【第101回箱根駅伝】山登り5区はさらに大激戦に ! 「山の神」レベルが上位争いの必須アイテムになってしまう?!
第100回箱根駅伝の展望で、2区と5区が物凄い高レベルになりそうだと予想しました。
我ながら煽り度の高い大袈裟なタイトルを付けたなって思いますが、実際の結果を振り返ると決して大袈裟ではなかったと思います。2区の方は2区の記事で振り返った通り、全体のレベルが爆上がりした結果となりました。一方、5区の方も区間記録を2人が更新し、しかも区間賞の山本選手は「山の神」と呼ばれた今井選手の参考記録(ほぼ同じ距離だが少しコースが変わったため参考記録扱い)69:12に迫る69:14で走りました。つまり、実際に「山の神レベル」で走った選手が出た訳です。(区間2位の若林選手も69:32で山の神に近いレベルでは走ったと言えます。)つまり、決して大袈裟ではなかったと言えます。
では、今年の5区はどうなるでしょうか。
前回5区を走った選手
青学:若林選手(69:32)
若林選手は元々、調子の波の大きい選手ですが、箱根駅伝では出場すれば良い走りをしています。前回はトップ独走状態で襷を受け、区間記録を更新する走りで後続との差をさらに開きました。
今シーズンは、出雲駅伝では5区でトップ争いから突き放されて区間5位とライバル校には遅れをとりましたが、MARCH対抗戦では27分台で走っています。相変わらず調子の波は激しいですが、箱根5区では、前回のタイムをさらに縮めてくると思います。
早稲田:工藤選手(72:12)
工藤選手は昨シーズン、駅伝シーズンでは不調でした。しかし箱根駅伝では得意の登りを活かして5区で好走。「山の名探偵」とニックネームを付けられる活躍でした。
今シーズンはトラックシーズンから成長した姿を見て、駅伝シーズンでも出雲6区2位、全日本8区3位とエース区間で好走しています。エースクラスに成長した状態で再び挑む箱根の山。前回を大幅に上回る快走が期待できそうです。具体的には70分切りが目標となるでしょう。
創価:吉田響選手(72:38)
吉田選手は前回、私の記事で「山の神レベルで走る」と予想した5人の選手の1人でした。しかし、前回の5区は冷たい雨の降る寒いコンディションでした。寒さが苦手だという事で、吉田選手は力を出しきれず、区間9位と平凡な結果に終わってしまいました。(そう言う意味では今年も気候条件に影響される不安点はあるかもしれません。)
今シーズンはさらに成長した姿を見せています。関東インカレの1万mで入賞、駅伝シーズンは出雲2区区間賞、全日本2区区間2位とエース区間で結果を残しています。特に全日本2区の走りは圧巻でした。強い留学生選手を含む各校のエースを引き連れてハイペースで集団を引っ張り、1人また1人と篩い落としていき、最後、鶴川選手とのラストスパート合戦には敗れたものの、それ以外の各校のエースを力でねじ伏せる走りでした。実力を出し切れる環境にあれば、区間記録の更新も十分狙える選手だと思います。
東洋:緒方選手(72:46)
緒方選手は1年の時から全日本予選の最終組に起用されるなど早くから期待されていた選手でしたが、1年時は箱根を走れませんでした。2年時の前回、満を持して5区に登場し、まずまずのタイムでまとめ、東洋の4位躍進に貢献しました。非常に安定感のある選手で、恐らくどの区間を走っても好走してくれると思いますが、そういう選手が箱根で最も重要な区間の1つである山を押さえてくれると、東洋としては大きいと思います。
山学:弓削選手(72:59)
弓削選手は前回、初の箱根で好走しました。予選会にも出場せず持ちタイムも良くありませんが、登りでは力を発揮する、正に登りを走るための選手です。大崎新監督からも「弓削がもし故障してしまったらチームは終わるかな」と話すほどの信頼を受けています。今回も、箱根の山に向けて準備をしてきているそうで、山梨にとってシード争いのアドバンテージとなる存在と言えるでしょう。
それ以外の前回5区出走選手
立教:山本(73:23)
中学:柴田(73:36)
國學:上原(74:11)
日大:大橋(74:40)
帝京:尾崎(75:05)
