浪人生活お気持ち表明、あるいは「ゴミ人間」考
浪人生という肩書を得て半年が過ぎようとしている。つらくて苦しいものだと思っていた「浪人」は、思っていたより何十倍もたのしい。
かつて、自分をゴミ人間とよんだ。最後まで努力することのできない自分が、追い詰められたら逃げてしまう自分が、大嫌いだった。
東大を受験したのも逃げだった。日本で一番いい大学。教科の勉強なら得意だし、ここならアメリカに行けなくたって、みんながすごいねって褒めてくれる。それでいいじゃない。
なんの根拠もないのに、受かるつもりでいた。
3月10日、受験番号はなかった。惜しくもない点数。逃げた先にすら、引っかからなかった。
「浪人したい」と親に泣きついた。
正直、なんで東大に固執したのか論理的な説明はできない。ただ、がんばれる自分になりたかった。何か目標を立てて、それを最後までぶらさず実現する、という成功体験が欲しかった。そうすればこんな自分でも、少しくらいは愛してあげられる気がした。
だからすべてを捨てるつもりで、浪人生活を始めた。住野よるも、ヒールのついたサンダルも、米津さんのCDも、全部おうちに置いてきた。
書くこともやめた。時間もかかるし、心を揺らしてはいけないと思った。幸か不幸か予備校には知り合いの1人もいなかったし、すべての時間を合格することのために使うのだと、そう思っていた。
ただTwitterだけは泥を吐く場所として残していた。
同じ校舎の人をたまたま見つけてから繋がりは広がっていって、適当につけたユーザーネームは、私のもう一つの名前になった。
勉強は言うに及ばず、私の遠く及ばない深い教養と思考とユーモアをもつ人々に少しでも近づきたくて、決別したはずの読書を再開した。
現役時代にアメリカの大学を現実的な進学先として見せてくれたこの青い鳥は、今度も出会いを導いて、毎日を豊かにしてくれた。
浪人生活がたのしいなんて言えるのも、9割Twitterのおかげ。
でも残り1割の「たのしい」は、やっぱり逃げなのだ。
勉強さえしていればいい、というのは私にとっては楽だ。なんにでもそれなりに興味を持てるから、勉強自体が苦痛と思うことはほとんどない。特に地理や世界史の論述は、これまで見えなかった視点や発想を見せてくれるから面白くって、深入りしすぎてしまうくらいだ。
でも受験勉強がたのしいと思えば思うほど、答えられなかった問いのことが思い出される。
私はなんにもない。少なくとも、これらに答えられるような何かを持っていない。
これはどの方面においてもなのだけど、私は感情の振れ幅が狭い。つまり、何かに対する強い欲求を感じられない。
世界史はすき。マルクス主義におけるボナパルティズムの位置付けを一時間調べて鹿島茂をAmazonでポチりかけたくらいには。でも、史学科に行くかと言われたら、そこまでではない。
東大にいきたい。社会学や政策学や経済学、文化人類学、倫理学、シラバスを見るたびワクワクする。でもなんでそれを学びたいのかと言われたら困ってしまう。まして、その後の将来なんてもっと見えない。現役時代に書き殴っていた"作りたい世界"も今見ればそのときの興味を繋げただけの薄っぺらい言葉の羅列でしかない。
だから、なんで?を聞かれない点取りゲームの日本の入試は性に合っていて、たのしい。(だからといって点が取れているわけではないにしろ)けれどやっぱり逃げは逃げだ。
尊敬する人が身近にいて、勉強がたくさんできて、充実した毎日のなかで、これだけがずっと気にかかっていた。このままじゃ去年と同じなんじゃないか、私はまた逃げてしまうんじゃないか。
でも考えてみれば簡単で、実力で不安をねじ伏せればいいだけなのだ。大嫌いな逃げ腰ゴミ人間のわたしも、言ってみれば不安で壊れそうな心の当然の防御反応だったわけで、私がちゃんと自信になる実力をつけていれば発動させなくてよかったはずなのだ。
結論、勉強するしかないってことだね。
脳筋な結論かもね。でも私はやっぱり「やりたいこと」を明確には見つけられない。社会の○○を変えたいなんて語るほど、世界についてもこの国についても多くを知らないし、自分の正しさを主張できない。
だから大学に行って、政治や経済や日本史もちゃんと勉強するんだ。お金や時間の心配をせずに、好きなだけ勉強できる4年間を手に入れるんだ。やりたいことはやっぱり見つからないかもしれないけど、たくさん本を読んで教養をつけて、議論ができるようにして、コードも書けるようになって、少しは社会の矛盾や痛みと向き合えるような人間になるから。
読んでくれるであろうひとのことを想像しながらものを書いたのは初めてかもしれません。
みんなが勉強しているのを見ながら、これを書いています。ん?勉強しろよ?わかってます、でも書きたい欲が抑えられなかったの。終わったらやるから許してね。
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