立憲民主党代表選に所謂「隠キャ」が想起してしまう心の傷について
学生時代、特に中学校時代などはクラスってのが宇宙のすべてだった。
ぼくが居たのは何となくクラスでのプレゼンスが低い連中が集まっている集団。
真面目、勉強ができるやつもいるけれど、真面目なくせに勉強ができないやつも結構いる。兎角何事にも活躍ができず、総じて陰気な印象。
ぼくたちにはいつも不本意ながら『隠キャ』という称号が与えられ、基本的に「まともにとりあってもらえない」という連中だった。
対して『陽キャ』というやつらの軍団がいて、顔が良くて感じがよいやつ、バカだけど明るい奴、スポーツのできるやつ、勉強のできる家柄のいいやつ、愛される問題児、なんかが集まっている。なんとなくプレゼンスが高く、学級委員長をやらせても、文化祭を主導させても結構うまくいく。いや、そいつら以外にそれらを担うイメージを全員が持っていない。
「陽キャにあらずんば人にあらず」という感じだ。
隠キャ軍団は陽キャ軍団が作るクラスの空気に耐えがたいものを感じているが、クラスでのイニシアチブをまったく握れていないので、空気を変えることができない。
不良もいる。
クラスの運営にはかかわらせてもらえないけれど、恐れられているし、弱弱しい隠キャのことは心底バカにしている。学校の外に出るとなかなか怖い存在だ。
明るくなろうと頑張っている隠キャたちも数人いる。
この者たちは母体である隠キャ軍団をバカにする。
バカにすることでまるで自分が明るくなれるみたいに。
エキセントリックな変わり者が何人かいて、学校に来ずに悪さばっかりして退学になるやつがいたり、あと、まあ、日教組の先生がいたり、だ。
隠キャの我々の中では議論がある。
「このクラスの空気はよくない、僕たちがイニシアチブをとるにはどうしたらいいのか」
「このままじゃいけない」
「よくない。でもどうすればいいかわからない」
「やっぱりもっと頑張って明るくなるしかない、変わるしかない」
頑張って明るくなる、である。隠キャも甚だしい。
或いは
「そりゃあ、数的には不良たちと一緒にやるしかない」
「いや、不良と一緒になったりしたら我々の望むクラスにならない」
「じゃあどうする」
「やっぱりここは先生との連携をもっと深めて協力して」
「そんなダサいことできるかい、そんなんやからいつまでも隠キャやねん、ここはやっぱり不良と手を結んででも」
「いや、それやったらあのエキセントリックな連中とやな」
「いや、さすがにそれはやな…」
そういう議論をしているときについつい声を荒げたり高い声で口げんかになったりして、陽キャの人々に「また隠キャがなんかいっとるわ、おいおい、あんまり揉めんなや」と嘲笑をされる。
不良には「ダサいねん」と言われる。
エキセントリックな連中にも「おもろないねん」などと言われる。
散々である。
隠キャ軍団の中のリーダーが誰になるか、誰がイニシアチブをとるのか、クラスのみんなの興味はない。
ただまったくない、というわけではない。
ただただ「さあさあさあさあ、隠キャがなんかやりだしたぞ、隠キャのリーダーが変わるらしいぞ、どんな風にバカにして盛り上げてやろうか、面白いことを言ってやろうか」としか考えていないのだ。
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立憲民主党の代表選挙の話題が、自民党総裁選の付け合わせみたいに紹介されているのを観るたびに、学生時代の思い出が脚色されてねじ曲がり、頭の中に、上に書いてきたようなクラスの風景が広がる。
どうにも同情を禁じえない。
ああ!一介の何の力もない市民に同情を禁じえない、だなんて書かれるなんて、なんてことだ。今を時めく野党第一党が、である。
本当にかわいそう。
なんかどうにかみんなもうちょっとまともに取り合ってあげてほしい気持ちだ。
集団でまともに取り合ってもらえない、ひとくくりにされてバカにされることのやりきれなさに苦しんだ学生時代であった。
隠キャ同士の連帯もうまくいっていなかった。
お互いがお互い心の底では「俺はあいつよりもまともだ」と思いあっていた。
…書いていて涙が出そうになるな…悲しすぎることだ。
でも明るくもないし、陽キャ奴らが面白いと言っていることを面白いと思えないし、運動もできないし、顔もよくなくて能力もないから陽キャ転はできない。
その集団にいるしかない、という状況で、集団でまともにとりあってもらえない。
多分立憲民主党の人々は、きっともっと崇高な理由で、そう信じたいよほんと、そういう理由でその集団を意地でも出ることができない、という場合があるだろうと思うのだ。
それを考えると、別に全然立憲民主党を支持しているわけではないけれど、何か青春の心の傷をえぐる構造で、どうにも耐えがたいのである。
いまだ陰キャを脱せぬ僕にできることは何もない、というのが残念である。
うーむ。この文章も彼らをバカにしていることになるのだろうか。