「ええ試合をしてくれたらそれでええんよ」


自民党総裁選が盛り上がっていない。
結果がわかっているのだそうだ。

ちなみに僕は選挙が好きなのだけれど、別に特定の政党を応援している感じではない。

夏休みに高校野球を見ている祖母に「どっちが勝ってほしい?」と聞いた時に「ええ試合をしてくれたたらそれでええんよ」と答えたが、選挙に関してはまさにその心境だ。

良い選挙、良いドラマを見せて欲しいのだ。

はっきり言って国のことなんて知ったこっちゃあないのである。

政治が変わったって僕の忘れ物が減るわけでもなし、飲み会で喋れるようになるわけでなし。
政治が変わったって僕は変わらないのである。

そりゃあ政治が変わることによってなにがしかが劇的に変わる、あるいは政治が変わらないことによって劇的に生活が楽しくなる、という人が居ることもわかる。
その人たちの意見を見聞きしてそういう人たちによかれと思って投票をすることはある。
でも別に僕自身は政治に何の期待もしていないのだ。
どのみちうまくはやれないんだから。

そういう意味で当事者ではないので、生まれるドラマだけは楽しませていただいている、とう塩梅だ。

政治の世界にはおじさんが多いのがいい。

おじさんばかりで政治をしているせいで起こっている弊害は確実に、悲しいくらいにあるだろう。
それはまた別の話として。
今は僕の趣味の話。純粋なドラマとして、の話だ。

僕はおじさんのドラマが好きなのだ。
「仁義なき戦い 代理戦争」という映画が大好きなのだけれど、これは完全におじさんのドラマだ。
この映画、シリーズ第三作なのだけれど、第一作第二作は若者の成り上がり、成り下がり、ぶち殺されドラマなのに対し、この「代理戦争」はある程度地位を築いたおじさんが立場を守る、あるいはもうチョイ権力を得るためにこそこそしたりする映画なのだ。
これがどうも楽しい。
権力を守るときおじさんはいい顔をする。
権力を失った時のおじさんはもっといい顔をする。
立場が無くなって泣きそうなおじさん。
裏切るかどうか迷うおじさん。
立場の変化で急に偉そうになるおじさん。
いろんなおじさん。
「仁義なき戦い 代理戦争」にはそういうおじさんの顔が目白押しだ。

僕が政治に期待しているのはそこなのだ。
おじさんのいい顔。
そういう意味では今回の総裁選、顔はかなりいい。
三者三様。いい顔だ。
演説の調子も個性が出ていていい。
立場の差もかなりいい。
実務型ナンバー2と、禅譲を待つ男と、永遠の反主流。

そういう意味では僕の気持ちは盛り上がっている。
結果を予想する、という盛り上がりはないにしろ、だ。
この三人の個性が日本の頂点でぶつかり合うというのが心震わせるのである。

先ほどの高校野球の話ではないが、たとえ20-3の本来コールドで決着がつくような試合でも、動きのすばしっこいセカンドのダイビングキャッチにはほれぼれするし、滞空時間の長いホームランにも、ものすごい弾丸ライナーホームランにも感動をする、9回の表2アウト、サードごろで激走してセーフに届かないヘッドスライディングをする代打で出てきた3年生の背番号18番にだって涙が出る。
選挙にだってそういう瞬間があるのだ。

僕の思い出の選挙に2013年の参院選がある。
この選挙の京都選挙区のしんどう伸夫氏という候補者が出ていた。
打出党という党を組織し、アベノミクスの向こうを張って「ウチデノミクス」を標ぼうしている、ということは選挙ポスターで知っていた。
この候補の政見放送が素晴らしかった。
語り始めが「私は、そのままマイケルジャクソン、しんどう伸夫でございます」だ。
僕は一気に心を掴まれた。
続いて飛び出したのは打出党党歌「打ち出の小づちふりゃ、ざくざーくざーくーよー」
などという中々の珍歌(僕は未だにこの歌を鼻歌してしまう。妻に怪訝な顔をされる)だ。
これはファンキーな候補だ、と思ってみていると、最後の最後、歌も歌い、演説もし、正直しんどう氏も息が上がっている。
その中で
「どうか、私、このしんどう伸夫に、大量得票を、お願いいたします」

そう言って頭を下げたしんどう氏、頭を上げたしんどう氏の顔は、目は本気だったのだ。
おちゃらけているわけではない、自らの主張を伝えるための政見放送、考えて考えて、これで行くと決めて、なんとか政策を伝えて圧倒的不利な選挙戦で大量得票を得ようとする一人の男の戦いの炎がその目にはしっかりと宿っていたのだった。
僕はその姿を見て本当にボロボロと涙が出てきたのだった。切ないのか、悲しいのか、風車に立ち向かうドン・キホーテを観たのか。
でも最終的には「かっこいい人だな」という感慨だった。

そういう瞬間を僕は選挙には期待している。
あれほど心揺さぶられることはないにしろ、橋本龍太郎氏の「ちきしょう」とか、土井たか子氏の「山が動いた」とか、選挙というか国会決議だけれど、加藤の乱の時の谷垣禎一氏の「加藤先生、大将なんだから」とか。
ああいう瞬間に立ち会いたい。
もう「姫の、トラ退治」程度でもいいから。

多分素晴らしい人たちが言っている「もっと政治に関心をもって」ってこういうことではないんだろうなあ。本当に申し訳ないことだ。全く。

演芸界の素敵だと思っている先輩方が総裁選をテーマに創作されていたのに触発されてこの記事を書きました。
僕も年季明けしたらどんどんやっていこうと思います。
多分何もしないよりも政治に対して不真面目な感じになるけれど、仕方がないよなあ。

今日はその動画たちを紹介して記事を終わります。

旭堂南鷹先生「菅義偉物語」

半沢歌舞伎の息吹を感じる菅義偉の大迫力独白。無茶苦茶笑いました。


月亭太遊兄さん「沖田君の展望」

まさか岸田氏に非常によく似た境遇、しゃべり方のキャラクター・沖田君がラストをかっさらうとは思いませんでした。やっぱり岸田氏のしゃべり方ってかなり面白いよなあ、と改めて思いました。


ぜひご覧ください!

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