ロンドン愛な僕が大好きな映画を再見。ひかりのまち（Wonderland）/マイケル・ウインターボトム監督（1999）
大好きな映画を再見。何が好きかというと、まず多くの人物が登場し、彼らそれぞれが、孤独と不安を抱えながら、ストラグルしながら生活し、その人生が交錯しながら、ストーリーを紡いでいく群像劇であること、そんな登場人物たちや彼らの生活を優しくメランコリックに包みこむようなマイケル・ナイマンの音楽、マイケル・ウインターボトム監督（は僕と同年代であり、70年代後半から、80年代前半かけてのティーンエイジャーから20歳代前半にかけて、パンク、ニューウェーブの空気感を共有した世代に通じ合える何か、そしてなによりも、ロンドンの街とそこで生活する人々がリアルに描かれていること。
［私はナディア。27歳、趣味は音楽。スポーツ、ダンス、散歩も好き。身長175センチ、髪は栗色。瞳はブルー。友人から始めたい人募集します。もちろんロマンスの可能性も。。。］そんな伝言ダイヤルのメッセージから始まるこの映画。ロンドンはソーホーのカフェで働くなナディアは、3人姉妹と弟がいる家族の次女で。姉はバツイチ子持ちで美容院で働き、自分の用事があるときは、どうしようもない元夫にも子供の世話をさせる。三女は、妊娠中にも関わる夫は勝手に仕事を辞めてしまい、下の弟も家出中。
そして、彼女達の両親が住むのは、ブリクストンの公営住宅。南ロンドンのブリクストンと言えば、ザ・クラッシュの歌に［ガンズ・オブ・ブリクストン」というレゲエ調の曲があるように西インド諸島からの移民が多く住む治安の悪いと言われる地域。つまり、この家族も決して裕福な人たちではないことがわかります。そういう面では、ケン・ローチ、マイク・リー、ショーン・メドウスなど、イギリスの労働者階級を描いた［キッチン・シンク・ムービー］的テイストもあります。
ロンドンの街、カフェ、バーではエキストラを使わず、実際、その場にいた客に承諾を取りながら、ハンディカメラで最小限のスタッフで撮影された映像は、あまり綺麗でない石畳を多くの人たちが、集まり思い思いに過ごす正にロンドンのソーホーの夜の光景。
マイケル・ナイマンのサウンド・トラックは、［ピアノ・レッスン］やピーター・グリーンナウエイの映画での、登場人物の運命やどうしようない宿命をドラマチックに伝えるというものとは少し違い、日常のメランコリックな登場人物のそこはかとない希望や哀しみにより層とともに、大観衆のサッカースタジアムや大勢の人が集まる場面では、大人になった時、ふとした時に思い出す子供の頃のノスタルジックな記憶のように鮮烈な印象を残します。
終盤、三女に赤ちゃんが生まれますが、その名前はアリス。［不思議の国のアリス］の命名のようで、原題Wonderland＝不思議の国とは、ロンドンであることを観るものは知ることになります。
18世紀の文学者サミュエル・ジョンソンは言ったそうです。「ロンドンに飽きた者は人生に飽きた者だ」
今回の映画のために制作されたパンフレットを手帳サイズのもので、中には映画に出てきたシーンを指した地図がついており、ロンドンへの観光客の必須アイテムである［London A to Z］を思わせせるもので、The Kinks やThe Jam しかり、ロンドンのご当地ソングが大量にありますが、そんなことも思い出させてくれるロンドン好きにはたまらない如何にも英国的な映画です。
