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sounds and silence~ECM records サウンズ&サイレンス~ECMレコード (2009)

ドイツの音楽レーベルECM。その創始者であるマンフレット・アイヒャーが各地を旅しながら、レーベル所属アーティストのレコーディングやライブパフォーマンスをプロデュース光景を中心に収めたドキュメンタリー。

マンフレット・アイヒャー


この映画は海外で十年以上前に公開され、僕もDVDで持っていますが、初の日本公開なので、映画館でじっくり観たくて行ってきました。
ECMと言えば、ブルース色を排し、ニューヨークの夜のタバコの煙とは、無縁の透明感のあるジャズの作品を長く発表し、美しく統一感のあるジャケットのアートワーク共に、
彼がモチーフとする「沈黙の次に最も美しい音(The Most Beautiful Sound Next To Silence)」を捕まえる試みは、現代音楽やクラシックの音楽の新たな解釈を試みる「New Series」に発展していますが、そんな彼のアプローチが映像に残されたことは素晴らしいと思います。
映画は、レーベルの経営を軌道に乗せたチック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエバー」やおそらくレーベル最多レベルのリリースを誇り、日本でも「ケルンコンサート」などが大人気なキース・ジャレットなどが誰でも思い浮かびます。また、ノルウェーのレインボー・スタジオで録音された北欧アーティストの作品群もレーベルのイメージに大きく寄与していますが、この映画もそんなパブリックイメージをベースに回顧的にレーベルの歴史語られると思いきや、そのような話はほとんど語られず、エストニアの宗教音楽家アルヴォ・ベルトの教会での録音風景から始まり、

『タブラ・ラサ』 ギドン・クレーメル、キース・ジャレット、ベルリン・フィル12人のチェリストたちが参加した「New Series」第一弾

ギリシャ人映画監督テオ・アンゲロプロス作品のサウンド・トラックを長く手掛けたエレニ・カラインドルー、

『こうのとり、たちずさんで』(1991年 監督・脚本 テオ・アンゲロプロス
/ 音楽 エレニ・カラインドルー)


チュニジア出身のウドー奏者アヌアル・ブラヒム、

Le Pas Du Chat Noir/アヌアル・ブラヒム


クラシックの古典から現代音楽まで、レパートリーが少ないヴィオラ奏者として、積極的に新作の録音やアンサンブルのプロジェクトを立ち上げるキム・カシュカシャン、

アストゥリアーナ ソングス・フロム・スペイン&アルゼンチーナ/ キム・カシュカシャン


最近来日した自らの音楽をリチュアル・グルーブ・ミュージックと呼ぶニック・ヴェルチェなど、

リリア/ニック・ベルチェ:ローニン


彼が、西欧と東洋の間というような“周縁の音”やトラディショナルな音楽の新しい解釈を試みるミュージシャンとの録音風景と移動中に飛行機の窓から見える光景が映し出されます。
ECMとは創始者Manfred Eicherの名前からとられたととのことで、のちにEdition of Contemporary Musicという意味も加えられており、正に今回のラインナップは、未来を向いた現代の音楽が、マンフレット・アイヒャーという類いまれな耳の持ち主で、強い音楽への情熱と自らの考えへの揺るぎない信念が、音が音楽になる瞬間を捉える様が映し出されます。

そして、この映画を観て思い浮かんだのは、夭折のジャズ・ミュージシャン エリック・ドルフィーの「音楽は終わってしまえば消えてしまい、二度ととらえることはできない」という言葉でしてしたが、マンフレット・アイヒャーは、身を削るような集中力で記録しようとしているのかもしれません。


Original Soundtrack


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