わたしのせかい #ショートショート(1195字)
学校はキライ。あの子が意地悪するから。
ママもキライ。いつも怒るから。
だから、私は鏡をのぞくの。
鏡は面白い。私のいる世界と同じ世界がうつっているはずなのに、全然別の世界にいるみたい。
鏡を上に向けてのぞくと、ほら。
天井を歩いているみたいでしょ?
今、天井にあるライトをまたいだよ!
ドアも、窓も、キッキンも、さかさま!
階段は?そういえば行った事ない!
「……ひかり、あぶない!」
後ろからママの声が聞こえた。私はびっくりして──。
急に世界が真っ暗になった。
***
目を開けると階段の下にいた。ママが真っ白な顔で私の顔をのぞきこむ。
「りかひ! ぶうょじいだ?!」
「……?」
「いなはろこといたい?! うよしうど……」
ママが変だ。何を言ってるのか全然わからない。
「んいうょび! うこいにんいうょび!!」
ママが怒ったような顔で叫びながら私の肩を掴んだ。
私は急に怖くなって、逃げ出した。
外に出る。青い空を見上げると、いつの間にか私は空を走っていた。地面が頭の上にあって、うまく進めない。
それでも走っていたら、自分のいる場所が上か下かも分からなくなって、ここがどこなのか分からなくなってしまった。
知らない公園に着いて泣いていると、キライなあの子がいた。
「えまお!」
こっちに来る。こわい。どうしよう。
グイッと、強く腕を引っ張られた。逃げられない。叩かれる!と思って、目をつぶってカメみたいに頭を引っ込めた。
あれ?痛くない。
「いせのれおてっのっなくなこにうこっががえまお……?」
小さな小さな声が聞こえた。
目をあけると、あの子が泣きそうな顔で私を見ていた。
なんで、君が悲しそうにするの。
「ろてっまでこそ!!!」
いつもみたいに怖い声で、あの子が叫んだ。
地面にしゃがんで何かしている。
こわい。逃げたいけど、どこに行けば良いかもわからない。
「らほ! よるやれこ!」
そう言って、あの子が私の目の前に出したのは、白いお花のかんむりだった。
「じょうず……」
私が思わず声に出すと
「だんるくつくよ、にとうもい」
あの子は少し優しい顔になって、私の頭にお花のかんむりをのせた。
「えまお! よいこにうこっが!!」
やっぱり怒ってる。こわい。
でも、かんむり作るの上手なんだなぁ。
***
「ひかり! 大丈夫?!」
気付いたら、ママが目の前にいた。
「大丈夫だよ、ママ。何て言ってるのかわかる」
「よ、よかったぁーーー」
怒ったような顔をしていたママが、急に泣き出した。
「痛い所は無い? 念のため病院に行こう」
病院から帰ってきて、階段の下を見ると、私が持っていた鏡が割れて散らばっていた。
怒られる……
と思ったけど、ママは「明日、新しい鏡を買いに行こうか」と言った。
あの世界は何だったんだろう。夢だったのかな?
あの白いお花は本当に咲いているのかな?
「明日、あの公園を探しに行こうかな」
私はそう思いながら、眠った。
また明日。
明日が来るのが楽しみなのは久しぶりだった。
(1195文字)
「夏ピリカグランプリ」に応募させていただきます。(テーマは「かがみ」です。)
自分の小学生時代を思い浮かべつつ書きました。
どうぞよろしくお願い致します!