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『ワインを日々の食卓に』に潜む課題(自己紹介を兼ねて)

 こんにちは。岡田圭太です。
 愛媛県松山市の港町・三津浜でイタリア料理店「mesa」と
 ワインショップ「ふくろう酒店」を営んでいます。

ワインとの出会い

 出身は香川県丸亀市。
 高校在学中に調理師免許を取り東京のカリフォルニア料理店に就職し、
その後アメリカ・ウィスコンシン州マディソンで4年、京都で9年レストラン業界で働いてきました。
 2013年に妻の地元・愛媛に引っ越し、翌年に松山市中心部で
『UGGLA(ウグラ)』『ふくろう酒店』を開業。
 2022年、三津浜に『港の食卓 mesa(メサ)』を立ち上げ、現在に至ります。
(UGGLAは2023年に閉店)

ワインはイタリア中心です

 初めてワインに本格的に触れたのは20代前半を過ごしたアメリカ時代で、マディソンの有名店『Muramoto』や『HARVEST』、『Lombardino's』にいた頃。どのテーブルも老若男女楽しそうにグラスを傾けて食事するシーンがカッコよくて、ドキドキしながら毎日仕事していました。
 夏の休日には仲間と近くの森でキャンプして、焚き火を眺めながらワインを飲んでゆっくり過ごす。また当時、別の店で働いていたアメリカ人のルームメイトともタイミングが合えば一緒にパスタを作ってバルコニーでワインを飲みながらくつろいで…。
 気付けば、というか気付かないくらいの自然なレベルでワインが日常にあり、ワインがある事でささやかなひと時がグッと豊かなものになるような感覚がとても心地良く、いつも傍にワインを置くようになりました。しかしその頃は深くワインについて学ぶことはなく、ただただ飲み手として楽しむだけでした。

イタリアワインの世界

 25歳で日本に戻り、京都でしばらく人力車を引っ張った後、縁あって京都市内の『Ristorante美郷(みさと)』のオープニングスタッフとして働かせてもらうことになりました。
ここでイタリアワインとその歴史文化について、僕の生涯の師である毛利シェフの薫陶を受けます。
 その根幹は『イタリア料理とイタリアワインは各地方の気候・土壌等の地理的要因、伝統的な食文化と郷土料理、また歴史的背景の中で必然的に生まれ、淘汰を繰り返しながら続いてきたもの。「ワインという飲み物だけ」を切り離して考えるべきではない。』というものでした。これまで何となくふんわりと「ワインのある時間を楽しんできただけ」の自分にとって、その言葉はあまりにも壮大で魅力的な力を持って迫ってきたのです。
 その頃から僕はイタリアの歴史や地理、郷土料理などを学んだり、現地に研修に行ったり、同世代の京都のソムリエ達と深夜の勉強会を繰り返したりとイタリアワインにどっぷりとハマり、とても濃密な数年間を過ごしました。

UGGLAのワインセラー

UGGLAとmesa、ワインショップの開業

 2013年、次男が生まれたのをきっかけに妻の地元である松山に移住、翌年「UGGLA(ウグラ)」を始めました。
 開店時に作った店舗HPの冒頭文の一部を引用します。

「まだ高校生の頃に父親から「酒を飲むのは時間の無駄、酒を飲まないのは人生の無駄」という言葉を聞いたことがあります。イギリスあたりの古い文言らしいのですが、その頃は特に何を思うでもなく聞き流していた言葉です。それから十数年、飲食業に身を置きながら、いろいろな国のいろいろな場所で生活する中で、本当に多くの人達と共に酒を飲み「無駄な時間」を過ごしてきました。そしてそれはまた自分の人生にとって最高の「学びの場」でもありました。仕事仲間や上司、友人、恋人、初対面の外国人たち。怒られたり喧嘩したり大笑いしたり恥をかいたりしながら、人として人と向き合い語り合い人生を歩んできました…」

UGGLA(左側がワインショップ)

 UGGLAの営業時間は18時〜深夜まで。コンセプトは『大人のワイン酒場』。
「ワインを通して一緒に来た仲間や恋人、家族と豊かな時間を過ごしてもらいたい」という思いで毎夜賑やかに営業していました。
 同時に「ワインを日々の食卓に」をテーマに掲げて酒飯免許を取得し、イタリア・ボローニャや東京のワイン屋で修行した木原大輔君と一緒にUGGLAの隣でワインショップを始めました。
(木原君は現在松山城の近くで『Limonadier』という素晴らしいお店を経営されています。ぜひ足を運んでみて下さい。)
 忙しい日々、素敵なワイン業者さん達、ワインが好きなお客様達に支えられた充実の毎日でした。

 そんな流れで歳を重ね40代に突入した頃、家族と過ごす時間や体力的な部分を含め、もう少し早い時間帯で働ける環境を整えなければと思い始めました。
 そこで郊外にゆったりとした広い空間を構え、お客様に寛いで過ごして頂こうと始めたのが『港の食卓mesa(メサ)』です。
 戦前に建てられた頑丈で趣のある穀物倉庫を改装。7.5mの天井高。目の前は船がびっしりと並ぶ長閑な漁港。
 早朝から近くの魚市場へ通い、ランチからディナーまで通し営業。最終入店は20時。また改装と同時にウォークインセラーを併設して『ふくろう酒店』をこちらに移しワイン販売も再開しました。
 朝早く、夜も早い生活。街中とは全く違う時間の流れ。

