引き込まれるのも癒されるのも、いつもコーヒーだったから【part4】~佐藤昂太バリスタインタビュー
ジャパン・ハンドドリップ・チャンピオン2016 佐藤昂太バリスタのインタビュー part4(完結編)。
ジャパン・ハンドドリップ・チャンピオンシップ2016 で初出場で優勝に輝き、2019年春にアンリミテッド・コーヒー・バーから dotcom space tokyo に移籍(part3)。
最終回の part4 では移籍先として dotcom space tokyo を選んだ理由から、これから進んでいきたい道をうかがっています。
佐藤昂太(さとう・こうた)
1988年、茨城県に生まれる。学生時代にタリーズでアルバイトをしたのがきっかけでコーヒーの道を志す。身体を壊して一旦は諦めるが、コーヒーへの興味は消えず、再びバリスタに。2016年ジャパン・ハンドドリップ・チャンピオンシップ(JHDC)で初出場で優勝に輝く。現在、dotcom space tokyo のクオリティコントロールとヘッドバリスタを務めながら、自身のblogやyoutubeでコーヒーに関する情報を発信している。
dotcom space tokyo のオープニングメンバーに
--- 病み上がりで、すぐにフルタイムで働くのは無理だと感じている状況で、ここでならできると思った理由は何だったんですか?
オープンが翌2019年の2月か3月になるということだったので、それが猶予になるかなと思ったんですよね。その頃までには、前みたいな感じで働ける状態に、完全にではなくても、ある程度は戻せるかなと思いました。オープンまでは、お店の立ち上げ準備なので、パソコンでの調べものや取引の連絡といったデスクワークが中心で立ち仕事や身体を使うことは少なそうでした。それに、結構、融通効かせてくれる会社なので、そういう面でもここなら大丈夫だなと思えたんです。
--- オープン後のことも考えてこのお店を選ばれたと思いますが、そこについてはどうですか?
ここのコンセプトがめっちゃいいなって思っているんですよ。基本的にバリスタの仕事のハードさを理解してくれている。「頑張ればもっとできるよ、頑張ろう!」じゃなくて、「バリスタの仕事は肉体的にハードで大変なもの、それを助けるためにテクノロジーを使おう」というのがベースにあって、その象徴的なプロダクトとして自動ハンドドリップマシンがある。
*dotcom社の自動ハンドドリップマシン。ミリ単位でバリスタの腕の動きを再現する(写真提供: dotcom space tokyo )
「テクノロジーを使って負担を減らして、その分もっとお客さんとコミュニケーション取ったりするのに時間をあてようよ。もっと楽しくできるように環境を作っていこうよ」という感じのコンセプトにかなり共感しました。
バリスタの仕事以外についても、日本の考え方だと、「もっと私たちが頑張れば」みたいな、頑張るっていう方向に行きがちですけど、ここは「根本的に、何かもっと効率的で良いやり方探しましょうよ」という感じなんです。中国の企業だからというのに加えて、社風もあると思います。最初に説明を聞いた時から、全然違うなと感じて、ここならやれそうだと思いました。
「教える」ではなく、「共有してすり合わせる」
--- 実際、オープンしてみて、どうですか?楽しそうですよね。
そうですね!自分の生活も時間にちょっと余裕が持てて、自分の人生も考えられる感じですね。体調を維持するためにスポーツジムに通ったり、興味ある分野の本を読んでインプットしたりする余裕もできました。
--- アンリミテッドでは弟分的な立ち位置だったと思いますが、ここでは他のスタッフを指導する長男役に見えます。その辺りはどうですか?
