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【短編小説】アンドロイドの声(2)


男はその若者の言葉に驚いた。

「人権団体を支援してほしい?一体どういうことだ。アンドロイドに人権を与えるとなると、アンドロイドの生産や販売に制限が付くこともありえるだろう。あの血を流す特注品のアンドロイドだって、君や君の同業者の作品だ。どのようなものでも、君たちが利益を得ていることには違いない。他のアンドロイドにしても、人権を持たぬただの機械だからこそ、ここまで普及し利用されているのだろう。それを、あのHumanity の代表者がアンドロイドに人権が与えてほしいなどと。私には君の意図が理解できないな。」

「確かに市長のおっしゃる通り、アンドロイドに人権が与えられれば、わが社の売り上げにも大きく影響が出るでしょう。ですが、このままこの問題を傍観している間に、自体がもっと悪い方向に動かないとも限らない。そうであるならば私は自分の手でかじ取りをしたいのです。確かに、人権が与えられることで、今後尊厳を踏みにじるような特注品は作れなくなってくるでしょうが、それも"表立っては"の話です。逃げ道はいくらでもありますし、実はアンドロイドに人権が与えられれば、今以上に利益を得られると私は確信しているのです。というのも、わが社も人権ビジネスを始めようと思いましてね。」

人権ビジネス。その言葉に男は納得した。その手のお金稼ぎは男もよく知るところだった。それを目的としたお願いを何度か引き受けたことがある。いずれも男の想像以上の謝礼を貰えた。詳しいことはわからないが、きっと大儲けできるのだろう。

「……なるほど、君の言いたいことはよくわかったよ。何もかも計算ずくというわけだ。だが、君の願いを叶えることは、それほど簡単なことではないと理解しているかね。それは、アンドロイドの人権が注目を浴びていてもだ。つまり、私の言いたいことはわかるだろう?」

男はそう言いながら、指をこするようなジェスチャーをした。仕事への対価を要求していることは明らかだった。

「ええ、もちろんです。後日、市長のご自宅まで使者をお送りします。きっと市長も満足していただけるはずです。」


後日、男が自宅で休んでいると自宅のチャイムが鳴った。そして、男が自宅のアンドロイドに応対を頼むと、アンドロイドは玄関へと向かっていった。それが押し売りでも宅配便でも、アンドロイドがいいように対応してくれる。男が訪問客など気に止めずくつろいでいると、アンドロイドはしばらくして、とびっきりの美女を引き連れて帰ってきた。

男はその女性の美しさに驚いたが、その異様なほどの美しさから、それがアンドロイドであることはすぐにわかった。特別製のアンドロイド。きっと彼女が Humanity からの使者に違いないと男は確信した。

「君があの若者の使者かね?」

「はい、私は Humanity から参りました。本日は社長から言伝を預かっております。」

使者はそう言いながら、携帯型のホロデバイスを床に置いた。ホロデバイスはチカチカと何度か点滅した後、若者のホログラムを流し始めた。

「市長、先日はありがとうございました。お約束通り、市長にはプレゼントを用意しました。TA-901、市長にあれを渡して。」

若者のホログラムに促されるまま、使者はアタッシュケースから小さなカードとタブレット端末を取り出した。そして、それらを男に渡した。

「まずは、そのカードについてですが、それがあればこの世に買えぬものはないでしょう。市長のお好きなようにお使いください。もし経費として誰かにお金をお払いいただく場合も、そちらを使っていただいて構いません。

また、プレゼントはそれだけではありません。人権獲得のためには、人々の心と世論を動かす仕組みも必要でしょう。人造人間たちの境遇の悲惨さを語る代弁者を用意しました。タブレット端末にアクセスいただければ、必要な情報がすべて入っています。そこに記載してある人とアンドロイドが、市長の思うがままに動く手足になってくれるでしょう。」

男は若者の用意周到さに驚き、感心した。さすが、若くして莫大な資産と権力を得ただけはある。

「まったく。君は何もかもが完璧だな。いかにして私がはかりごとを行うかも、どのような使者を送れば私が喜ぶかも。その若さで、君は何もかもわかっている。」

男は上機嫌だった。若者はその様子を見てにっこりと笑いながら言った。

「ありがとうございます。もし市長が彼女を気に入ったのであれば、市長には彼女もプレゼントいたしましょう。今すぐではなく、何もかもが終わった後にはなりますが……。もちろんそれは人権侵害ではなく、人権あるアンドロイドと市長の個人的な付き合いとしてね。」

男は若者のその言葉にいっそうの笑みを浮かべた。成功報酬も付くとなれば俄然やる気が沸いてくる。男は目の前に立っているあの美人なアンドロイドをじっと見つめながら、それを手に入れたときのことを思い浮かべ、舌なめずりをした。


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