雪化粧
雪化粧した町はとても静かです。建物に積もった雪は白いままですが、運悪く地面に堕ちた雪は黒く汚されてしまいます。ありとあらゆるもの、自動車、自転車、革靴、長靴、ブーツ、犬、猫、烏なんかに踏まれてしまいます。ただ堕ちてくる場所が異なるだけでどうしてこうも違うのでしょう。黒になった雪は嘆くでしょう。
しかし一方で白い雪もまた嘆いているのです。誰に踏まれる訳でも無いし、黒に汚される訳でも無い。それどころか、綺麗だね、と持て囃される。他から見たら随分満たされている。満たされている事は白い雪も重々承知しているのに、溜息は出るし、涙も流れてくる。何が悲しくて何が辛いのかすらわからない。こういう状況を絶望と言うのです。
絶望の世界にまた新人の雪が深々と堕ちてきました。
雪化粧された町の古びたアパートの部屋の隅では人が人と強く抱き合っています。
絶望の中でも人は人を愛したいと思ってしまうようです。愛し続けたいと願ってしまうようです。
愛と絶望の町は雪化粧して静かです。
終
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雪化粧と検索したら松山千春さんの『雪化粧』が出てきたので、雪化粧を聴きながら書いてみました。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。