失恋墓地 #ショートショート(465字)
長年付き合ってきた恋人に裏切られ、ボロボロになった私は墓地にいた。
美容師の幽霊が出ると噂の場所だ。
夜中にハサミの音が聞こえるとか、事故で死んだ美容師が人の髪を求めて彷徨うとか、失恋した者が訪れると髪と一緒に首も切られて死ぬ…とか。
シャキン…
ふいに、よく切れそうなハサミの音がした。
「今日はいかがなさいますか?」
誰もいないのに声が聞こえる。
でも、もうどうでもいい。早く楽になりたい。
「全てお任せします」
そう言って、目を閉じた。
ジャキン!
切られている感覚が全く無い。
痛くないのはありがたい。
「こちらでいかがですか」
「え?」
目を開けると、ツヤツヤに磨きあげられた墓石に大人っぽいショートボブ姿の私が映っていた。
「本当は髪色も明るくしたいのですが…あいにく墓地には道具が無くて。短い髪がよくお似合いですよ。とても素敵です」
目から涙が溢れてくる。
私はしばらく泣いていた。
***
あれから数年。
ツヤツヤの墓石に花を置く。私以外が供えたお花もたくさんあった。
「あの時はありがとう美容師さん。今日も大盛況ですね」
春の風が、私の短い髪を揺らした。
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こちらの記事を拝見して書きました!
お題を使わせていただき、ありがとうございます!
410字(『ショート』の語呂合わせ)にはおさまらなかったけど……久々の頭の体操、たのしかったです!🙏
お読みいただき、ありがとうございました☺️