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安藤礼二教授のイラン旅行記〜「シルクロードの先に日本が見えた」
9月に2週間ほどイランを旅した多摩美術大学芸術学科教授の安藤礼二氏に、現地についての話を聞いた。「シルクロードの先に日本が見えるような感覚を覚えた」という。
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羽田空港から安藤教授が出発したのは、9月8日だった。イランへは、タイとカタールの空港で乗り継いで向かったため、空港での待ち時間も含めて到着までに24時間以上かかったという。
今回、イランへ向かった目的は、建築家の磯崎新氏が中心となって行う『間』展をイランで開催する準備のためだった。初めてイランを訪れた安藤教授は、その場所だからこそ味わえることが多くあったと語る。イランでは、首都テヘランから、イランの北端に位置するタブリーズ、さらには南端に位置するシーラーズを巡った。
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「本当に昔のシルクロードようだった」
三つの都市を周る中で、イランは「国」というよりも、「道」のようだと感じたという。砂漠の中にあるオアシスからできた都市がつながってシルクロードになっていることが、移動を通して実感したからこそ分かったのだ。シルクロードというと中国のイメージが強いかもしれないが、ヨーロッパと行き来するにはイランを通過しなければならない。アジアとヨーロッパをつなぐ重要な場所に位置しているのがイランなのだ。安藤教授は、「シルクロードの先に日本が見えるような感覚を覚えた」という。
安藤教授のイラン土産は、スパイスの効いた甘く独特の風味のあるお菓子だった。初めて食べるようなその味からは、シルクロードを通じて日本とつながっていることが信じられなかったが、ザクロやスイカといった果物が多く取れるという点が共通していることを聞くと、うっすらと道が見えてきたような気がした。イランは、食事量が一番多いのが昼という文化で、安藤教授はいつも昼はケバブを食べていたという。
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イランの天気はずっと晴れで、湿度は常に0%だったそうだ。そして、北のタブリーズと南のシーラーズでは気温がまったく違っていたという。タブリーズでは、高く仰ぎ見る山の上には雪が積もっていて、気温は26℃ほど。一方、シーラーズでは、47℃になることもあったという。また、昼夜の気温差が大きかったという。夜になると砂漠は真っ暗になり、都市があるオアシスだけに光が灯るさまは、まるで海のようだったそうだ。
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「砂漠の風景は、とにかく凄まじかった」
砂漠の中に、都市が突如として切り開かれるさまや海のような巨大な蜃気楼を目にしたときは、「ここでしか見ることができないものだ」と感じたという。
旅の中では基本的にトラブルはなかったが、イランでの経済制裁の影響によりクレジットカードが一切使用できず、ドルを現地で両替する必要があったのに、両替がすぐにはできない状況で、大変苦労したそうだ。
イランでは、日本では経験できないような自然の過酷さを味わうことができる。そんな土地を通る「道」によってヨーロッパから日本に運ばれてきた文化があったことに思いをはせるのもまた感慨深く思った。
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取材・文=後藤紗絵
撮影(*)=友永理子
写真提供=安藤礼二
安藤礼二(あんどう・れいじ)
1967年、東京生まれ。 文芸評論家、多摩美術大学美術学部芸術学科教授。 早稲田大学第一文学部卒業。 大学時代は考古学と人類学を専攻。 出版社の編集者を経て、2002年、「神々の闘争──折口信夫論」で群像新人文学賞評論部門優秀作を受賞、文芸評論家としての活動を始める。 『神々の闘争 折口信夫論』(講談社、2004年)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、『光の曼陀羅 日本文学論』(講談社、 2008年、現在は講談社文芸文庫、2016年)で大江健三郎賞と伊藤整文学賞、『折口信夫』(講談社、2014年)で角川財団学芸賞とサントリー学芸賞を受賞。 他の著書として『大拙』(講談社、2018年)、『列島祝祭論』(作品社、2019年)、『迷宮と宇宙』(羽鳥書店、2019年)、『吉本隆明 思想家にとって戦争とは何か』 (NHK出版、2019年)など、監訳書として井筒俊彦『言語と呪術』(慶應義塾大学出版会、 2018年)がある。