うまれかわり
初めて髪を染めたのは大学生の頃だ。昔から憧れていた人魚姫に因んで赤に染めたいと、このときを待ち詫びていた。赤色なんて目立つから辞めなさいと親に言われたが、私は目立ちたいから構わないとあしらった。
見た目に似合わない乱暴でガサツな性格を取り繕うべく私は生きていかたが、それでも根本は変わってなどいない。常に劇的なドラマに焦がれ、自分は何かの主人公になると思い込んでいた自己主張ばかりが強い子供の性根は。長いこと封じ込め生涯貫く表の顔でも、せめて髪だけは自分を晒させてもいいだろう。そんな反抗的な気持ちを携えて、私は髪を染めたのだ。
三回重ねてブリーチをした髪が真っ白になったのを覚えている。感動のままに色を入れていないその髪に触れたとき、指先で髪が毛玉のように屑となり崩れた。思わず引き攣った顔をして、美容師のお兄さんに「色を入れたら大丈夫だから」と笑われてしまった。あのときは確かにショックだったが、それ以上に今から生まれ変わるのだと胸が高まった。抜け殻が脆く砕けるのと同じだ。蛹が中で一度溶けるのと同じだ。私は少しだけ、生まれ変わるのだ。浮かれ気分のまま、髪は変貌していく。真っ赤な染色で作り物のように入れ替わる。全て終えたとき、鏡に映る私は、まるで別人のようだった。
店を出てすぐ、道行くおじいさんが私に手を振ってきた。理由はわからない。多分、余りにも鮮やかで異彩を放つ髪をしていたからだろう。本来なら恥じらい目を逸らすだけだったが、そのときは思いっきりのいい笑顔で振り返した。初めて染めた日はこんなにも煌めいていて感動的だった。だから何度だって色を変えた。赤、青、紫、ピンク緑……色々な私に生まれ変わったあの瞬間は今お思い出しても心躍るものだ。