戯曲『メソポタミア・プロパガンダ・エクササイズ』 裏話
こんにちは!
今回は、先日公開した戯曲作品『メソポタミア・プロパガンダ・エクササイズ』の裏話をします。
作品はこちらから。
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この作品は、先日行われた日本大学芸術学部の学園祭にて上演された、演劇団体ミニ胡麻うりの第二回公演のために書き下ろした作品です。
ミニ胡麻うりの主宰で、今作の潤色、演出、出演までしてくださったハイパーマルチタスクプレイヤーの関口さんは、同じ専攻で学んでいる同期です。
そのよしみで、今回のオファーをくださいました。
私が所属している学科では、学生の演劇団体を自分たちで結成して公演を行なっている人たちがちょこちょこいます。
そういった団体の中には、学外での公演なども積極的にしているところもあります。
つまり彼らは、学内公演や実習課題といった枠組みに囚われない、自由に自分たちのグルーブのムーブでブームをおこしていこうぜという矜持を持った、超クールな集団なのです。
私の思い描いた未来の十歩も百歩も先を行く彼らを、私はただ、スゲ〜かっこいい〜、とひたすら指を咥えて見つめながら三年生まで過ごしてきたのです。
ミニ胡麻うりもそんな超クールな集団のうちの一つでした。
なので4ヶ月ほど前、次回公演のための戯曲執筆の話を聞いた時はものすごく嬉しかったです。
私もあの超クール集団にちょこっと混ざれるんだ!イエーイ!クール最高!という心境でした。
もちろん依頼は喜んでオッケーしました。
しかし、浮かれ気分はそうそう長く続きませんでした。
すぐに事の責任の重大さと難しさを実感したのです。
まず難しいポイント一つ目が、コントを書かなければならないということです。
ミニ胡麻うりは主にコントを上演する団体ですが、私はコントを書いたことがありませんでした。
でも、それだけなら初めてのことにチャレンジするというワクワク心が勝ったと思います。
続けて難しいポイント二つ目が、不条理劇というこれまた私にとって初挑戦のジャンルに挑戦する必要があったことです。
不条理劇というのは、「現代人の不条理性や不毛性を描こうとする戯曲や演劇の手法」のことです(Wikipediaより引用)。
わかりやすく言えば、リアルの生活では全く起こり得ない非現実的なことが、すごくリアルな生活と同時進行している世界観の演劇、みたいなことです。
例えば、居間の真ん中に死体が転がっているけど、その家の家族は何食わぬ顔でいつも通りの日常を過ごしている・・・的な。
そのあたりについては、芸術学部の学生でもない限りふわっと捉えてくだされば大丈夫です。
よくわからないという方は、Wikipediaに詳しく書かれていますので是非そちらをお読みください。
私も後で読みます。
不条理劇のWikipediaはこちらからどうぞ。
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実際、関口さんと最初に打ち合わせをした時に提示された設定も、部屋の真ん中に死体もしくは爆弾がある状況、というものでした。
打ち合わせの時はさも知ったような顔で相槌を打っていましたが、3年間座学を疎かにしてきた私は、不条理?死体?はて?とザワザワする心の内を悟られまいとするのに必死でした。
ワクワクするのは初めてのことが一個まで。それが限界。
初めてのことが二個も同時にあると、初めてと初めてがぶつかり合い、ワクワクが相殺しザワザワが生まれます。
そして追い討ちをかける難しいポイント三つ目。
それは、超クール集団に混ぜてもらうための戯曲は超クールでないといけないという思い込みからくるプレッシャーです。
課題や妄想の書き留めとして自発的にではなく、誰かから依頼されて書くというのが初めてだったので、それだけで私の緊張具合は頂点にあると言っていいくらいでした。
頼まれたからにはやらねばならぬ、と不安な己の心を奮い立たせようとしたのがむしろ逆効果だったのです。
初めてと初めてと初めて。三つ合わせて、三位一体プレッシャーブラザーズ。
プレッシャーブラザーズの猛攻を受け、私は関口さんとの打ち合わせから約2ヶ月もの間一文字も書き進められず、悶々と過ごしていました。
この期間、決して遊んでたわけではなく、依頼を飛んだわけでもありません。
私なりに努力をしようと思い、まずはシュール系のコント師の動画を調べて漁るように見ました。
主にラーメンズ、バナナマン、シソンヌをよく見ました。
これまでコントはドリフか東京03くらいしか見てなかったので、シュールかつ繊細に練られた知的なネタはとても刺激になりました。
