VRCぽこ堂議事録:まず質問の意味がわからないー確実性と真理の関係について
議題
「あなたには哲学的議論をしてもらいます」
といきなり言われたとしよう。
だいたいにおいて
「え?何話せばいいの?」
という状態になること必至である。普通の雑談だってトークサイコロを使うのに、哲学で、となれば無茶振りにもほどがある。
しかし心配は御無用。哲学議論インスタンスであるぽこ堂においては、きちんとお題箱的なものが設定されている。テーブルの上にあるサボテンを押すとトークテーマの案をランダムに表示してくれるのだ。
ということで出てきた案がこちらである
「あらゆる確実性は真理によって基礎づけられているか?」
端的にいって、なにを言っているのかわからない。
トークテーマで話せないことはあっても、トークテーマがわからないことってある????ということでこのテーマについて議論した。
結論を一言でいうと
「あらゆる確実性は真理によって基礎づけられているか?」
という命題は真である。
何を言ってるかわからないと思うが、俺も何を聞かれているのかわからなかった。かなりテクニカルになっているが、具体的な議事はこちら
命題の理解:
わからない。俺達は何を問われているのか?
上述のように質問が難解であり、与えられた命題が正しいか・間違っているかを話す前に、まず「我々はいったい何を問われているのか」を考える必要があった。
この点、今回のテーマは
①あらゆる確実性は ②真理によって基礎づけられている か?
という構造であるため、確実性と真理の関係性が問われている。
この点、確実性とは「なんらかの予測/評価結果に疑いの余地がないこと」を示すワード、真理はなんらかの「正しい法則性」と考えられる。
以上を組み合わせると、下記のような言い換えができそうである。
あることが100%の精度で予測・評価できるとき
その前提として何らかの正しい法則性(真理)が必要である
多少わかりやすくなった(?)ところで、この命題は真か偽かを考える。
予測・評価のプロセス:「評価軸」が必要
では、順番に見ていこう。
今回の問題は「予測・評価」と「真理」が関係しているので、まず予測・評価の部分から考えていく。
さて、予測や評価を行うとき、我々はいかなるプロセスを踏むであろうか?
この点、ざっくりいえば下記のような手順を踏むと思われる。
たとえば、「哲学カフェで話しているTamtamという人物は変なやつか?」
を予測・評価をするとしよう。
このとき、下記のようなプロセスが考えられる。
このようにあることを「予測/評価する」には事実の整理だけでは不十分で、事実を評価する軸(基準)が必要となる。この評価軸が真であり、事実への当てはめがうまくいったとき、はじめて結果を予測・評価できる。
そして、この評価軸の確度(どれぐらい正しいか)が予測の精度に影響する。
たとえば、上記の例でいうと、評価軸である「哲学カフェで話しているヤツはみんな変だ」が完全に真(確度100%)であるとき、Tamtamは100%の確度で変である。
一方で、部分的に真(確度50%:哲学カフェで話しているヤツには変な人と変じゃない人が半々だ)にとどまる場合は、Tamtamは変であるとは限らない。さらに、完全に偽(確度0%:哲学カフェで話しているヤツはみんなまともである)ならTamtamは確実にまともである。
ようするに評価軸の正しさが増すほど、予測の精度も増すのである。
※注:
なお、私は変ではないので[要出典][独自研究?]、この評価軸は「部分的に真」か「偽」である。
予測が100%正しい=評価軸も100%正しい
このように、「予測/評価する」プロセスには事実の整理のみならず、事実を評価する体系が必要であり、評価軸の確度は予測の精度に影響する。
さて、命題で与えられているように「何らかの予測(評価)が100%の精度である」(=Tamtamは100%の確度で変人である)ためには、上記の例のように、その前提である評価軸(=哲学カフェにいる人間は変だ)の確度もまた100%である必要があると考えられる。
さて、ここでいったん話を真理(法則性の正しさ)に戻そう。
真理とは、辞書的な意味でいえば「確実な根拠によって本当であると認められたこと」である。上記のように、もしも「確度100%で正しい評価軸」があるとすれば、当然それは「確実な根拠によって本当である(=100%正しい)と認められたこと」であると考えられる。
すなわち、「確度100%で正しい評価軸」というものがもし存在するならば、それは真理であると評価しうる。
以上をまとめると下記のようになる。
予測・評価には評価軸が必要で、その精度には評価軸の確度が影響する。
「100%正しい予測・評価」を行うには、その前提として、「確度100%で正しい評価軸」が必要である。
「確度100%で正しい評価軸」があるならば、それは「真理」といえる。
したがって、「100%正しい予測・評価」は真理に基づく、といえる。
まとめ
さて、ごちゃごちゃしてきたので整理しよう。
本命題は
①あることが100%の精度で予測・評価できるとき
②その前提として、何らかの正しい法則性(真理)が必要であるか?
