てるぼい | ショートショート | 小説

不定期に短編小説やショートショートを上げています。

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【ショートショート】静かな侵略【短編小説】

地球に宇宙人が現れた。彼らは非常に大きな円盤形の宇宙船に乗ってやってきた。 宇宙船は最初、ヨーロッパのとある国の上空に出現した。上空に浮いているだけで何をするでもなかったが、空を覆い隠す程大きな物体が現れたことで人々は不安に駆られた。 この事件は世界中で瞬く間にニュースになり、巧妙なフェイクニュースだの、某国の新兵器だの様々な噂が飛び交った。各国は当初お互いを疑っていたものの、やがて地球外からやってきた宇宙船だと認め、全世界で対処方法について議論を始めた。 宇宙船は出現

    • 【ショートショート】無限回廊

      あるところに男がいた。男は今、四方が白い壁で囲まれた、窓も時計もない無機質な空間にいる。男はこの無機質な空間で立ったまま気絶しており、たった今目を覚ましたのだった。 男の記憶は曖昧で、自分が誰なのか、ここがどこなのか、何も思い出せない。ただ、胸の奥では不安が渦巻き、説明のつかない焦りがこみ上げてくる。 「お目覚めですか?」 背後から声がした。振り返ると、白衣を纏った老人が立っている。彼は張り付いた氷の笑みを浮かべて男を見つめている。微笑んではいるものの、老人の冷たい目線

      • 【ショートショート】理不尽な世界(5)

        男が紳士の背中を見送っていると、隣にいる痩せた男が、静かに声をかけてきた。 「君はどこで先生に会ったんだい?」 「先生?」 男が問い返すと、痩せた男はハッとしたように表情を変えた。そして少し申し訳なさそうに頭を掻きながら言った。 「ああ、ごめん。君は来たばかりだったな。先生っていうのは、さっき君が話していた人だよ。彼はみんなからそう呼ばれているんだ。ここでは誰も本当の名前を使わない。みんな始まりにまつわる場所や物から名前を取ってコードネームにするんだ。」 「コードネ

        • 【ショートショート】理不尽な世界(4)

          男はこの一瞬まで気付かなかったが、あの名刺の番号に電話をかけることで、自分の人生を変える出来事が何か起きるのではないかと期待していたのだった。きっと最悪な日常を変えてくれる何か特別なものがもたらしてくれる。そんな思いに駆られたからこそ、電話をかけ、ピザまで届けてもらったのだ。その結果届いたのは何の変哲もないマルゲリータとアップルジュースだった。 「あれは本当にただのピザの配達だったのか…」 男は肩を落とした。そして、仕方なくピザを口に運んだ。一口、また一口と食べ進めるうち

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        【ショートショート】静かな侵略【短編小説】

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        • てるぼいショートショート
          15本
        • アンドロイドの声
          5本

        記事

          【ショートショート】理不尽な世界(3)

          その紳士はそう言うと男に小さな白い紙を差し出し、立ち去っていった。紙には電話番号と謎の記号が書かれていたが、裏返すとそれが先ほどのバーの名刺だとわかった。いつの間に用意していたのだろうか。 男は家に帰る途中、何度もポケットの中の名刺を確かめた。頭の中では、あの紳士の言葉がぐるぐると回っている。 「あなたはこの国で数少ない選ばれし人間なのです。」 男は自分の存在がここまで好意的に受け止められたのは、生まれて初めてだった。男はこの紳士に対して好意的な印象を持ったが、彼に電話

          【ショートショート】理不尽な世界(3)

          【ショートショート】理不尽な世界(2)

          店は開店したばかりのようで、バーに入ると他に客はいなかった。 男はカウンターに座り、ウイスキーを注文した。注文を受けたバーのマスターはどのようなウイスキーが好みかと男に尋ねたが、男が食い気味に「なんでもいいから早くよこせ」と言うと、それ以上は話しかけてこなかった。 一杯のウイスキーを時間をかけてちびちびと飲んでいたため酔いは全く回らないし、イライラした気持ちも全然落ち着かない。誰かにこの気持ちを共有したいと思っていると、若い女性が二人店に入ってきた。彼女たちがカウンターに

          【ショートショート】理不尽な世界(2)

          【ショートショート】理不尽な世界(1)

          あるところに小さな国があった。 この国では政治家や軍上層部の汚職がまん延していた。人々はこれに長い間苦しみ続けたが、とうとう立ち上がる人が現れ、クーデターによって国を変えた。今まで私腹を肥やしていた支配者層はこぞって処刑され、国のシステムも刷新されることになった。だが、システムを新しくすると言っても、どうあるべきか人々にはわからなかった。もし深く検討せず、これまでと同じように国を運営してしまってはいずれ同じ轍を踏むことになる。 人々が悩んでいると一人の男が現れた。彼はこの

          【ショートショート】理不尽な世界(1)

          【ショートショート】人間らしさが一番?

          あるところに四人の男がいた。今小さな部屋に入れられ、四人で机を囲んでいる。 彼らは先ほどまでお互いの顔も名前も知らぬ、お金を目的にアルバイトに参加した他人同士だった。彼らの参加した仕事とは、アンドロイド研究者のとある実験への協力だった。そして、仕事の契約書を書き終えるとすぐに、わけもわからぬまま部屋に案内された。 彼らを案内した係りの者は言った。 「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さまには本日、当社のアンドロイドの性能実験にご協力いただきます。

          【ショートショート】人間らしさが一番?

