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【税金Q&A】権利金の不返還部分を償却する

<質問>事務所を賃借するときに支払う保証金のうち、退去時に返還されない部分の処理は?


<答え>

 保証金のうち不返還(退去時に返還されない)部分の金額は、基本的に、60か月で均等償却することで損金算入されます。

  当期の償却額 = 不返還部分の金額 × 当期の賃借月数/60

(注)損金算入・・・会計で費用損失として経理した項目につき税務も認める(文句を言わない)こと。反対に、会計で費用損失として経理した項目を、税務では認めないことを損金不算入といいます。

 

◆ 翌期以後も効果が及ぶ繰延資産

 事務所を賃借するために支出する保証金、権利金および立退料その他の費用のうち不返還部分は、「建物を賃借するための権利金等」として法人税法での「繰延資産」に該当します。

 繰延資産とは、すでに代価(お金)を支払い、または支払義務が確定し、これに対する役務の提供を受けているもののうち、その支出の効果が将来にわたって及ぶものをいいます。
 すでにお金を支払っているという点では、前払費用に似ているのですが、前払費用は役務(サービス)の提供を受けていない部分に対する前払いで、繰延資産は役務の提供を受けている部分という違いがあります。
 繰延資産への支出の効果は1年限りではなく、翌期以後にも及びます。

 法人税法は、効果が1年を超えるならば一時に損金算入はできませんよ、しかし一方で、最後には返還されず捨てる部分の金額を退去時まで資産計上しておく必要もありません、と考えているわけです。

◆ 会計での繰延資産

 繰延資産には、会計上の繰延資産と法人税法が規定する繰延資産の2つがあります。

 会社法では具体的な繰延資産の中身を列挙していないため、企業会計基準や財務諸表規則などを参考にします。
 企業会計基準における繰延資産は限定列挙されており、創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費が該当します。
 これらの繰延資産は、原則として、支出時に費用処理します。


◆ 法人税法での繰延資産

 一方、法人税法での繰延資産は、「支出の効果が及ぶ期間」を基礎として毎期均等償却(月割りで償却)し、未償却残高を貸借対照表に資産計上して翌期に繰り延べます。
 税務上の繰延資産は、固定資産のうち「投資その他の資産」において、「長期前払費用」として表示します。なお支出額が20万円未満の権利金は、少額な繰延資産として支出時に損金算入されます。

 たとえば、税務上の繰延資産には、ご質問の権利金の不返還部分のほか、公共的・共同的施設の負担金、ノーハウの頭金、広告宣伝用資産の贈与費、同業者団体の加入金、職業運動選手等の契約金等があります。

 公共的・共同的施設の負担金は同業者会館等の建設費のうち当社に割り当てられた負担部分、ノーハウの頭金はフランチャイズチェーンへの加盟金、広告宣伝用資産の贈与は製品名をデカデカと書いた車両をメーカーから販社へプレゼントする費用など、です。
 これらは当社の固定資産を取得するための支出ではないものの、その後の会館等の使用を通して、あるいは共同仕入や店舗運営のノウハウの提供で、または車両に印刷された製品名が消費者の目に入ることでの宣伝効果など、将来にわたり当社も便益を受ける支出です。(ムリやり感も否めませんが)


 税務上の「支出の効果の及ぶ期間」は、それぞれの繰延資産の種類ごとに法人税基本通達に定められています。 
 建物の権利金等の不返還部分は、明渡し時に借家権として転売できるような一等地にあるクラブの権利金等を除き、5年間(契約期間が5年未満で、更新で再び支払う場合は契約期間)と明記されています。
 そのため、基本的に5年間(60か月)で均等償却します。均等償却では、繰延資産の支出の効果が及ぶ期間のうち、当期の(賃借)月数に対応する額が償却限度額となります。


 建物を賃借するための権利金等の不返還部分については退去時に一括して費用計上するのではなく、入居時から均等償却を開始しましょう!
 なお、土地を賃借するための権利金は「借地権」として無形固定資産に計上します。借地権は非減価償却資産であり減価償却費の計上はできません。

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