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haku_arakawa_619
月をめくる #シロクマ文芸部(545字)
「月めくりをしましょうか」
と母が言うので、私たちは黙ってそれを見ていた。
母は慣れた手付きでまんまるの月をめくっていく。パリッ、パリリ……という音が、あたり一面に響いた。少しでも気を抜いたら割れてしまいそうで、ドキドキしながら母の手元を見つめる。
パキン、という音と共に月がめくれた。
今日の月は大きい。
弟は「やったね、大成功!」と喜んでいたけれど、めくる途中で少しだけ欠けてしまった月のカケラが、キラキラと星屑になって消えていく。
その様子を悲しい顔で見つめていると
「大丈夫、また満ちるから」
と母が微笑んだ。
めくられてなお静かに輝く月を、ポチャリと庭の池に浮かべる。
「美味しそうだね。どんな味がするんだろう?」
そう言って弟が月に顔を近付けるから、慌てて止めた。
「だめだよ、舐めちゃ。神さまに怒られちゃう」
めくられた月は神さまに返すのだ。
月は水の中でゆらゆらと揺れて、やがて沈んでいく。月が消えるのはやっぱり悲しい。
「大丈夫、また満ちるから」
悲しくなるたびに母の言葉を思い出す。
何度も満ちては消える月は、一体どこへ行ってしまうのだろう。
満ちたままではいられない月は今日もまためくられる。数億年先も同じように、私はこの月めくりを見守るのだろうか。
また月が満ちる事を信じて。
月が見えなくなるその日まで。
***
こちらの企画に参加させていただきます🙏
月めくり。思いっきりファンタジーで書いてしまいましたが、よく考えてみたら月間カレンダーの事だったのか…?日本語ってふしぎ。
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