韓国大統領選連載③ー86世代ー
大統領選はとっくに終わりましたが、選挙戦中に掲載された連載記事の最終回を一部紹介します。全文は以下のサイト(「憤る若者 保守支持に回る 「正義」と「偽善」の50代に反発」https://www.sankei.com/article/20220226-LAOTYSEAKJPFJFD4YB4L7E2QSY/ 有料記事)です。
国会議事堂が位置するソウル・汝矣島。「今までの人生で、保守政党に投票したことはない」という与党「共に民主党」の30代の女性職員は、職場横の喫茶店で声をひそめた。「党内の『86世代』と仕事をするようになってから、民主党には投票できないと感じた」
「86世代」とは、1980年代に大学に入学した60年代生まれを指し、現在の50代に相当する。民主化を求める市民に軍が発砲し多数の死傷者を出した80年の「光州事件」後、軍事政権打倒に向けた学生運動の主体となった世代。現国会では議員の約6割を占める最大勢力で、文在寅政権でも中心的な役割を果たしている。
女性職員は、不動産価格の抑制など複雑な経済政策が求められる状況にも、86世代の党幹部が「いまだに『資本主義は悪だ』などと時代錯誤の説教を垂れる」と批判。実は高級住宅地のソウル・江南地区に住み、子供を海外に留学させていることを後に知り「衝撃的だった」と振り返る。
「世代でいえば、野党議員だってそう変わらないんじゃないですか?」そう尋ねたところ、女性職員は「野党議員はそもそも悪党の顔をしている。与党議員は外面がいいのに中身がひどいので、余計に幻滅するのかもしれない」と話していました。なるほど。
■「偽善」明らかに
新造語として広まった90年代後半~2000年代には、韓国社会の各分野で若手の改革勢力を指す言葉だった「86世代」は、近年「既得権」の象徴として批判される対象になった。印象悪化を決定付けたのが、文政権の高官の間で相次いだ不正疑惑だった。
保守政党や財閥の「積弊(積み重なった弊害)清算」を訴えた政権発足当初から、違法な不動産投機などが次々と発覚した。
次期大統領候補の一人だった元法相、曺国(56)は、娘の進学に絡む不正で、妻の実刑が確定。学生時代から「正義」を唱えてきた86世代の「偽善」が露呈した。
男前ですなー(朝鮮日報サイトから)
高度経済成長を遂げてきた韓国で、「親より貧しい初めての世代」と呼ばれる若者たち。彼らの目に、与党幹部らは「ろくに勉強もしなかったくせに、民主化運動に参加しただけで現在の地位を築いた」(ソウル市内の男子大学生)と映る。対照的な存在が、昨年6月に保守系最大野党「国民の力」代表に就任した李俊錫(36)だ。米ハーバード大出身で「今時、職場でエクセルが使えない若者はいない」とITにうとい86世代を揶揄する李に共感し、若者たちは野党支持に回った。
絶大な人気で弁舌さわやかなのに、選挙では落選続きで国政経験のない党代表(聯合ニュースサイトから)。選挙戦の遊説でも、野党支持者の高齢者たちは冷めた様子で李俊錫さんを眺めていました。
■「啓蒙」続ける
危機感を強めた与党代表、宋永吉(58)は先月25日、次期総選挙への自身の「不出馬」を宣言した。会見では「86世代が既得権になったという党内外の批判の声がある」と認めた上で、「選挙区という既得権を手放し、若い政治家が挑戦できる空間を作る」と強調。党全体に世代交代を呼び掛けたが、支持は広がりを欠いた。
もっとも86世代には「民主化運動の功績が不当に低く評価されている」との不満も根強い。保守陣営のスキャンダル報道を主導する革新系ユーチューブ放送局「開かれた共感TV」の記者、姜珍九(54)は、民主化と前大統領の朴槿恵を弾劾罷免に追い込んだ「ろうそくデモ」の経験を強調。「両方を知る立場で、責任を持って下の世代を正しく導かなければならない」と「啓蒙」を続ける必要性を説く。
連載の第一回、選挙報道のテーマで取材をお願いした「開かれた共感TV」の記者さんですが、若者との視点の違いが面白かったのでこちらでコメントを使わせてもらいました。
一方、86世代と若者に挟まれた40代は、与党支持を最も鮮明にしている世代だ。光州事件の前年に事件現場近くで生まれた男性公務員(42)は「与党の実績を評価しているわけでは全くない」と強調した上で、「この世代は、光州事件に関する生々しい話を聞いて育ち、盧武鉉元大統領が苛烈な捜査で死に追いやられたのを目の当たりにした。保守政権への不信感はぬぐえない」と話す。
こちらからお願いして取材に応じてもらった男性公務員に、なぜかお昼をご馳走になる。ほんと韓国では、取材先がコーヒー代を出してくださることも多くて、申し訳ない気持ちになります。
20~30代と40~50代、「世代間対立」が如実に反映された今回の大統領選。審判は、まもなく下る。
結局、2週間後の選挙では尹錫悦氏が未曾有の接戦を制しました。連載では地域対立が姿を消した、とか20~30代女性が「共に民主党」に背を向けたとか書きましたが、結果は地域対立も依然として残り、女性票が最終盤で一気に李在明氏に集まるという、想定外の結果になりました。刻一刻と情勢が変わる、さすが韓国、という選挙戦でした。