そこは僕の中で考えがすごくシフトしているところですね。
最初は自分が経験あるんだから、教えるというかレベルを上げなきゃいけない、求められるクオリティがあって、そこまで絶対上げなきゃいけないっていう意識が凄く強かったです。
最近は「共有だな」って思うようになってますね。もちろん、「こういうやり方をした方が効率いいよ」という風に教えることもありますけど、もっと対等でいいと思ったんですよね。
「教える教える」という意識じゃなくて、一緒に味を見て「どう思う?」って聞いてみる。「こう思います。佐藤さんはどうですか?」と返ってきた時に、自分はこう感じて、こうだから、こうなんだよって伝える。伝えて、相手に共有してシェアしていくみたいな感じで。
その人の自主性を育てるためにも、自分が感じるいろんなことを一方的に伝えるのではなく、相手にもどう感じているのか聞いて、すり合わせる方がいいなって思ったんです。
見方によってはやっぱり教えるになるんですけど、こっちが経験が多いから絶対的に正しいかのように「これだ!」って言うと、その時は上手くいっても創造性がなくなるような気がします。そういう伝え方ではない方が、余白があり、自分自身で納得してもらえていい方向に行くんじゃないかな、と思っているところですね。
発信することで日本のコーヒー文化を明るくしたい
--- 最近は blog やyoutube も始めて、お店のスタッフ以外にも共有していますよね。
コーヒー業界の常識すら日々変わっていく中で、「今、こういう流れが来ていてこういうコーヒーが評価されるようになってきてる」、「こういうやり方が理論的に正しいと思われ始めている」といった情報をいち早く収集して取捨選択していく必要があるじゃないですか。
自分はそういうことを調べるとか、ある程度検証するとかが得意なんですよね。元々のベースが結構のめりこみ易い、研究者気質みたいなところがある上に経験も積んでいるので。
そういう僕でも、調べるの楽しいけど大変だなと感じることもあるんで、若手のバリスタがいちから調べるのはもっと大変だよなと思うんです。何時間もかかるのを全員がやったら、もったいないと思うんですよ、その時間。
一人が調べたんだったら、それをシェアして、「後はやってみて確認してみてくださいね!」という感じの方が効果的かなと思って。
* youtubeチャンネルではドリップのポイントを動画で解説している。
--- ブログの内容にはかなり初心者向けのものもありますよね。バリスタに向けてだけでなく、もっと広く発信していこうという感じですか?
僕、ブログのタイトルを「コーヒーティップス」にしてるんですよ。ちょっとしたヒント、これを知っているとうまくいくとか、そういうのをどんどん発信していきたいですね。自分が今まで持っていたものはもちろん、これから学んだものもどんどんシェアして、日本のコーヒー文化みたいなものを明るくできたらいいなっていう想いで今はいますね。
おいしいコーヒーをもっとみんなが楽しめるようになってほしい!
自分が研究したり、今まで持っていたもの、これから研究したり知識を入れたものはその時点では専門色が強いんですよ。それをわかりやすくかみ砕いて、「こうやったらコーヒー絶対もっと美味しくなったり楽しめるよね」って一般の人に伝えたいです。
インターネットで、わかりやすく読める形にできれば、読んでくれる人も増えて、一般の人のコーヒーの楽しみ方がかなり変わってくるのかなぁって思って、そこに凄く可能性を感じているんですよね。
--- アンリミテッドの時から、家での楽しみ方も凄く研究していて、「家庭用コーヒー器具マニア」を自認してましたよね。
そんなこと、言ってましたっけ?(笑)
--- グラインダー選びの相談に乗ってもらった時に言ってましたよ。お店で直接聞ける人以外にも佐藤さんの知識や経験に基づいた情報が広がって、コーヒーを楽しむ人が増えていくのを想像するとワクワクしますね。
もちろん、お店にお客さんとして来てくれた人に伝えるのはバリスタとしてやりがいのあることですけど、それだけだと伝えられる内容も伝えられる人数も限られてしまいますよね。お店に来られて、たまたま僕がいて、声をかけるチャンスと勇気がある。そういう人だけになってしまう。それではもったいないと思うんですよね。
インターネットを使ってもうちょっと俯瞰したところから 広く伝える方法を見つけられたのが、僕にとっては凄く大きいことなんです。
インターネットで発信を始めてから、「うまくいきました」「今までわかんなかったことがわかってすっきりしました」みたいな声が直接聞けて、それが嬉しいんですよね。また、インターネットだと、どういうことを発信した時にどれくらい観られたかが数でわかるじゃないですか。みんながそこを何回も観てくれていると「そこはやっぱり凄く知りたいところだったんだ」ってわかるんで、あぁ、よかったな、っと。
--- ほんとに楽しそうですね。ところで、起業して自分で何かやりたいという気持ちは今も変わらないのですか?
そうですね、それは同じですけど、想いは前とはもう全然違いますね。
前はただそれがカッコイイみたいな、社長さんの本とかを読んで、「やっぱそうなんだな、やるか」みたいな感じだったんですけど(笑)
今はいろんな経験したんで、起業してやっていくのが自分のスタイルに合っていると思うし、前よりは現実味を帯びてきていますね。まだ、具体的な形は見えていませんけど。
実は、その前段階として、今年の 6月からフリーランスになります。まだ詳しくは話せませんが、情報発信だけではなく、コーヒーに関する様々なことをやっていこうと思ってます!コーヒー以外の分野の方も含めた色々な人と関わりながら、知識や経験を深めて活動の幅も広げていきたいと思います。
--- 楽しみですね。
はい、楽しみにしていてください!
タイトル写真: Fusako Hirabayashi (筆者)
記事中写真: Ikuko Takahashi
撮影協力: dotcom space tokyo
(完)
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