牛乳を飲むきみ 【30/1096】
毎晩 部屋の扉を開けて
かかとをあげた不思議な歩き方で
冷蔵庫まですすむきみ
ガッと扉を開けて牛乳を取りだし
コップに入れてごくごくと飲む
飲み終わればシンクにコップを片付け
音を立てない歩き方で
部屋へと戻っていく
その一連の行動の残像をみる
毎晩のように 滞りなく 目に蘇る
そんな なんでもない日常のひとコマ
きみが部屋から出てきたときの
小さなときめきは
いまや 違ったものになっているようだ
朝出かけるときに靴を履く姿
いってらっしゃいに無言で背を向けて
階段をおりていく
駅までの道を足早に進むであろうことを
想像しながら見送る
帰ってくるまでの不安な気持ち
今日も無事に帰宅したと安堵し
その日のようすをバレないように
確認すること
小さなやり取りしか
できなかったことを悔やむ
ご飯の食べ方 部屋から聞こえる笑い声
小さな日常のすべて
小さな変化に気づけず
大きな出来事になった
兆しはあったのに
堪のにぶさと きみの念力
いまも牛乳は冷蔵庫にあるよ
今夜も飲むといい
話ができたらいいのにね