呪いの臭み
掃除を九年間サボり続けたせいで、俺は箒夏樹に呪われた。
呪われてから、身体が勝手に掃除をし、海を綺麗にしてしまう。
不快だ。
何が掃除だ。
掃除をしたら床は綺麗になるけれど、俺の心は一つも綺麗にならなかったじゃないか。
それに掃除しても無駄なくらい、大人の心は汚れきっている。
毎日、穢れたシーツを汗だくになって掃除していた母さんに周りの大人たちは何をした?
「宮島君家のお母さんって、ラブホっていう汚いとこで働いてるんだよね?」
「お母さんが宮島君とはもう遊ぶなって言うんだ、ごめんね」
って無邪気な奴らに、汚い言葉を言わせたの誰だよ?
お前たち大人じゃねえか。
だから掃除なんてしたくなかったのに、
ああやって自分の周りの海だけでも綺麗になってくれるのって気持ち良いんだな、母さん。
俺自身は嫌な臭みが纏わりついているけれど、誰かのために汚れるのって案外悪くないな。
そしてまさかこうやって呪われて臭みがついた俺をさ、丁寧に処理して、食べてくれようとしているのがさ、母さんで良かったよ。
牡蠣
◇
余談1
牡蠣は海の掃除屋とも呼ばれている生き物で、1日300リットルもの水を牡蠣一匹で濾過してしまうと言われているそうです。この濾過の過程で、餌になるプランクトンと一緒に汚れも取り入れてしまい、それが牡蠣の臭みの原因になるそうです。
余談2
shodaiさんのこちらの記事を読んだのが、このショートショートを創るきっかけになりました。
本当は、鹿男あをによし、のように呪われて鹿になった人の話を書きたかったのに、気づいたら牡蠣の話を書いていて、きっと僕も夏樹に呪われてしまったのだと思います。ああ、牡蠣食べたい。
創作のきっかけにもなるような、素敵な旅行記をshodaiさん、ありがとうございました。
終
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ここまで読んでいただきありがとうございます。