立教と中学は、ある程度で走った経験のある選手がいます。特に立教は、全日本でシード獲得と勢いに乗っていて、63年ぶり(!)のシード獲得に向け、山本選手の存在は大きいと思います。中学も、今回がここ数年では最も戦力が揃った年であり、久しぶりのシード獲得のチャンスの年なので、柴田選手の役割は重要です。
5区経験のある選手
駒澤:山川選手
前々回の5区を70:45で走っている山川選手も前回、私の記事で「山の神レベルで走る」と予想した5人の選手の1人でした。しかし、山川選手は5区に出場しませんでした。全日本大学駅伝後に股関節に痛みが出て、その治療に専念するため負担の大きい5区を回避、痛みが治った状態で当日は4区に登場しました。しかしレース中に故障を再発して区間6位と平凡な結果に終わってしまい、青学の独走を許す結果となっていまいました。
今シーズンは、昨シーズンの故障の原因を調べて身体の使い方を根本から見直し、弱い筋肉を集中して鍛えて筋力のバランスを整えてたりしたそうです。それが功を奏して走りもさらにパワーアップ、出雲は3区区間2位、全日本は8区で区間賞とエース区間で快走しました。特に全日本の走りは圧倒的で、2分半以上あった先頭争いとの差を1人で詰めて青学を抜き、優勝した國學を28秒差まで追い詰めました。この走りは恐ろしささえ感じさせられました。この走りで2年ぶりに挑む箱根5区、当然大きな躍進が期待されます。彼も区間記録更新は十分に狙えるでしょう。
中央:阿部選手
阿部選手も去年の記事で「神レベル」と予想した5人のうちの1人でした。しかし阿部選手も5区を走りませんでした。というか、前回の中央大学は箱根直前にエントリーメンバーの殆どがインフルエンザに感染、とても戦える状態ではなかったとの事です。(なので前回の事は全く何の参考にもなりません。)
それで、今年ですが、予選会では全体36位とまずまずの走り(阿部選手の本来の実力からすれば物足りないですが)をしましたが、全日本ではアンカーで失速、調子がどうか心配な状態です。MARCH対抗戦も2組での登場(エースクラスの阿部選手は普通なら4組出場)、さすがに組トップをとって格の違いは見せましたが、まだ速い組で走れる状態ではなかったと思われます。
ただ、前々回は70分台で走っていますし、その前も71分台と山登りの力は安定しています。復調すれば中央にとって非常に頼りになる存在である事は間違いありません。
出走する選手が不明な大学
國學院大学
國學院大学の誰が5区を走るのか、は、第101回箱根駅伝において決定的に重要です。というのは國學院大学は優勝候補で、前哨戦の出雲・全日本を連勝している最も勢いのあるチームだからです。しかし、その國學院にとって優勝への最大の障壁と思われるのが、この5区の攻略です。
というのは、國學院は元々5区を苦手としていて、しかもここ数年は特に苦戦しているからです。(5区で良かったのはチーム一番手のエース浦野選手を投入した95回、96回くらいと言えます。)前回も、優勝した青学に5区だけで4分半以上の遅れをとりました。今回、優勝を争う青学・駒澤ともに5区に有力なランナーがいるだけに、國學優勝のために、前回ほどの差を開けられてしまうとそれだけで終戦と言えます。
候補としては、前田監督は「平林、上原、高山、飯國のうちの誰か」と明言していました。
平林選手が5区を走ったなら、区間賞争いはすると思います。大阪マラソンでも出雲6区でも上り坂でスパートし逃げ切った事から分かるように、彼は登りが得意です。その上、学生No1のロード力を持っているので、5区でも区間賞争いはするでしょう。ただし、平林選手を5区に起用すると、その分、2区で後手を踏むと思われます。
前回走った上原選手は実力ある選手ですが、前回74分台かかってしまった選手がいきなり今回、3分以上タイムを改善できると期待するのは難しそうです。高山選手も登り適正があるなら、前回に8区の遊行時の坂をすいすい登るなどの活躍をしていたと思います。
という意味では、ルーキーの飯國選手に期待したくなります。ただ、前哨戦の駅伝で活躍せずに山でいきなり快走するのは、過去には吉田響選手くらいで、72分台で走ってくれれば合格点だと思います。また、飯國選手が5区を走ってくれると国学の復路はさらに強力になる、という利点もあります。
國學院の初優勝のためには、5区をどう乗り切るかは非常に重要なので、起用された選手の快走を期待したいです。
城西大学
