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切り身は良いけど、切り取り報道は

高級魚、いや近年高級魚と言われるようになったノドグロという魚をご存知でしょうか。昭和生まれで鳥取県育ちの私からすると、ノドグロは安くて庶民的な魚で、煮付けを食べて育ちました。それが今や高級寿司ネタの代名詞とも言われるほどに昇格し、私が住む富山県では、稚魚を放流して漁獲を安定させようという取り組みが行われています。さて…

プロテニスプレーヤーの錦織圭選手が 2014年9月に全米オープンで準優勝し、帰国時の記者会見で「ノドグロが食べたい」とコメントした事で、一気にノドグロの知名度と価値が上がったと言われています。折しも翌2015年に北陸新幹線が金沢まで開業し、元々よく獲れていた北陸が、ノドグロ産地として注目を集めることにもつながりました。

ノドグロは口の中が真っ黒なことから呼ばれる通称で、正式にはアカムツ。鮮度が落ちやすく、元々は焼き魚や煮魚として食べられていましたが、鮮度保持技術の向上で刺身でも食べられるようになりました。全身白身のトロと呼ばれる独特の甘みが魅力ですが、少し炙ると一層旨味が引き立ちます。

実は錦織選手のノドグロ発言は、典型的な「切り取り」報道であることは、あまり知られていません。多くの人は錦織=ノドグロ好きと解釈していると思うのですが、あの記者会見で錦織選手はノドグロを「ドラフト2位」として発言していて、その前段が切り取られているのです。では1位は何だと言ったのか?実は「鮎」と言っています。「鮎が食べたいですが、今は時期じゃないので、ノドグロとかあれば食べたいですね」が正解でした。


錦織圭選手はノドグロという前に「鮎」が食べたいと言っている

全米オープン制覇は9月なので、まだ鮎も十分美味しい季節ではあるのですが、錦織選手のイメージでは梅雨時期あたりの若鮎だったのでしょうか。旬を意識した粋な発言だと感じます。一方で錦織選手ゆかりの島根県=山陰地方では、おそらくノドグロは煮付けか塩焼きで食べていたはず。それが今や、上等な寿司ネタや刺身として重宝されるようになりました。

影響力のある人の発言から、水産業や海の豊かさの重要性へと認識が広がっていったことは素晴らしい事です。一方で、ドラフト2位だけでなく、1位に挙げた鮎のくだりが忘れられているのは、魚好きとしては寂しい話です。

魚だけに、切り身はいいのですが、切り取り報道は歓迎されませんね。

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