簡単なことなど何もない

「簡単なことなど何もない」というのは大人になって学んだとても重要なことのひとつだ。

「難しく考えすぎてはいけない」というのも大人になって学んだとても重要なことのひとつなので、なんだか矛盾している。

マッチングアプリの広告は、出会いの瞬間とカップル成立後のイメージしか見せてくれない。マッチしてから成立までのプロセスと成立した後の継続も出会いと同じくらいかそれ以上に難しいものだと思うが、その部分は見せてくれない。

もちろん難しく考えすぎると発生する恋愛も発生しなくなる。

昔バイト仲間に「見るからに人畜無害な人」と言われたことがあるが、人が「見るからに」そうであるものと一致しているならわたしたちはこんなに苦労しない。

それはそれとして、人に対しても畜に対しても害を為したくはないよね。

子供の頃、たいていの大人の人に「良い子」と認識された。でも実際には不登校で嘘つきで手癖の悪い問題児だった。

でも問題児と認識して対峙すると、目をまっすぐ目をみてはきはきと敬語でしゃべるので大人の人は困った顔をしてしまうのだった。

「気にしない方がいいよ」と書いてあるものより、気にすること自体が気にならなくなってしまうような、自己啓発書より自己が啓発されてしまう本がある。個人的にはある種の文学作品がそういう役割を果たしてきた。

ただしそれらによって自己が啓発された結果として仕事ができるようになったりタスクがこなせるようになったりはしなかった。

明治学院大学の食堂に昔あったツナコーンカレーとチキンガーリック定食は実に雑な昭和の学食的料理だったと思うのだが、妻との会話で今でも話題にのぼるほどその味と佇まいは印象に残っている。

たいていのことは簡単じゃないからこそ、難しく考えすぎてはいけない。

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