前回、区間賞だった山本唯翔選手が卒業した城西大学。彼の「山の神」レベルの激走が3位躍進の原動力だっただけに、今回も上位で戦うためには代わりの人材が必要です。しかし、実は城西大学には山本唯翔選手以上の適性を持ったランナーがいます。それはエースの斎藤選手です。
斉藤選手の2年前の激坂王での走りは衝撃的でした。箱根5区の前哨戦と言われたこのレースで、5区の予行演習とばかりに飛ばす山本唯翔選手を追いかけ、残り3分の1で追い抜くと約1分の差をつけて優勝。山本選手以上の登りへの適性を見せつけました。
しかし、斎藤選手は5区ではなく、前回までは2区を任されていました。1年時は区間15位、2年時は区間8位と成長しています。1万mのタイムも27分台に乗せ、平地での走力もエースと言って良い存在になりました。しかし、山本選手の卒業で重要な5区が空いてしまいました。斎藤選手自身は2区にこだわりがあったようですが、チームのために5区を走る覚悟を固めたようです。
斎藤選手が5区を走るなら、当然狙うは前任者が打ち立てた区間記録越えになるでしょう。そして、前任者以上の平地の走力と登りの適性を備えた斉藤選手ならば、それは十分可能に思えます。
櫛部監督のnoteを読む限り、恐らく5区は斎藤選手に任せる事になるでしょう。個人的にも今回の5区で最も注目する選手、大いに期待したいです。
法政大学
前回シードを獲得した法政大学は、ここ2回、5区を担当していた細迫選手が卒業したため、新たな山要員が必要となっています。前回の細迫選手は区間8位と、特に貯金をしてくれていた訳ではなく、ある程度でまとめてくれていただけなので、とりあえずブレーキをせずにまとめてくれる選手がいれば、法政はシードは獲得できるように思われます。
代役として名前を挙がるのは、高橋選手です。彼が細迫選手と同じくらいでまとめてくれれば、法政はシードに近づく事ができると思います。
大東文化大学
前回、久しぶりにシードを獲得した大東も、5区を担当した菊池選手が卒業しました。菊池選手は区間4位・61:41で走り、大東のシード獲得の原動力となった選手です。大東の連続シードの為には、今回走る選手も同じくらいの活躍が求められます。
こちらの記事を見ると、5区候補としては、主将の西代選手と、夏合宿の上り坂でチームトップだったルーキーの中澤選手が挙げられるようです。
区間賞候補は?
私が思う5区区間賞の最有力は、城西・斉藤選手です。
斉藤選手は上り坂の適性は前任者以上でかつ、エース区間で実績があるという、これまでの山の神3人に共通する特徴があります。「エース区間で戦える選手が山の適正が高かったらどうなるか」を体現したのが3人の山の神だった訳で、それに最も当てはまるのが斉藤選手だと思います。
もっとも、駒澤・山川選手と創価・吉田響選手もエース区間で実績をあげてきました。ただ、この2人は過去に5区を走っているので、だいたいどれくらいで走るかの想定はつくと思っています。恐らく69分を切れるかどうか、くらいだと思います。それでも物凄いタイムではありますが、今年のレベルだと、それでは「山の神」にならないと思います。というのは70分を切るのが5人居たなら、69分を切ったとしても、4校とは1分以下の差になっちゃう訳ですので、それでは過去の山の神のようにぶっちぎりで走って1人でゲームを変えてしまう活躍にはならないでしょう。斉藤選手は過去に5区を走っていないので未知数の部分はありますが、前任者より1分上回ったなら(激坂王で1分上回っていますし、1万のタイムも相当上げてきていますので、あり得ない想定ではない)、さすがにそれを上回る選手はいないと思っています。
ただ、青学・若林選手は前回70分を切っていて、今回さらにタイムを上げてくるでしょう。早稲田・工藤選手も70分を切る可能性は大きいと思います。今年こそ、70分切りが5人くらい出る、史上最高レベルの戦いになるのではないかと思います。
というか、5区を70分切り(つまり山の神レベル)で走る事が上位争いの条件のようになるかもしれません。
2区の記事でも「エースが高レベルに対応する事が上位争いやシード争いに参加する足切り試験になる」と書きましたが、5区でも似たような状況になりつつあるようです。箱根駅伝のレベルアップは、ここまで恐ろしいレベルになってきていると思います。