いや、決してドリフと東京03が知的じゃないと言ってるわけではありません。すごく知的ですよ。
知の系統が違うみたいなアレです。
下手な言い訳はその辺にしておいて、こうしてお笑いのネタを資料とか勉強と思って見るのは初めてでした。
そう、初めてでした。
そう、またプレッシャーが増してしまいました。
自ら墓穴を掘るスタイル。
改めて一流コント師たちのネタを見てみて、その完成度たるや、凄まじいものを感じました。
驚きを通り越して、恐ろしいとさえ思ったのです。
まず、一体どこから手をつけたのか全くわからないほど最初から最後まで緻密に計算された構想の上にコントらしいチグハグな会話が成り立っており、その全体を見通すバランス感覚もなることながら、間、テンポ、場面設定、ワードチョイス、どれ一つ欠けても成立しない笑いをここぞという正確なタイミングで投下する感性の鋭さ、その精密さ、プレーヤーのありとあらゆる全てを理解していなければできないキャラの采配、たかが数分で設定、関係性、今後の展開の予感とその裏切りを全て回収し切るストーリーテリング技術があって当たり前という業界の風潮、感じ取れる全てに圧倒されました。
ヘラヘラと呑気に笑って、めっちゃおもろ〜、とかつぶやいていた過去の私をぶん殴りたくなりました。
私は、「これが・・・コントか・・・」と唸りながら、肥大化していくプレッシャーに怯え、震えることしかできなかったのです。
これからの人生、2度と大晦日のお笑い番組をコタツに入ってみかん剥いてダラダラしながら見るなんてことできないかもしれない。
キングオブコントを見る時はホラー特番を見てるくらいのテンションと気合を入れないと、あまりの怖さに正気を保てないかもしれない。
一時はそれほどまでに追い込まれました。
プレッシャーって恐ろしいですね。
まあ、冷静に考えたらコントはコントでも超一流の日本を代表するコメディアンが手がけるコントなので、そこを基準にしてしまうのもおかしな話です。
当時の私はプレッシャーブラザーズにまともな判断能力を奪われていました。
やれるのかい?やれないのかい?どっちなんだい?と自分自身に問いかけながらの苦しい2ヶ月間。
今にも崩れそうなメンタルを救ってくれたのは、「ONE PIECE」でした。
元はと言えばNetflixの実写版公開に合わせ、この機会に初回から見直すか〜、という軽い気持ちで配信で見始めたアニメ版。
全1000話を超えるエピソードの総ざらえは現在二周目に突入しました。
8月辺りから、メンタルケアと称して依存という名の沼入りを果たし、それ以降原作の連載、アニメの放送、公式アプリ、公式YouTube、Wikipedia、X、考察サイト間を反復横跳びする半永久機関オタクへと生まれ変わったのです。現在、とても幸せです。
心躍る冒険の数々と胸を熱くさせる戦いと涙を誘う美しい仲間との絆の物語に、精神をかなり安定させてもらいました。
ルフィさん、どうもありがとう。
しかし、精神が安定したからといって筆が乗るとは限らないのが作家という生き物です。
ようやく机に向かえるようになっても、肝心の話の中身が全く思い浮かびません。
致命的です。
コントなのにどうやって人を笑わせたらいいかわからないのです。
それどころか、どうやって戯曲を書いていたかもわからなくなりました。
いやそれどころか、今までどうやってソフトを起動していたのか、どうやって眠っていたのか、どうやって呼吸していのか、どうやって人間は誕生したのか、宇宙はどこまで広がっているのか、死んだらどこへ行くのか。
いかんいかん、バッドモード入っちゃった。精神統一しよ。そうしてアニメを見て一日が過ぎる。
こういう日々を過ごしていると、締め切りまでの日数は減っていく一方で、また今日も一日何もしなかったという罪悪感だけがつのります。
プレッシャーブラザーズは勢力を増していきます。
ついに締め切りまで一週間が過ぎ、それでも戯曲は真っ白なまま。
もうすでに当初約束していた締め切り日に間に合わず、少し延長してもらっている手前、これ以上遅れることはできません。
仏の関口さんは遅れても大丈夫と言ってくれましたが、ここまで来て、やっぱり無理でした、と責任を放棄することなどとてもできません。
既に超クール集団の仲間入りするという夢も、この失態により潰えたも同然。
それでも、恥を晒そうとも、せめて頼まれた仕事を最後までやり切るくらいのことをしなくちゃ、私はこの先何にもできないのままなのだろう、と思いました。
やれるか、やれないかじゃない。やらねば。何が何でも書かねば。
ここが私の正念場なんだ。
必ずやり遂げてみせる。
気合いを入れ直して頑張るぞ。
って意気込んだら書けるんだったら苦労してねぇ〜!
