Aene

これはペンですか?いいえ恵比寿です。

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  • 短篇集

    小さく纏めた

  • 愛音の日没

  • 長篇集

  • 【僕らの唄が何処かで】

    纏め

最近の記事

短篇「それは、アダンの風」

貴方が教えてくれた音楽で 「ねぇ、君ならどうやって海に行く?」 これからを探しに行く。 唖然とする。 今の日付、6月24日のページを開いたまま今日起きた些細な出来事を記していく僕は、何も不明な女性に話しかけられた。視線は屋上の端、柵もなく無防備な心の拠り所に向かう。 「……そこ、危ないですよ。柵もない屋上のそんな所で佇んでしまっては、落ちてしまいます」 「大丈夫、私空飛べるから」 厚底ローファーを鳴らして愉快に佇む彼女は、セーラー服の影を踏まないように、その身をゆっ

    • 短編「16小節と付点四分」

      「ねぇ、こんな感じで弾いてくれない?」 不和、そんな想いを伝える。 梅雨入りした私の学校の教室。占領していた人間のヒビが、キャンパスに表現される不快感のように、窓をぽつぽつと鳴らしていく。 誰かが逐一反論する隙もなく、私は大好きな「練習」に性懲りも無く励む。 左手の指先が血だらけになろうと、右手の爪の先端が地獄の蓋のようになっても、余白のない譜面を飽きるまで睨めっこし続けても。 私は誰よりも真剣に、彼女らを説いた。 「もう少し丁寧に弾いてよ。テンポもブレてるし、所

      • 短篇「幽霊の夏、そば粉と」

        こんな瞬間の後は蕎麦を食べたくなる。 「私の浴衣、どう?」 柄にもなく、さっきまでウレタンマスクで蒸れてた私の顔を彼のすらっと伸びた横顔に近づける。自分の吐息が循環する不快感を忘れようとしながら、彼の優しい声を聞きたくて、ゆっくりと甘えるように肩に合わせた。 「やっぱり菜緒は青が似合うね」 いつもなら彼から寄り添うのに今夜に限っては、私の方から無闇に近寄りたくなった。 そんな優しい彼は嫌な顔一つせず、こんな風のような気分の私を迎え入れる。 疲れからなのか、この日は

        • 短篇「逢引」

          『今日もまた相談にあったんだ……?』 まだ尻が青く、時代を謳歌し切れてなかった時期。矢鱈に世界を覗きたくなる学生の青さが虚に空を映す。 僕は最初から最後まで何もかも中途半端だった。 本来推奨される野心が生活の困窮さの中で際立って、僕は何をするにも全て途中で諦めていた。 部活に勉強に、試せるだけの可能性を捏ねくり回してとりあえず一年は消費した。 体験入部を沢山繰り返しても、いつもの結論をすぐ見つける癖がこの場に及んで浸りすぎて、結局全てに見切りをつけてしまい、勤勉

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        • 短篇集
          23本
        • 愛音の日没
          3本
        • 長篇集
          2本
        • 【僕らの唄が何処かで】
          9本

        記事

          短篇【無花果】森田ひかる

          あれは確か去年の冬だった気がする。よく澄んだ空気が漂い、そこはかとなく綺麗という言葉が似合う季節になっていた。 「………寒っ」 随分減った町の人口にも看過せず、私はぶっきらぼうにポケットに手を突っ込んだまま駅のホームで電車を待つ。 炬燵に包まりながら食べるアイスのようなギャップが愛おしくて、教育的に注意されながらもポケットの中に手を入れて、指を絡めてしまう。 これを下校の妙というべきか、閑散としたホームには同じ方面の同じ学校生たちがちらほらと、短いホームに一列となって

          短篇【無花果】森田ひかる

          時を奏でる筆の終わりと始まり

          「初恋」から始まり、「芍薬」で終わる。 そんな愛音の一年の終了の鐘を鳴らしたのは、この文章を書いている時だった。 正直再度筆を手に取り物語を綴る事も出来た筈だったが、今年の終わりを微塵でも感じてしまった私は筆を置く事で来年への活力を見出すことにしたのだ。 モーメントとnoteに載っている愛音が書いた今年の作品は短篇(15本)と長編(2本)という内訳になるのだが、最後の長篇以外あとがきをしっかりと明確に書いた覚えがない。投稿後に偉そうな文字で引用したり付け加えたりはしていた

          時を奏でる筆の終わりと始まり

          短篇【芍薬】

          携帯電話は携帯しなくちゃ意味がない。 家で居眠りを続けるようなら持つ癖自体に疑問を持たなくては、毎月払うべき料金が馬鹿馬鹿しくなるだけ。 上辺の友達しか記載されていないアドレス帳を見るのが好きだった携帯も今や持つことさえ忘れる始末で、私は何の為に買ったのか、何の為に月額払っているのかを大学の授業中に思い出しては笑うぐらいになってしまっている。 そんな私は金曜5限の授業後、授業プリント配布の際に誰かから渡された紙切れを元に学校から半歩で行けると認識されている近さの公衆電話

          短篇【芍薬】

          短篇【春から電話が来て】生田絵梨花

          無意識の疲れは解放されたバイト後にも続く、 他の学生たちに話を聞くと音楽を聴くとか、カラオケ行くとか、ただ友達と駄弁るとか。 今の僕からしたらそんなもの癒しになり得ないと吐露してしまうほど、癒しというものに対して軟弱に飽きていた。 「歩くのだるっ……………」 5時間程度の労働を週4回でこなしていたとしても、僕の部屋に着く頃には8時間労働と同じような疲労が膝と足の裏に潜んでいる。 それを毎月毎週繰り返して、また朝が来る。普遍的でなんとも形容し難い学生生活。 そうやっ

