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児童手当と扶養控除の比較
「異次元の少子化対策」は実現する?
異次元の少子化対策の原案に「児童手当」の拡充が盛り込まれました。
具体的には、児童手当の支給に関する所得制限を撤廃することに加えて、16歳から18歳の高校生を支給対象に含めることが検討されています。
ただし、その一方で、扶養控除の廃止・見直しが議論されています。
児童手当の月額支給額と所得制限
<見直し案>
少子化対策として所得制限を撤廃したうえで高校生までを支給対象とし、第3子以降の支給額の増額を検討中。
3歳未満 ・・・ 1人当たり15,000円
3歳から高校生 ・・・ 1人当たり1万円
第3子以降は、高校生まで年齢にかかわらず3万円に増額
<現行>
3歳未満 ・・・ 1人当たり15,000円
3歳から小学生 ・・・ 1人当たり10,000円(第3子以降は15,000円)
中学生 ・・・ 1人当たり10,000円
(注1)第3子以降とは高校卒業までの児童のうち3番目以降の児童
(注2)同一生計配偶者と児童2人の家庭で所得736万円以上972万円未満の場合は一律5,000円の特例給付の支給に変わり、所得972万円超で支給なし
ここでの所得は、所得の合計額から雑損控除・医療費控除・障害者控除・ひとり親控除など一部の所得控除を差し引き、さらに8万円を控除した金額であり所得税法での合計所得金額とは異なる
課税所得金額695万円が損得分岐点
高校生がいる家庭では、新しく児童手当が支給されるが扶養控除は廃止、または現行のまま児童手当の支給はないが扶養控除38万円の適用を受ける、どちらがお得でしょうか?
扶養控除が廃止されることによる税金負担増(=38万円×所得税率+33万円×住民税率10%)と、非課税の児童手当の受取りによる収入増を比較してみましょう。
基本的に、本人の合計税率が32.89%(注1)を超えた時点で扶養控除の廃止による税金負担増が児童手当12万円の収入増を上回ります。
(注1)住民税率10%と所得税率22.89%
(注2)児童手当収入のうち住民税額の負担増33,000円(住民税での扶養控除×住民税率10%)を除いた87,000円÷38万円(所得税での扶養控除)
課税所得金額695万円超900万円以下である場合に、所得税と住民税の合計税率33.483%(所得税率23.483%+住民税率10 %)が32.89%を超えます。
そのため、おおよそ課税所得金額695万円が損得分岐点となります。
課税所得金額が695万円を超える人は、新しく児童手当を受給するよりも扶養控除の廃止による税金負担増が大きいため手取りが減ってしまいます。
給与収入で約1,200万円が分岐点
課税所得金額とは、収入金額から必要経費(給与所得控除額)と所得控除(人的控除と保険料控除)を差し引いた課税対象となる金額です。
課税所得金額が695万円を超えるというのは、給与収入でいうと年収1,000万円を超える人ということになります。
例えば、本人、配偶者、高校生の子1人という前提における課税所得金額695万円は給与収入金額に置き換えると約1,170万円となります。
本人、配偶者、高校生と大学生の子2人という家庭であれば、特定扶養控除の増加と配偶者控除の適用なしを考慮して給与収入で約1,230万円です。
ただ、所得控除等により収入金額は変わりますので、あくまで目安です。
しかし一般的に、多くの子育て世帯では扶養控除38万円が廃止されても、児童手当12万円を受給するほうが家計の手取りは増える結果になります。
ただし、児童手当を支給するための財源として社会保険料の引き上げも検討されているので、その負担増を考慮する必要があります。
なお、所得税よりも住民税での人的控除額が少ない影響で、同じ収入金額でも住民税の課税所得金額が大きくなるため、実際には、損得分岐点である所得税の課税所得金額は695万円よりも低くなります。
普通に、簡素で、公平な制度に!
世帯の所得が一定額を超えると児童手当が支給されなかったり、配偶者の所得が一定額を超えると配偶者控除が縮減または消滅したり、あるいは新たに社会保険料の負担が生じたりと、とにかく税、社会保険、公的支援策のしくみは難解ですね。
所得金額に応じて税負担も増えるという「応能負担」は理解できます。
しかし、一定の所得金額を超えた途端に、控除・手当が消滅して損する、なので働き方を考え直そうでは国全体の付加価値が減少してしまいます。
異次元(従来と次元が異なる、普通より格段に優れている)でなくても、「簡素」で「公平」性を保ちながら経済活動に「中立」である普遍的な制度を実現してほしいものです!
<参考> 計算例と前提条件
1.配偶者と高校生の子1人の場合
扶養控除の適用 児童手当の受給 差額
給与収入金額 11,700,000 11,700,000
給与所得控除額(必要経費) △1,950,000 △1,950,000
給与所得 9,750,000 9,750,000
所得金額調整控除 △ 150,000 △ 150,000
給与所得(調整控除後) 9,600,000 9,600,000
社会保険料控除 1,755,000 1,755,000
配偶者控除 130,000 130,000
扶養控除 380,000 0
基礎控除 480,000 480,000
課税所得金額 6,855,000 7,235,000
所得税額(復興特別所得税含む) 963,300 1,049,600 △ 86,300
住民税の課税所得 6,975,000 7,305,000
住民税額 697,500 730,500 △ 33,000
合計税額 1,660,800 1,780,100 △ 119,300
児童手当収入 0 120,000 + 120,000
損得 700
2.配偶者と高校生と大学生の子2人の場合
扶養控除の適用 児童手当の受給 差額
給与収入金額 12,300,000 12,300,000
給与所得控除額(必要経費) △1,950,000 △1,950,000
給与所得 10,350,000 10,350,000
所得金額調整控除 △ 150,000 △ 150,000
給与所得(調整控除後) 10,200,000 10,200,000
社会保険料控除 1,845000 1,845,000
配偶者控除 0 0
扶養控除 380,000 0
特定扶養控除 630,000 630,000
基礎控除 480,000 480,000
課税所得金額 6,865,000 7,245,000
所得税額(復興特別所得税含む) 965,300 1,051,900 △ 86,600
住民税の課税所得 7,145,000 7,475,000
住民税額 714,500 747,500 △ 33,000
合計税額 1,679,800 1,799,400 △119,600
児童手当収入 0 120,000 +120,000
損得 400
(計算における留意点)
1.家族構成:給与所得者、本人、配偶者(年齢70歳未満)と子
2.配偶者・子ともに所得なし
3.税額計算での所得控除は、社会保険料控除(給与収入の15%と仮定)、配偶者控除38万円(住民税:33万円)、基礎控除48万円(住民税:43万円)、扶養控除38万円(住民税:33万円)、特定扶養控除63万円(住民税:45万円)とし、他の控除はないものとする
4.所得金額調整控除 ・・・ 年収850万円を超える人が子育て・介護世帯である場合における給与所得控除額への上乗せ措置(最高15万円)
5.配偶者控除の留意点・・・本人の合計所得金額900万円超950万円以下で26万円(住民税:22万円)、950万円超1,000万円以下で13万円(住民税:11万円)に縮減、1,000万円超で0円となる