大型二輪免許の話
大型二輪免許を取得したのはもう30年ぐらい前の古い話。
いわゆる中型限定を解除する「限定解除」といわれていたころ。なかななかの難関で一種のステータスのようなものだった。若いライダーさんなら一度は、年配のライダーに限定解除マウントをされたことがあるかもしれない。
いかに苦労して難関の限定解除試験を突破したかの俺様自慢。
でもって僕の限定解除がどうだったのか。
回数的には足掛け2年で6回目に合格。悪名高き愛知県平針試験場。
なぜ悪名高いかというと、合格率が低いのもあったけど、コースが狭くて一種の曲乗りを要求されたからだと思う。
波状路(人為的にデコボコが作ってある)をスタンディングでクリアすると同時に、優先路へ左折するための安全確認とフルロック左折をしなけばならない。ここでオーバランすると不合格。左折後すぐに一本橋。
外周路を回ってきた速度で、右左とS字を切り返したあとの急制動。危険すぎる。いくらコースが狭いとはいえ危なすぎる。今なら社会問題になる酷い事故も起きたことがある。
スラロームは試験車両のギヤ比がロングで、2速スラロームだとかなり苦しい。無難に行くなら半クラッチを使いながら丁寧に。スロットルワークだけで決めようと思うとかなり速度が乗るからリスクも大きい。
僕の限定解除取得はかなり後ろ向きだった。
仕事に必要で取らなきゃな、的な。当時すでにかなり経験を積んでおり、おそらく限定解除より難関だった筑波選手権の決勝レースも経験していてそれなりのレベルにあり、HMSなどのトレーニングで大型バイクも何度か経験していた。
ああ限定解除、だるすぎる。でもやるからには懸命に取り組む。
まずは敵の観察。いきなり受けたのであるが自分の順番が来るまでにとにかく観察。ほとんどの受験者は下手糞で合格率が低い理由がすぐに理解できた。ずっと見ていても上手いのはほんの一握り。
1回目 不合格
難解なコースは覚えきれていなくてぐだぐだ。試験官には、おまえ何しにきたんだと言われた。
2回目 不合格
もっとメリハリつけろ、練習してこいと言われた。
ここで忙しくなってたしか1年ぐらいのブランク。その間に色んな人に話を聞くと、とにかく専門の限定解除教習を受けなきゃ話にならないと。その教習の虎の巻も手に入れた。
その虎の巻をみると、コース図に詳細な書き込みがあり、所作から安全確認のタイミングと場所やらコース取りなどが事細かに記されていた。
その限定解除教習はセットでかなりの時限がありなかなかの高額であるが、一限ごとに受けることも可能であった。個人的には最初から試験走行を叩き込みたかったので一限ごとに学ぶことしたのだが。結局はセットの内容、つまり段階で進んでいくだけであった。
いわゆる練習のための練習である。ひたすた一時間低速でフルロックで回り続ける。一時間ひたすら内外周路を全力で走らされる。人並み以上には出来ていたと思う。基本的に放置される。時々ノーヘルの教官が後ろから追い立ててくる。言い訳はしたくないが、こちらはスズキの岩みたいな750で、教官はピカピカのホンダの750。勝てるわけがないがこちらの意地もある。筑波サーキットならおまえは絶対に俺に勝てない。たぶん笑。
教官のホンダから逃げるために、タイヤの終わった最終ラップみたいに踏んばる。例の脇を締めて前傾の鬼二―グリップの合格用乗車姿勢だから、フロントの切れ込みには対応できそうもない。とにかくスロットルを開けて逃げる。うしろからアクセルブンブン吹かして教官は煽ってくる。タコツボターンでは意識的にスライドさせて曲がらないバイクをカバーする。
・・・とここでストップをかけられた。(あんたの)タイヤ滑りだしてきたからやめた、と。
もうバカバカしいからその教習所はやめた。HMSじゃないんだよ。そもそも教官がノーヘルなんてふざけている。舐めてんのか。
でも合格用乗車姿勢は参考になったから、それを街中で練習した。後ろに人を乗せて、フロントタイヤの空気圧を落とし気味にして切れ込みやすくして、悪い条件で低速練習をした。
3回目から5回目 不合格
内容と講評は全く覚えていない。
ヘルメットは首振り(安全確認動作)が分かりやすい白いツバつきジェット(白バイ風の)がマストともいわれていたけど、そこは自分の矜持としてアライのRX-7RR(レース用最上級モデル)で通していた。
6回目 合格
可もなく不可もない内容だった。ワンチャンありそうだけど、そんなに甘くないかなと思ったけど合格だった。講評も覚えていない。
当時の平針の限定解除試験では、常連というか何回か通っているうちに顔なじみになって不思議なコミュニティも出来上がっていた。そこに通っているだけで充足感がある。限定解除にチャレンジしている自分を憐憫する。合格のための試験攻略の怪情報。
筑波選手権の予選落ち常連組に似ていた。もっと意識を高く持たないと。傷を舐め合っていてはいけない。思い過ごしかもしれないが、試験官は受験者の意識もみていたように感じた。
技量は並みでいい。確認のための確認ではなく、自分が何をしているかを確認する意識。人馬一体感。目と目線の先。
試験官は仏頂面で好きにはなれなかったけど、バイクは危ないんだからきちんと乗れないやつ、舐めているやつには免許はやらないぞ、というのは伝わってきた。
毎回のように受験していて常連組のヒーローみたいな受験者もいた。見事なスラロームで歓声が湧くこともあった。たしかにかなりの腕だった。でもいつも何かしらミスをして不合格になる。
いやだれでもミスはする。だがそのヒーローのミスは事故につながる致命的なものだったと思う。つまり死ぬ。死ぬやつには法則がある。だから落とす。そんな気がした。
今年にはいって長い知り合いのベテランライダーが事故死した。大きなニュースになった。腕はテストライダー並。馬鹿みたいな飛ばし方もしない。バイクもきちんと整備されていた。毎日のように通勤で乗っていた。でも彼はそこまで何回か大きな事故をしていた。彼はほんの少し死の臭いが潜むライダーだった。
訃報を受けて感じた。
ああ、ついに死んでしまったのか。
あるいは僕は冷たい人間かもしれないが、そういうことってあるのである。
どうかみなさま
ご安全に