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春と修羅
駅の構内の喫茶店でさ、隣の女の人が話しかけてきたんだよ。駅前の広場が見えるカウンターでさ。
へえ、あなたまた変なの引き寄せたんでしょ。
その女の人は暇さえあれば旅行をして回っているんだって。でもって彼女は宇宙と交信できるんだって。
やめてそれ『春と修羅』(宮沢賢治)の読み過ぎでしょ。
賢治をdisるな。でもそれでさ、もういい年なんだから、その女の人が何を考えようと自由なんだけど、俺の心の中に土足でずかずかと入り込んできたのにはムカついてこう言ったんだ。
「それは宇宙と交信しているのではないですよ。内なる自分と会話しているだけ。上から眺めている、つまり俯瞰的な見方で自分と話しているだけ。その宇宙というのはそういうことだと思いますよ」
返す刀でぶった斬ったのね。あなたにしてはやるじゃない。
そんな話をしながら、高校の同級生を思い出した。彼は旧帝大に行けるくらい学力があるのに家庭の事情で就職した。カルト的な理由である。村上春樹さんの「1Q84」に出てくるような、物心ついたころから週末になると家族で布教活動をする宗教である。彼は宗教的な理由で柔道の授業は拒否していた。戦う事を否定する彼らは忠実で思慮深い奴隷たちであった。
だが生きることそのものは戦いである。
あなたまた変な事考えてるでしょ。中原中也と宮沢賢治を戦わせたいとか。
それはヤリチンの中也が圧勝するね。
あなたはどうしてものの見方がそうなるの?でも賢治みたいな陰キャってモテるのよ。中也はだいたいメンヘラだし。ダメンズばっかじゃん。鴎外も漱石も太宰も芥川龍之介も。
優勝は三島由紀夫じゃね?
あれは自己愛拗らせて腹切るやつ。あなたもダメンズを鴎外ぐらい極めてみなさいよ。
お、おう。俺ら別れるか。
刺すわよ。わたしは舞姫みたいに甘くないわ。
カチチチチ(カッターの刃を出す音)
#ひとりあそび
#1q84
#春と修羅