ランニングのプロと素人の境目:シザーズ(ランニング理論入門)
今回は、ランニングの動きの中で最も「プロと素人が違う」動き、シザーズ
について書いていきます。
プロと素人の違いというか、少なくとも陸上専門の人間と、陸上専門のトレーニングをしていない人間を分けるポイントと言えるように思います。
恐らく、多くの陸上部では、シザーズのトレーニングを行っているはずです。一方、陸上の専門ではない人は、全く知らない動きではないかと思います。
なので、これができると、それだけで陸上のプロっぽく見えます。
シザーズの動き
シザーズは、遊脚の膝が軸足を追い越す動きの事を言います。ポイントは、軸足(例えば左足)が地面に付く前に、遊脚(例えば右足)の膝が前に出ている事です。
図で描くとこんな感じです。
シザーズができていない「普通のランナー」は、片足(黒い線)が着地した時には、もう片方の脚(赤い線)は後ろにあります。この状況を、陸上では「足が後ろに流れている」と表現して、走りが遅くなる要因としています。一方、シザーズのできている「速いランナー」は、片足(黒い線)が着地した時に、もう片方の足(赤い線)の膝が軸足より前に出ています。これは、黒い線の方の脚がおろされるのと入れ替わるように赤い線の方の膝までの脚が前に出ていって、両方の足で挟むようになるのです。(だから「はさみ」で「シザーズ」になるんです。)
ポイントは、膝から先、足の部分は軸足より後ろにある、膝がしっかり曲がっていて、膝だけ前にある、という事ですね。
これで、シザーズの動き自体は分かってもらえたかな、と思います。
シザーズが速く走るのに有効な理由
この動きができると「陸上専門っぽい」のは分かるとして、どうしてこの動きが速く走るのに有効なのでしょうか。
それは、2つの要因があると思っています。
1つ目は、遊脚を速く前に送る事ができる、という事です。引き付けの稿でも書きましたが、遊脚を早くに前に送る事ができると、余裕を持って、戻しながら着地させる事ができます。それによって、ブレーキをかけない接地が可能になります。
2つ目は、接地するポイントで遊脚側が前に動いていくことになる事で、重心がその分前に移動することになる、というのがあります。脚は身体の中で、それなりの重量を持っていますので、それが前に送られると、その分全体の重心も前に移動する事になります。その事で、接地する足が後ろ向きに地面を押す事になり、その反作用で地面から前向きの力を受け取る事になるのです。
シザーズのドリル
シザーズのドリルですが、これがかなり難しく、コツを掴むまで、しばらくかかるかもしれません。
乗り移りのドリル
足を前後に開いてください。(どちらが前でも良いですが、後で反対側もやってください。)そして、後ろ足に体重をかけて、前足を浮かせてから、前足をおろして付く時に後ろ足を上げて、「後ろ足から前足に乗り移る、飛び移る」動きをやってみてください。
それで、単に乗り移る、飛び移るだけなら、上の図の「普通のランナー」みたいに後ろ足が流れている状態になると思うのですが、そこで、前足に乗り移る瞬間に後ろ足の膝を素早く前に出して、上の図の「速いランナー」みたいになるように練習します。
かなり難しいと思います。コツを掴むまでは、なかなかできないかもしれません。
足の入れ替えドリル
片足で立って、もう一方の足を浮かせます。その時に、膝を前に出すように浮かせます。そして、浮かせた足を下ろして着地する時に、付いていた方の足を入れ替えるように浮かせて膝を前に出します。
ポイントは、浮かせていた足が着地した時にはもう片方の足の膝が上がっていて「入れ替わった体勢」が完成している、という事です。
これもなかなかコツを掴むのが難しいかもしれません。
スキップ
普通にスキップを行うのですが、その足の入れ替えの時にシザーズの動きを行う、というものです。スキップは、片足で飛んだあと、飛んだ方の足で着地し、すぐに足を入れ替えて着地し、着地した足でそのままジャンプして、その足で着地、を繰り返すものですが、その「足の入れ替え」の場面で、前に「飛んでそのまま着地した側の足」の膝を追い越すように前に出すのです。
実は、シザーズのドリルというと、スキップで練習する事が多いのですが、個人的には上記2つの動きができずにスキップでできるようになるのは、かなり難しいのではないかと思います。まずは動きを分解した上2つのドリルで練習してみて、できるようになったら、スキップでもやってみてください。
(で、スキップでできるようになると、走りの中でもその動きができるようになります。)
シザーズを行う上での最重要ポイント
さて、シザーズはコツを掴むまではなかなかやるのが難しい動きだ、と繰り返し書いてきました。
では、その「コツ」を掴むには、どうすれば良いでしょうか。
それは、前の稿で説明した「引き付け」の動きなんです。
引き付けをして、足を折りたたんだ状態にしていると、脚が動かしやすくなり、シザーズもはるかにやりやすくなります。逆に引き付けを行わずにシザーズだけやろうとするのは大変ですし、無理やりにやろうとすると、骨盤が後傾して、ロンブー淳さんのような走り方になってしまうかもしれません。
上の図でも、シザーズができている方の図では遊脚の膝がしっかり曲がって引き付けができた状態になっていると思います。
なので、上の2つ目の「足の入れ替えドリル」も、上げる方の足の膝をしっかり曲げて、膝は前に出しても足の部分は前にいかないようにすると、やりやすいと思います。
上級者向けの引き付けドリル
それをもっとやりやすくするための、上級者向けの引き付けドリルがあります。
今まで説明した、引き付けのドリルは、単に踵をお尻にひっつける(叩く)だけのものだったと思います。それだと、足が後ろを回ってお尻につく形になると思います。
上級者向けの場合は、足を後ろに回さず、真上に引き上げてそのまま踵でお尻をたたくようにします。これまでの引き付けドリルが楽々できるくらい前ももの柔軟性が高くないと、なかなかこのドリルはできないと思います(そういう意味で上級者向けです)。
この上級者向け引き付けドリルは、引き付けの動きとシザーズの動きをワンモーションで行う練習になります。足を後ろに回さず真上に引き上げると、膝が前に出る事になります。なので、足を真っ直ぐ引き付けられれば、引き付けながらシザーズの動きができる、つまり引き付けとシザーズがワンモーションでできるようになります。
現実的に、乗り移りやスキップで足が着く時に遊脚の膝が完全に追い越すには、ワンモーションで引き付けとシザーズができないと無理だと思います。なので、引き付けをたっぷり練習して、是非とも上級者向け引き付けドリルができるようになってください。
おまけ
この記事を書く際に、他のサイトではどんな説明してるんだろうとチェックしてみたところ、なぜか、ことごとく「シザース」と最後が濁らない表記がされていました。ハサミ(scissors、発音記号では米語で[sízɚz]、英語で[sízəz]だそうです)なので、濁って読むと思ってたんですが、何か濁らず読む理由があるのでしょうか。
詳しい人は、教えてください。(強豪校の陸上部出身じゃないので、こういう所が弱いんですよね。)