          【短編小説】アンドロイドの声(終)

          男の死から数日後。若者のもとに警察官が訪ねてきた。警察はアンドロイドの情報を提供してほしいとの事だった。 「突然押し掛けてしまってすみません。市長の死についてご協力をお願いしたくて来ました。テレジアと呼ばれていたアンドロイドが市長の最後を看取ったとのことですが、どうもあのアンドロイドはホロメモリーを持っていないようでしてね。あれは社長が市長に提供した特注品というので間違いないですかね?」 突然の訪問であったが、若者に驚いた様子はなかった。若者は警察官の問いかけに対して冷静

          【短編小説】アンドロイドの声(終)

          【短編小説】アンドロイドの声(4)

          「歴史的な瞬間です。本日、メガロポリス議会でアンドロイド人権法案が可決されました。この時をもって、アンドロイドに人権が認められます。アンドロイドたちはこのメガロポリスで生きる一人の人間として認められたのです。メガロポリスでは至るところで喜ぶアンドロイドの姿が見受けられます。この件に関して、何人かのアンドロイドが番組の取材に応じてくれており……。」 ニュースでは朝から晩までアンドロイド人権法のことばかり流れている。この憲法制定の立役者である男は市長室で満足そうにニュースを見て

          【短編小説】アンドロイドの声(4)

          【短編小説】アンドロイドの声(3)

          男は次の日から早速行動を開始した。 まずは人権団体の情報を集め現状の分析をする。男はこの手の仕事を得意とする人間を雇い、入念な聞き込み調査を行い、各団体の背景事情を洗った。あの若者がくれたタブレットには様々な情報も入っていて、それには人権団体のデータも含まれていたが、それが信用に足るものかまだ判断がつかない。頭からあの若者を信用せず、まずは自分で動きそのデータの信頼性を確認することも必要だろう。それが男の考えだった。 男が調査の依頼をしてから数週間が経った。男は届いた調査

          【短編小説】アンドロイドの声(3)

          【短編小説】アンドロイドの声(2)

          男はその若者の言葉に驚いた。 「人権団体を支援してほしい?一体どういうことだ。アンドロイドに人権を与えるとなると、アンドロイドの生産や販売に制限が付くこともありえるだろう。あの血を流す特注品のアンドロイドだって、君や君の同業者の作品だ。どのようなものでも、君たちが利益を得ていることには違いない。他のアンドロイドにしても、人権を持たぬただの機械だからこそ、ここまで普及し利用されているのだろう。それを、あのHumanity の代表者がアンドロイドに人権が与えてほしいなどと。私に

          【短編小説】アンドロイドの声(2)

          【短編小説】アンドロイドの声(1)

          あるところに男がいた。男は市長だった。 男は清廉潔白からは程遠く、その市政は汚職にまみれていた。もちろん最初からそうだったわけではない。志を持って政治の世界に飛び込み、少しでもこの社会を良くしようと努力をした。だが、権力を持つとそれを利用しようという人が近づいてくるものだ。男のもとにも例に漏れずそういう人間がやってきて、いつの間にか男自身がそれを歓迎するようになっていた。そして、一度黒く染まると抜け出すことができなくなった。男は頭を巡らし口を回して私腹を肥やしていった。甘い

          【短編小説】アンドロイドの声(1)

          【短編小説】悪辣な推論(4)

          当時アルファ国と隣国は競い合うように宇宙開発を続けており、そのニュースはテレビでも盛んに報道されていた。『将来に対する安全保障のため地球外に居住できる惑星を見つけることで、アルファ国ひいては地球全体のために宇宙開発を行う』というのが国の提起するお題目だった。だが、宇宙開発を進めることで隣国に対して力を誇示するのが目的であるというのは誰の目から見ても明らかだった。人々が地球外へ飛び立とうという時になっても未だにしがらみに囚われ続けていることが男にとっては非常に滑稽に思えた。

          【短編小説】悪辣な推論(4)

          【ショートショート】自由の果てに

          あるところに男がいた。男は人生に疲れていた。 仕事はうまくいかず、友人もほとんどいなかった。妻とは冷え切った関係で、唯一の慰めは毎日見る夢だけだった。どのような夢であっても、夢の中では男は悲惨な現実から逃避することができた。 ある日、男は夢の中で誰からも認識されない存在になっていた。誰も男を見ない。話しかけない。男の存在自体に気付かない。 男は自分が透明人間になったような思いだった。最初は奇妙に感じたものだが、次第に誰も自分がここにいることに気付かないという感覚が心地よ

          【ショートショート】自由の果てに

          【短編小説】悪辣な推論(3)

          男は高校を卒業後、大学に通い始めた。彼が選んだのは、アルファ国の名門大学だった。両親は相変わらず隣国で仕事を続けており、アルファ国に戻るつもりはない様だった。 男は両親にアルファ国の大学に通いたいと告げたときのことを今でも鮮明に覚えていた。両親は男の選択に不安を露わにした。この子はアルファ国に戻って一人で大丈夫だろうか。男が学校でどのような仕打ちを受けていたのか全く知らなかった両親には、成長の過程で男が理由なく内向的で天邪鬼な性格になった様に見えていた。子供の頃はあんなにい

          【短編小説】悪辣な推論(3)