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韓国「ソウル型」引きこもり

「韓国で一人暮らしの『引きこもり』が問題になっている」。支援団体関係者から聞いた話に関心を持ち、取材してきました。

金利昣(キム・イジン)さんは日本語がペラペラの男性。コミュニケーション能力も高い印象を受けましたが、短期就労と引きこもりを繰り返す生活は20歳のころから10年を超えているそうです。

金利昣さん

「精神状態が特にひどい時期はインターネットも使わず、家に1年以上閉じ籠もった」。季節の変化に気づかず、ダウンコート姿で外に出たら真夏だったということもある。中学2年の時、アルコール依存症の父が倒れて意識を失っているのを「いつものこと」と放置し、父は寝たきりになった。自責の念に駆られるうちに躁鬱(そううつ)病を発症。高校卒業後、現実逃避するように日本に渡ったが、投薬の中断で症状は悪化し、帰国後は社会生活を送れなくなった。「男のくせに情けない」。周囲の視線は冷たい。最近はコンビニやカフェのバイトさえ〝門前払い〟される。「30歳を過ぎて就職していないと、韓国社会では『正常ではない』と扱われる」と首を振る。

なお、金さんは昨年、引きこもり青年が社会復帰に挑む様子を撮影したSBSの番組にも出演。番組後は短期の契約社員職にも就いたそうですが、業務中にパニック障害を発症し、今年に入ってからは再び自宅での生活が続いているとのことでした。

↑コミュニケーションに不安を抱える青年が、店の壁に開いている穴から毛むくじゃらの「クマの手」で商品を提供するカフェ。日本から取り入れたアイデアだそうで、知りませんでした。

ソウル市は今年1月、19~39歳を対象に「地方自治体で初めて」(市担当者)という大規模調査の結果を発表。家族以外との対面が年1~2回以下の「孤立」と、外出しない状態が半年以上続く「隠遁」を合わせた引きこもり青年は若者の4・5%に上り、市全体で12万9千人と推計されました。個人的にはとても多いな思ったのですが、感じ方は割と人によるみたいですね。

ソウル市の調査結果からは「学生時代の不登校などがきっかけで外出しなくなり、家族の援助を受け生活する」といった従来のイメージと異なる引きこもりの実態も浮かびあがった。きっかけとして多く挙がったのは「失職、就職難」。約半数が地方出身者で、1人暮らしが3割近くを占めた。李氏は「上京した若者が就職に失敗し、家族もいないというのが『ソウル型』の特徴」と分析した。1人暮らしの場合、食生活に及ぼす影響も大きい。韓国ではアプリ決済を通じた出前文化が発達しており、44%が主な食事を「出前」と回答。金さんももっぱら栄養バランスを欠いた出前に頼り、「体重は60キロから一時、90キロに増えた」と振り返る。


ソウル市は調査結果を受けて4月、総合支援対策を発表しました。しかし、支援団体関係者によると、年間の支援対象者を500人程度と想定されており、現実の13万人に遠く及ばないと言います。

なお、韓国の引きこもり問題では、議論が始まった2010年代前半から日本の福祉団体も支援団体に携わってきました。

不登校や引きこもりの若者の自立就労を1980年代から支援しているK2インターナショナルグループ(横浜市)は、韓国の福祉関係者から相談を受けたのを機に、2012年ごろからソウルでも活動を開始。日韓の引きこもり青年が飲食店で働きながらシェアハウスで共同生活を送る支援事業を続けてきた。新型コロナウイルス禍で韓国から撤退したが、金森克雄代表は「準備が整えば再開したい」と意気込む。

韓国で支援に携わる日本の関係者らが強調するのは、韓国行政の「スピード感」です。対策をやるとなれば、行政が一気に動く。一つ一つの手続きに時間がかかり、新事業への予算がなかなかつかない日本の状況と対照的なのだそうです。

反面、韓国では保革陣営の政治対立が、福祉政策にも影を落としています。ソウル市では21年4月、市長が革新系から保守系に交代すると、問題を抱える青年らの活動拠点として革新系時代に整備された市施設「革新パーク」の取り壊しが決まりました。この施設自体も、前任の呉世勲市長時代の事業予定を撤回して建てたものなのだそう。「革新パーク」というあからさまな名前では、確かに残すのは難しそうですが…被害をこうむるのは施設の利用者ですね。

日本の支援団体関係者は「長期的な視野で引きこもり問題に取り組む民間事業者を育成することが、韓国の課題」と語っています。

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