短篇【plastic love】西野七瀬
揺れる_______
シングルベッドで寝る僕らはかなり密着したままで五月の微力ながらに火力が強い朝の最中。
隣の彼女と組んで寝た次の日は少し重く、
汗ばむ身体の不自然さに起きてしまう。
囀りは著しく遅い。何かの暗示かのように思える高音が自らの意識を跳び起こす。
隣で安眠している彼女を起こさないようにベッドから出て、大きく欠伸をして身体を伸ばす。
芙蓉な夜は未だに肌寒く、着込んでいたパーカーがリビングの庭下で散乱していた。丸まった衣服の色が朝焼けと混ざる。
床に彼女のTシャツがあることに気づく。
冬の羽毛布団の蟠りからゆっと轍に変わって、
息を吐くように汗が出る。
この後片付けよう________
スタートをお知らせするコーヒーの準備を、
専門店で買ったパックの粉を開封し、湯を入れて蒸す。とりあえず二つカップを出して、一つだけ準備する。
自分の分だけ湯入れて、味を出す為に待つ。
嘘なく楽しみたい一心で、換気扇の悦びの歌を鳴らしながら数分の至福を見る。
この時間は妙に慎重な雰囲気、曖昧さを感じる瞬間の上でコーヒーの滴る音が朝を深く描く。
「おはよ……」
『あれ、七瀬起きてたの?』
少し離れた所から短く一歩ずつ進んでいく彼女は、瞼の帳をゆっくり擦るだけで。
「コーヒーの匂いがおはようって言ってたの」
『夢を見たんだ、起こしちゃってごめんね』
「ううん…大丈夫…それより暑い」
『下着なのに?』
「関係ない………」
「じゃあ扇風機回すね、弱でいい?」
すると彼女は僕の背中に顔を埋める。薄く目を閉じたまま、拒めない時間になる。固まった身体同士の畝りは心難く残る。
『七瀬そんなにくっついてたら作れないって』
「じゃあ今はやめて……」
『湯覚めちゃうし扇風機だってつけれないよ』
「どうせ一人分しか作ってないでしょ?」
『……起きてくるとは思ってなかったからね』
「死刑に処す」
『重すぎない?』
『朝のコーヒーは絶品だよ…正直の瞬間なら〇〇よりも優先度は高い…」
『じゃあ付き合うのやめる?笑』
「……冗談でもそういう事言うな」
『怒るなって、焚きつけたのそっちでしょ?』
「関係ない………」
苛つきながら僕の背中から微動だにせず、そのまま会話する。
埋まった言葉の音は僕の背中を通して
心臓を経由して、僅かに耳に入る。
彼女との普通の会話が何故か寂しく聞こえる不思議な状態だった。
『七瀬………』
透明な言葉から逃げた、まだ昼にもならない。
「何………」
『今日も可愛いね…』
普通の告白は無様になっても。
「照れながら言うなよ………突然だし……」
『………突然じゃ悪い?』
「うざっ………もっと言って………」
綺麗に透き通る告白に変わる。
『素直でもっと可愛い』
その言葉を聞いて照れる僕と既に照れてる彼女の新たな門出を、彼女のお湯が徐々に沸騰する音で高らかに祝う。
微笑んだのは確かで、
苦味で時間が生まれそうだった。