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お金と、家と、恋と。 #創作大賞感想

これまたすごい小説を読みました。

とてもよかった。
作者はヱリさん。

最初にタイトルを拝見したとき「もしかしてラブコメかな?!」とか思ってすみません。めちゃくちゃ正統派だった。
だってご本人が「#マレーバクは出てきます」って言ってたんだもん……。(ちゃんと出てきた。かわいかった。)

さて、突然ですが。
私は かねてから思っている事があります。

ヱリさん(の書く小説)には、ふしぎな特殊能力がある、と。


ちょっと説明が難しいのですが……
ヱリさんの書く小説のセリフや表現から、ふと自分の中の記憶が蘇る事があるのです。感情移入とは少し違う、自分の中に元々あるものを思い出す。小説のシチュエーションとは全く違う記憶が、ポッと蘇ることもありました。

記憶や感情が体のなかをサラサラと流れているとしたら、たぶんヱリさんの文章は普段気にしないような些細な記憶をすくい上げてくる。
ごく自然に、当たり前のように、すくい上げて、「またね」と戻っていく。どこまでも流れる川みたいな、寄せては返す波みたいな、


そんな感じ。


(言語で説明不可能と判断した事よる丸投げ)

ねぇ、ヱリさん。これはどんな魔法を使っているの?どうしたら、こんな現象が起こるのかなぁ。私は不思議でたまりません。



『大阪城は五センチ』は、お金・家・恋 という3つのキーワードから構成されるお話でした。この3つが絡まりあって、面白さが増幅されてると思う!それぞれに納得できる物語があって、読みごたえがありました。

ここからは、私の感想や心の叫びを書かせていただこうと思います🙏

●『お金』への想い

現在三十九歳の主人公・由鶴(ユヅル)に まっとうな自信を与えてくれるのは、仕事でも家族でも自分自身の個性でもなく、もうすぐ一千万に届きそうな貯金でした。

しかし、兄の建てた『二世帯住宅』に強烈なさみしさを感じてしまうのです。
その孤独感のようなものから カッとなってしまった拍子に、家族に預金額がバレ、お金の使い道について、やいのやいの言われてしまいます。

由鶴も不本意ながら自分の家を探そうとしますが、なかなか思うようにはいきません。

この貯金が形あるものに変換されてしまったら、例えそれが資産であったとしても、礎を失くした気持ちになりかねない。

大阪城は五センチ《 2 》より引用

預金残高こそが、由鶴の最後の砦なのです。

じつは、私はこのあたりの描写を読みながら、由鶴に自分を重ねていました。
もし、私が結婚というものをしていなかったら……という『もしも』の世界を見たような。そんな感覚がしたんです。

自分で貯めたお金くらい、自分の好きに使わせてくれや!!

と、わりとガチめに感情移入しました🤣
価値観は人それぞれと言うことで。

●『家』のカタチ

まず、作品の中に出てくる『家』に「こんなに種類があるなんて!」と驚きました。

・賃貸
・戸建て
・二世帯住宅
・タマーマンション
・ネイバーベース

などなど……

ていうか、ネイバーベースって何よ!?

「ネイバーベース」は、登録されている二百を超える家に自由に住むことができる、住居のサブスクリプション

大阪城は五センチ《 7 》より引用

これは全く知らない世界でした!
思わず由鶴と一緒にワクワクしてしまった。いざ泊まりに行ってみると、初めてすぎて馴染めない感じもリアルで笑ってしまう。
そして由鶴がお試しで2泊したネイバーベースの女性家主・マカロニさん。人生の先輩の言葉が胸に響きました。私もマカロニさんにコーヒー占いやってほしい!!

『家』は人が作るもの。

どこにでもありそうな町並みを見て、
この中からどうやって自分だけの「家」をみつけられるんだろう?

と思っていた由鶴が、少しずつ答えを見つけようとする過程が面白かったです。
家については、最終話でひとつの決断をするのですが、その決断に共感しました。

わたし、由鶴がすきだわ。


●『恋』の行方

この作品は恋愛小説です!最大の見どころと言っても過言ではありません!
しかも恋のお相手は、女性向け風俗のセラピスト・宇治(うじ)。

この設定……攻めてきたな~~!

という、私のムフフで下世話な心とは真逆の……むしろ純粋さを感じる描写で、由鶴の恋は進みます。

はじめに由鶴は、セラピストのことを

最初からゴールに連れてきて、そこに住まわせ続けてくれるのが、セラピストという人たちなのだ。

大阪城は五センチ《 1 》より引用

と表現しています。
しかし途中で予想外のアクシデントがあり

セラピストが連れてくるのはゴールではなく、四方から溶けて足場の刻々失われていく、流水の上だったのかもしれない。

大阪城は五センチ《 5 》より引用

動揺と葛藤で、このように変化します。

『客とセラピスト』という関係の描写が、丁寧で、くるしくて、めちゃくちゃ良くて……。思わず唸りました。

ちなみに、すきな描写(一部抜粋)↓

・さだかではないけれど、さだかなものを私が知る権利はない
・どこでもない世界と、わたしのいる世界が、容赦なくつながって
・こらえきれずに名前を呼ぶ。そんな名前の人はこの世にはいないのだと理解しながら
・ほんとうに会ってしまって、だから隔たったのだと はっきり分かって

せ……せつねええええ!!


どこか現実味の無い存在だった宇治が、現実の世界で暮らす人なのだと自覚し、受け入れ、お互いに話せた事で、由鶴の中で何かが変わり始めます。
心の拠り所だった貯金も、すっかり「お守り」の効果を失っていました。

物語を通して季節が冬から春に移っていく感じも、好きでした。
第十一話で、由鶴は宇治に会うためにミモザの絵が描かれたワンピースを着ていて、私はなぜか「由鶴は、もう大丈夫だな」と感じました。
目の前に鮮やかな黄色。第十一話のラストは、清々しくて涙が出そうになりました。黄色いお花って良いですよね。元気が出ます。

ミモザは国際女性デーの花でもあります。由鶴が生きていく上での選択が、否定されない社会であってほしい。もちろん、男性も。
由鶴の人生はそろそろ折り返し地点。どんなおばあちゃんになっていくのかな。できる事なら、自分の納得できる道を選択していけますように。

そんな気持ちで読み終えました。



今回、私は由鶴と同世代ということもあり、思いっきり由鶴に自分を重ねて見てしまいましたが、登場人物が全員ほんとうに魅力的でした。由鶴だけじゃなく、読んでいる側にもエールをもらえたような気がします。
ぜひ、たくさんの人に読んでいただきたいです!

ヱリさん、素敵な物語をありがとうございました☺️

ミモザのワンピース

お読みいただき、ありがとうございました☺️