載したものです。)
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