と言い換えることができる。ある命題の真偽の予測をするとき、下記のプロセスを踏む。
問題の設定→事実整理→評価軸のあてはめ→予測予測・評価の精度は評価軸の確度によって影響を受ける。
予測・評価が100%の精度を持つためには、確度100%で正しい評価軸が必要であり、これは真理と等しい。
したがって、言い換え命題である
①あることが100%の精度で予測・評価できるとき
②その前提として、何らかの正しい法則性(真理)が必要であるか? は真である。
以上より、元命題「あらゆる確実性は真理によって基礎づけられている」もまた真である。
派生的議論の記録:真理とはなんぞや?
今回のテーマの理解を難解にしている問題の一つに真理の捉え方がある。
上記一連の議連において
「あらゆる確実性は真理によって基礎づけられているか?」
についてロジックの側面から読み替えたわけだが、
「あらゆる確実性(現象の因果)を演繹的に説明しうる真理(統合的科学法則)があるか?」
と読み替える方向性でも議論されていた。
結論からいうと、この方向性の議論は決着していない。したがって、以下は議論の途中記録とならざるを得ないのだが、真理の捉え方に大きな差があったので記録したい。なお、この場合の真理は主に科学法則の意味で使われているので区別の便宜上、真理を「科学法則」というワードに置き換える。
帰納的科学か演繹的科学か?
たとえば、
「ある物体は重力加速度9.8m/S^2で落下する」
という法則を考えよう。これは、地球上では真(※実際は場所によって差があるがここでは無視してほしい)であるが、当然宇宙では通用しない。したがって、ある科学法則が成立するには、その前提条件(地球なら、真空状態なら、3次元空間なら、など)が不可欠と考えられる。その意味でこれらの科学法則は「特定条件下で真」という限定がつく。
一方で、今回の読み替え命題は「あらゆる確実性(現象の因果)を演繹的に説明しうる真理(統合的科学法則)があるか?」であり、あらゆるケースで成り立つ必要があるので、この個別的法則では定理の証明に不十分である。
この点、科学はこれら個々の科学法則を束ねる行動、つまり体系化も行っている。たとえば、上記の条件でいえば、「重力中心に対する移動速度の変化」というような形で個々の科学法則を集め、その中から共通項を見つけていけば、ある程度統合的な科学体系をまとめることができよう。
そしてもちろん、この体系化知識もまた別の科学法則の体系の一つである。こう考えると体系化した知識もまた「ある条件下の個別法則」となり、その体系化が必要で…という形で無限後退していく。
仮にこの体系化が極まった地点を考えられるとすれば、あらゆる現象の因果を演繹的に説明できるのではないか?というのが別アプローチの趣旨である。
そのような科学法則があるかは不明だ。
これは「ラプラスの魔」と同様、ある種の決定論であって、個人的には証明困難な問題だと思う。しかしながら命題に対する別アプローチとして筋が通っており、興味深い観点である。
また、ひとくちに科学法則と聞いた時、思い浮かべるものとして、
・個々の法則を増やしていくことを重視する帰納的な捉え方
・個々の法則について統合し、法則化を行う点を重視する演繹的な捉え方
というアプローチの違いがあることも表面化した。人の数だけ見方がある。
個人的雑感
哲学議論においては、しばしば難解だったり、意味のわからない命題に出会う。たとえば以前、お題箱から出てきた議題に、
「なぜ自分は他人でないのか?」
というものがあった。
そもそも言葉の定義として「自分でないものが他人」なので、この命題は「言葉の定義上そうだから」で終了する可能性がある。もちろんこれが誰かに出された哲学の試験で、命題そのものが絶対なのであれば、その回答でもよかろう。
しかしながら、我々がその命題を見てなにか別の疑問を想起したなら、この命題を「我々はXXと解釈して話す」という形で合意し、議論を進めてもよいと思う。たとえば、先の議題が出た時は
「自分は他人になりたいとなぜ思うのか?」
「他人になりたいとはどういうことか?」
「自分と他人はどこで区別されるか?」
などに分解した上で別の議論を進めた。
思うに、口頭で行われる議論の優れたところは、フレキシブルな点にある。なにも、与えられた命題に回答することだけが有意義な議論ではあるまい。
我々は「わけのわからない」命題に挑戦してもいいし、別の議題にうつってもよい。いずれにせよ、話をしないことには始まらない。
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