既に色々ごちゃごちゃ考え過ぎて何も進まないし正解がわからねぇ〜!
コント書ける王になりたいし締め切り間に合う王に俺はなりてぇ〜!
ルフィさん、助けて〜!
と、寝不足の頭でぼやいいたところ生まれたのが、「ハイパーぶぶ漬けモード」です。
元々京都に訪れた二人組が死体を目の当たりにし、「この死体にはぶぶ漬け=帰れ的な意味があるのでは?」と邪推を始める。という状況設定は最初の打ち合わせの時点で決まっていたのですが、その後の展開が全く思いつきませんでした。
思いつかないままで2ヶ月が経ち、限界作家と成り果てたところでついに限界突破、タマ:トランスモードに突入、この世のもの全部燃えてしまえ的なテンションでたまたま検索したら出てきた「ハイパーぶぶ漬けモード」というワードを用い、登場人物をトランス状態の超ハイテンションにすることで、ようやくストーリーの流れを掴みました。
さらに関口さんの意見で犯罪者二人組という設定だった二人の男は、以前巷を賑わせた闇バイトの強盗という設定も思いつきました。
ルフィさん、おかげで何とか筆が進みました。本当にありがとう。そして大変申し訳ありませんでした。
本当に本当にギリギリの土壇場で思いついた物語を、寝る間を惜しみ数日でやっとこさ最後まで書き切り、締め切りに間に合わせることができました。
土壇場で書き上げたぐちゃぐちゃ文章の初稿と呼べない構想の書き殴りのような下手クソメモ。略してどちゃクソメモ。
お目汚しと気が引ける思いで関口さんにこのどちゃクソメモを見てもらい、的確なご指摘を賜り、書き直して修正という作業を数回繰り返しました。
そして潤色の過程を経て、ようやく『メソポタミア・プロパガンダ・エクササイズ』の上演台本が完成しました。
各位、その節は誠にご迷惑をおかけし大変申し訳ありませんでした。
ですが、この正念場という窮地をなんとか耐え切ったという経験を、今後の人生の糧にしようと強く思いました。
特に、襲いくるプレッシャーについては、深く考えさせられました。
私にはプレッシャーブラザーズの攻撃は回避することもできなければ、打ち倒すこともできません。
そうするにはあまりにもメンタルが弱い。
そういう星の元に生まれてきたのかもしれない。
少なくとも、今回の一件で私はその運命を受け入れました。
無理に抵抗すれば、私はなすすべなく倒れるのかもしれません。
それでも私は、今回は耐え切りました。
心を痛めつけるプレッシャーを耐え忍び、アイデアが降ってくるのをじっと待ったのです。
そうしてプレッシャーブラザーズは、私の元を去りました。
それはつまり、今回は私の我慢が実を結んだことを表しています。
彼らいずれまたやってくるでしょう。
季節の変わり目に起こる災害のように。
しかし、私はもう以前の弱い私ではない。
いくつかの初めてを経験し、ザワザワからのプレッシャー発生リスクを軽減したローリスク作家に成長したのです。
成長が私を強くしました。
いずれ、さらに強化されたハイパーポジティブメンタルで、新しいジャンルにも果敢に挑戦したいと思います。
それに、もしもの時のためのメンタルケアコンテンツを常時複数準備しておくことも大事という教訓も得ました。
一つに絞るとハマってしまって結局作業が難航するので。
本当に大変な作品製作でしたし、今こうして思い出すだけでもウッ、てなるのですが、得難い経験だったと思います。
必要な過程だったと言える数ヶ月だったと思っています。
機会を与えてくださったミニ胡麻うりさんと関口さん、そして心の支えになってくれた「ONE PIECE」には、心から感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。
これからも、お笑い番組は正座して見ようと思います。