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R.I.P.ジーナ・ローランズ グロリア/ジョン・カサヴェテス監督(1980)
偶然逃走してしまうことになる、元ギャングの情婦の中年女性と組織への裏切りで、父を亡くしたラテン系の子供が親子、いや相棒のように心を通じ合う物語であるというストーリーラインのこの映画をよりカサヴェテスたらしめている理由は、舞台とその描き方ではないかと思います。
彼の映画の多くが、どこの場所で、描かれたかを強く意識させることが多く、「こわれゆく女」のような家の中(多くは階段があるカサヴェテスの家)や「オープニングナイト」のような演劇の舞台や「チャイニーズ・ブッキーを殺した男」ような場末のクラブのような“密室”の場合もあれば、夜の街を歩き回り、ロンドンまで行ってしまう「ハズバンズ」のように街を舞台にする作品もありますが、この映画は、彼のデビュー作「アメリカの影」以来、ニューヨークが舞台となっている映画です。
オープニングから、ブルックリン橋、自由の女神、ヤンキースタジアムなど、ニューヨークの観光名所をカメラは順に捉えますが、南北に細長いマンハッタンは、その後描かれ中年女性とラテン系子供の逃走経路でもあります。そして、逃走に使われるのは、タクシー、バス、地下鉄という“公共交通機関”。車両にカメラを持ち込んだ、臨場感とスピード感。タクシードライバーやバスや地下鉄の乗客の表情も描かれるとともに、撮影がされた70年代後半の雑然としたニューヨークの街並みを楽しむことができます。
もちろんピストルを構えたポーズ、大振りのサングラスをかけると突然大女優の風格を漂わせるジーナ・ローランズのたたずまいのカッコよさは言うまでもありません。
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この映画が撮られたNYは、ニューヨーク・パンク~ノー・ウエーブと音楽的にも先鋭な新しいアーティストが出てきた時代でもあり、そんな猥雑で混とんとした中で、新しいものがものが生まれてきていた時代に訪れておきたかった場所です。
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