12ヶ月の色彩事典 10月 橙がかった茶：かば(蒲/樺）色 / キャラメル
「食欲の秋」「読書の秋」「スポーツの秋」という言葉があるように、気候の良いこの月は心身ともに快調で、さまざまなことにチャレンジするのに適した季節です。
そうした「欲」を象徴する色は茶色。「欲」というと、食欲・物欲などとイメージが良くありませんが、精神的な“意欲”も含まれています。とはいえその根本はやはり「食欲」ではないでしょうか。茶色は食物に一番多い色、つまりおいしい色です。
食べにくい鰻も蒲焼にすると食欲をそそりますね。食卓周りや食料を扱う店舗のインテリアのベーシックカラーは、白・黒・グレイのモノトーン系よりも茶色系の方が本能には効果的です。
樺色は山桜の樹皮、蒲色は蒲の穂の色ということで，どちらも同じ読み方で同じ色を表しています。
江戸時代には中間色（くすみのある色）である茶色と鼠色が流行し、四十八茶百鼠(しじゅうはちちゃひゃくねず)”といわれるくらい茶色と鼠色の色名がありました。奢侈禁止令(しゃしきんしれい)により、庶民の着られる色に制限があったことは勿論のこと、それまで都として上方が文化の中心だったのが江戸に移ったのも一因かもしれません。上方の華やかな色や「はんなり・ほっこり」とは一線を画した、一見地味な色や柄をシャッキリ着こなす“粋(いき)”という独自の美感を自覚したのでしょう。
茶は大地の色、地に足の着いた落ち着き、充実感を表す色です。リクルートスーツの紺が誠実さや忠誠心といったまじめさを表す象徴であるなら、仕事に慣れたビジネスマンの熟成感や余裕を茶のジャケットで表すのもよいかもしれません。ダークな焦げ茶は紺同様、信頼感を与えることができるのでお勧めです。
洋名の“キャラメル”は言わずもがな、バターの焦げが香ばしい美味しい色で、コーヒーの茶、ココアの茶とはまた違った趣です。
茶色に限らず、色を表現する際には「赤」だの「青」だのではなく、身近なものの色で説明すると、イメージが伝わりやすくボキャブラリーを増やす機会にもなります。