店は漁港の目の前。
mesaのテーブル席

 そしてこの頃から「ワインを飲む・ワインを売る」事について、自分の向き合い方がこれまでとは少し異なってきたな、という感覚が芽生え始めたのです。

「ワインへの向き合い方」に対する変化

 原因はまず何よりも、自分自身がワインを飲む場所が主に「自宅」になった事。これまでは営業後に時々スタッフと飲んだり、街中の知り合いのお店に顔を出したりするような事が多かったのですが、今では終業後はサッと帰ります(まだ家族が起きている事も多いので)。休日も朝早くから活動するようになり、運動量も増え、夜は早い時間から家で食事しながらゆっくり飲む機会が増えました。
 自宅飲みなので「いろんな種類を少しずつ飲む」ということは無く、その日の晩御飯に合いそうなものを一本選びます。
「夕方にお刺身を買って来るから」
「いただいたお野菜があるから鉄板焼きにしようか」
「息子達が今日は餃子食べたいって言ってるから」…。
その時の状況に合わせてワインを選んで、家族と食卓を囲む。
これがなかなか素敵なんですよね。
 また店でワインを販売する時も同じで、ご近所さんがよく買いに来られるんですが、最近は会話の中で「今日の晩御飯は何ですか?」と聞くことが増えました。そういう感じでワインを選んで差し上げると皆さん喜ばれて、また次に来た時に「あれは良かった。今夜はお好み焼きなんだけど、どのワインがいい?」とおっしゃいます。

ワインは好きだけど、よく分からん

 そうして皆さんとお話をしていると、一様に言われます。
「ワインは好きだけど、よく分からん」
 僕はそれを、
「そうですよね〜。色々難しいところもありますよね…。」と何となく流しながら、おすすめするワインの説明を簡潔にします。すると、
「今の説明は分かりやすくて面白かった。ありがとう。
 でも家に帰るまでに絶対忘れてるね。」と…。

 思えば、以前は自分の周りのお客様・同業の知人・スタッフ・ワイン業者さん達がみんな「ワインが好き、かつ詳しく、情熱と発信力があり、能動的に情報収集する人達」でした。
 交換する情報も、SNSで見る投稿にも、ニッチで専門的な用語が並ぶ。
 いつも新しい情報、生産者を求め熱心にアクションを起こす。
 そんな方達に囲まれて過ごすうち、知らず知らずそれが当たり前になってしまっていたと思います。

いつも『ワインを日々の食卓に』と言いながら、ずっと全体の一部分しか見てなかったんです。自分の目には、大勢の『ワインは好きだけど、よく分からない人達』が見えていなかった。この人達に喜んでもらうにはどうすれば良いのだろう?

 丁寧に説明を書いたタグを付ければ解決するのか。
 定期的にワインの勉強会を開催するのはどうか。
 おすすめワインを載せたチラシを配ったらどうだろうか。
 いや、多分どれも違う気がする…。

大森敬太との出会い

 mesaの隣に、ちょうど同じ時期にテナント入居した『mirror studio』というフォトスタジオがあります。ここを営んでいるクリエイター・大森敬太とは名前が『ケイタ繋がり』という事もあり最初から気が合って(ちなみにもう一人のDD4D BEERの山之内君も「ケイタ」です)、いろんな相談に乗ったり乗られたりしています。
 ある時「ワインを楽しく飲んでもらうには」と相談をする中でポッと出た
「ワインの説明や小話をするところを動画にしてみましょう」というアイデア。
「それがQRコードになってワインボトルにくっついて来たら面白くないですか?」
え?そんな事出来るの?
 ……出来るんですね。スゴイですね、大森敬太。

Talking Bottles(食卓にお喋りなワインを)
ワインのストーリーがQRコードに

 そのワインが、
 生まれた土地。
 使われたブドウ品種とその性格。
 見た目、香り、味わいの印象。
 相性の良い料理。
 造り手さんのこと。
 ちょっとしたエピソード。

Talking Bottles.
 食卓にお喋りなワインを。

ボトルを開けてグラスを傾けながら、スマホでQRコードを読んで動画を開く。
飲んでいるワインについて少し知る。産地や畑に想像を膨らませてみる。話を聞きながらグラスの中に同じ香りを探してみる。事前に一度動画を覗いて、晩御飯の献立を決めたりしても良いかもしれません。夫婦の時間、家族の食卓、もちろん一人でも。また誰かに届けて、その食卓にもちょっとした喜びを。

「ワインを日々の ”普通の” 食卓に」

まだ始まったばかりで荒削りですが、これから試行錯誤して少しずつ磨き上げていきます。
ぜひ一度、手にとってみて下さい。

それでは。


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