          短篇【春から電話が来て】生田絵梨花

          短篇【君はさせてくれる】白石麻衣

          冬の起き抜けの気分は屁古垂れるほど苦しく、彼がいなくてはベッドから這い上がることすら困難だった。 「…………麻衣、アラーム鳴ってるけど?」 私よりも遅く出勤する彼はいつも私の目覚ましの音で無理矢理起こされる可哀想なやつだ。此処から離れた場所で就職したのが運の尽き、彼は付き添いのように目覚めることになる。 昨日かけたはずの暖房は私達が転寝をしている頃に閉じたと思う。私はそんな設定にした覚えはないんだけどね。 そういえば昨日片付けるはずだった段ボールがまだリビングに転がっ

          短篇【君はさせてくれる】白石麻衣

          短篇【煌めく流星の中で】小坂菜緒

          光は瞬く間に消えていく、それは人との関係も同じで。 プラネタリウムの仕事は基本単純で、座席などの案内と受付業務と開演前と開演後に大きく動く以外に特にやることはない。 だから空いてる時間には子供と会話したり 中に入って星を観る事を許されていた。 そんな緩い仕事を大学に入ってから2年ほど 無心にやり続けている。今までこの仕事が惹きつける力が理解出来なかった。 そんな中いつもの”常連さん”が来る、 いつもの時間に。 少し不本意な笑顔で接客する私に 「あの、すみません…」

          短篇【煌めく流星の中で】小坂菜緒

          短篇【SUN DANCE】齋藤飛鳥

          9月28日の昼間はまだ想像以上に涼しくて、重ね着を楽しむ頃でもあった。時計の針が頂点で連なる時間に私達はお馴染みの喫茶で身体を休める。 ここには見慣れた人たちが安息の場所として隠れるためにあるような雰囲気で彼氏に教えてもらった時は、独占されていたようで少しだけ苛ついた。 最近いつも頼むアイスコーヒーから身体を癒す熱い珈琲に変わった。とても小さい変化だが、大人への背伸びをした気分で意気揚々と息舞う。 清流のように漂う休日を無料で楽しむ私達は今日買った雑貨を隣に置いて、喫茶

          短篇【SUN DANCE】齋藤飛鳥

          長篇【夢の島、君の声】賀喜遥香

          「私来週死ぬんだ」 揺るぎない昼休みから、声が聞こえる _____________ 10月に似合わない寒い日 屋上に来た僕は先客の彼女に突如余命を告げられた。頬の痛みを抑えながら快晴の空の下、太陽の光によって暖められた屋上に寝転ぶ女性に悠々と。 マフラーで顔を埋めた彼女のことを、 濡れている僕はまだ知らなかった。 『あの……誰ですか…?』 微笑みながら、答えを添えていく。 「私は君を知ってるよ、いつもこの屋上にいるから屋上君って名前でしょ?」 心の芯を突かれて

          長篇【夢の島、君の声】賀喜遥香

          長篇【僕らの唄が何処かで】西野七瀬

          【春の手前、何もない生活】 ———————今日も疲れた。 筋肉が萎縮した後の慢性的な疲労ではなく、人と出会い、人に気を使う事への途方もない疲れが何処となく体に流れてくる。 東京という世界は異様で恐ろしい。仮面を着けているような表情と棘のある言動には、正直僕の幼少期のトラウマの一つとして、片隅の奥でウジウジと住み着いている。 だからこそ自分の閉鎖的な家の隅で、静かにしている時の方が気が楽だ。 今日の晩飯は上手く作れた気がした。日頃の行いか努力の結果か、高2の冬時点での

          長篇【僕らの唄が何処かで】西野七瀬

          短篇【初恋】鈴木絢音

          私はただ本を読むだけ 貴方はただ隣にいるだけ それだけでこんなに苦しいとは思わなかった。 嫌気が漂う部屋、込められた何かが苦しそうだった。私から出て行く煙が洒落に回る換気扇に吸い込まれて行く。 隣の彼は私の愛読書には目もくれず、目を瞑ってゆらゆらと意識を楽しんでいるだけ。 何もしてないのが何か楽しんでることだ。 『絢音って煙草吸ってたんだ…』 机の上にある恋心が彼との間を映す 「前からね、本当に嫌な時だけだけど…」 『なんかあったの…?』 重い空気は言葉も重

          短篇【初恋】鈴木絢音

          短篇【地球人になった気がする】鈴木絢音

          この星は人の意識で汚れて行った。 それは自然環境的な問題ではなく、悪意や悪用を重ねた人間たちの憎悪が空に溜まり、形を変えて天変地異となって世界を襲う。 ただそれは多分、嘘だと思う。人間は何かの原因を作りたがる。元々弱っていた地球の活動が幸運よく、我々の都合に合致しただけだろう。 宗教の存在を否定するわけではないが、そうやって、人間は信じて媚びてを繰り返すと其々の教科書が言っている気がする。 僕はまだ高校生ながら、この団地を全て知った気でいた。まるで精密に書かれた地図を

          短篇【地球人になった気がする】鈴木絢音

          短篇【夜間飛行】渡邉理佐

          蝉達の切削な合唱が途絶えていく秋の始まり まだ残暑の延長で再開した学校に止め処なく労る生徒たちは、気怠く息巻いている。 特質された面白みも健気な話も途切れて、だれていくだけだった。 微妙に鼓膜を遊ぶ蝉の泣き声は二ヶ月間の休みの距離を徐々に縮めてくれる。 今は数学の時間 教師が書く公式がチョークの無駄遣いと 思えてしまうほどに。 ここには希望はなく、同じような顔をした同士たちが表面上で必死に黒板を写す。 僕は空気だ。 誰も見ないし、誰も知らない。 窓側の1番端に佇む

          短篇【夜間飛行】渡邉理佐