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母の「大丈夫や」がほんとに大丈夫だった受験の話

「このチョコはフェアトレード商品やん♪」
「ほら、このマーク」
嬉しそうに語る中3長女。

これがそのマークつきのチョコ

なんそれ?
わたしは知らなかった。

フェアトレードとは、途上国の生産者と先進国の消費者が対等な立場で行う貿易で、貧困の解決や南北の経済格差の解消を目的としています

Search Labs | AI による概要

最近始まった取り組みかと思えば…フェアトレード商品が販売され始めたのは、1947年頃だというから自分の疎さに驚く。

無知なわたしはさらに尋ねる。
「誰か作ったん?それ?」
「NGOの人やで」

長女は不当な労働がいかに残念なものであるかを教えてくれた。
なんだって良いことの背景には課題が潜んでいるものだから何でもかんでもフェアトレード商品がいいっしょ?ってなわけにはいかないということも教わる。

へーとかホーと聴きながら
君はまだ労働をかじってもいないのに働くことの意義について熱く語れるほど成長したのかと…説明を受けながら小さな感動が心をかける。

そんな長女と今日は大本命の公立高校のオープンスクールに行ってきた。

やはり現場の空気を吸えばこの高校に入学したいの士気が親子共々あがる。
わたしもこの高校に入りたいと思った。

それぐらいい高校だった。
高校生らしい健全さを全身から放つ明るくて清潔感漂う礼儀正しい在学生らが受け付けから会場へと親子を誘ってくれる。
来年、長女もこちら側の人間になっていて欲しいと強く願った。

高校受験が子どもにとっての人生の最初の試練ではなかろーか。大袈裟かもしれないけどそう思う。

親の力技でどうにもならない範疇。
もちろん親としてのすべきサポートはあるが子どもの力で初めて開く扉。

その扉が自分の思う方向に開く成功体験を味わって欲しいと願う親心。

そんなことを考えていたらふと、自分の高校受験の時のことを思いだした。

かなり早い段階から行きたいと決めていた憧れの高校があった。

が、志望高を決定する最後の個人懇談で塾の先生には絶対に無理だと言われた。それどころか勉強諦めたら?とでも言わんばかりにまったく行きたくない高校のスポーツ推薦枠を頑なに進められた。その場で涙がこぼれないように奥歯をずっと噛み締めていた。

その日の夜、いても立ってもいれなくて苦手科目の英語の参考書が焦げるような勢いで闇雲に解いていたら涙がどんどん出てきた。
涙でアルファベットが読めなくなって最後にはぐちゃぐちゃに濡れた顔ごと参考書に覆い被さるようにして大泣きした。

その時、そっとドアが開いた。
懇談の間も、帰宅してからもずっと無言だった母の気配を背後に感じる。

泣き崩れる私の肩に手を置いて
「お母さんは絶対受かると思う」
「大丈夫や」
と言った。

母はいつも「大丈夫や」と言う人。
全然大丈夫じゃないことにも全部大丈夫やでわたしは育ててくれた。
42歳になった今でも、母に未だに大丈夫やと言わせる情けない娘でごめんよ…。と思うけど。
根拠の無い母の大丈夫やがいつも聞きたくて、好きだった。

中学生だったわたしは流石に今回の大丈夫や!には抵抗した。

顔も上げずに母に言った。
「先生が絶対無理っていったもん」
「だから無理や」

「大丈夫や!」
それでも母は大丈夫やを辞めない。

もう15歳のわたしの心はめちゃくちゃにかき乱れて、
「そんなに大丈夫なんやったら、裏金で入れるっていったら、五百万でも払ってくれる?」

ありえない裏口入学ルートまで焚き付けて母にそれでも大丈夫なのか?と訴える?

「大丈夫や」
「何百万でも払うで」

「だけどな、お金払わんでも行ける大丈夫や」

最後まで大丈夫やを貫く母。
きっと泣きたかったのは母の方だろう。

自分が今、長女に同じようにされたら泣いてしまうもの。裏金を要求するほど追い詰められてる娘の姿に耐えれる気がしない。

肩に置いてくれた手と大丈夫やを最後までそのままにしてくれたから、結局志望校を変えずに受験に挑んだ。

合否が決まる日、靴も履かずに慌てて玄関外まで飛びだして受け取った通知は合格の方だった。
それを手にしたときの喜びは一生忘れない。
母が五百万払うなんてばかげた条件を何の躊躇もなくのんでくれたあの晩の思いも。沢山の大丈夫やも。

数日前に長女は裏金まではいかんけど、
さすがわたしの娘だなと思うことを言った。

長女
「受験って、親子で受けれたらいいのに」
「親も勉強して2人の合計点で合否が決まって欲しい」

わたし
「うおー重荷や」
「わたしには無理やで」

そうは答えたけど、1人で挑む受験が余程不安なんだろうと思った。

口では「無理やで」 と、言ったけど…もしもほんとにそんなありえへん受験システムが導入されたら、受験までの残り半年間は死にものぐるいで脳の細胞の隅々が全部目覚めるぐらいそれはそれは命をかけて勉強する。

母の大丈夫やに匹敵する努力を長女に贈るだろう。

残り半年、母加点はないけど頑張るのだ!

今度はわたしが長女に言う番がきた。
「大丈夫や」

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