【基礎講座4】アウトラインを「シェイク」する
アウトライナーはその名前に反して、アウトラインに縛られず(でもそのメリットは活かしながら)自由に書くことを可能にした、というお話をしてきました。今回は、そのために具体的にどうするか、というお話です。
アウトラインと内容の関係が双方向だったら
「【基礎講座2】アウトラインの形を活かしながら、でもアウトラインから自由に」で、以下のように書きました。
しかし、「アウトラインを作り、その通りに書く」という方法は額面どおりにうまくいくことはなかなかありません。やってみたことのある人ならおわかりの通り、はじめにアウトラインを決めてしまうと頭がアウトラインに縛られてしまい、かえって書けなくなることが多いのです。
結果として、以下のような「アウトラインあるある」が発生する。
アウトラインを作ったときには簡単に文章化できそうに思えた項目も、いざ書こうとしてみると内容が出てこない。
無理に書こうとすると、いかにも「見出しの中身を埋めただけ」のつまらない文章になってしまう。
何かのきっかけ筆が走り出すと、今度はアウトラインから内容がどんどん逸脱していってしまう。
そもそもどうして「先に作ったアウトライン」が役に立たないのか考えてみると、それはアウトラインと内容の関係が一方通行だからです。
それでは「アウトライン」と「内容」の関係が双方向だったらどうでしょうか。アウトラインを作ってから内容を書くだけでなく、書くことを通じてわかってきたことをアウトラインにフィードバックできたら、書くことはもっとずっと楽になるのではないか。
なにしろ
何をどう書くべきかは、実際に書くことを通じてはじめてわかってくる
のですから。
トップダウンとボトムアップ
「アウトラインと内容を双方向に行き来する」ということは、「トップダウン思考とボトムアップ思考を行き来する」と言い替えられます。
ここで言うトップダウン思考とは、まず構成を考えてから内容を書くこと。つまり先にアウトラインを作ることです。昔ながらの「アウトライン」の考え方です。ボトムアップ思考とは、先に内容を書いてから構成を考えること。つまり後からアウトラインを作ることです。
アウトライナーはどちらの考え方にも対応できますが、実践的なアウトライン・プロセッシングは、トップダウン思考とボトムアップ思考を意図的に繰り返すことで行われます。
トップダウンから始めてもボトムアップから始めてもいい。ただし、そのまま完成まで持っていこうとするのではなく、トップからボトム、ボトムからトップへと繰り返しスイッチするのです。
私はこれを「シェイク」と呼んでいます。
文章のシェイク
文章を書くことを例に考えてみます。どちらから始めてもいいのですが、ここではトップダウンから初めることにしましょう。
まず、アウトラインを作ります。アウトラインができたら肉付けしていきます。ここまでは昔ながらのアウトラインの考え方と同じです。
違うのは「書けるところを書けるだけ書く」ようにするところ。書けないところがあっても気にしない。書けそうなところをとりあえず書く。書き続けられそうならそのまま書けばいいし、続かないようなら別の場所を書いてみる。
もし乗ってきて逸脱(脱線)してしまっても気にせず書けることは書いてしまう。無理に軌道修正しようとすると、せっかくの思考の流れがせき止められてしまうからです。
一段落したら、書いたことを読み返しつつ整理します。このとき脱線した内容をアウトライン上の適切な場所に位置づける(移動する)のです。
では、アウトラインのどこにも位置づけられないことを書いてしまっていたらどうするか。それが使える内容だと感じるなら、アウトラインの方を修正して入れ場所を作ります。
使えるかどうかすぐに判断がつかなかったら、その判断をすること自体にエネルギーを使ってしまうので、「未使用」という項目を(末尾にでも)立ててその下にいれておきます(後から使い道がわかるかもしれません)。
「書いてしまったこと」に合わせてアウトラインを変えていくのです。トップダウンから始めたはずが、ここではボトムアップに移っています。
こういうことをしていれば、当然アウトラインは崩れて辻褄が合わなくなってきます。だからときどきアウトラインを折りたたんでみる。流れと構造を確認し、必要に応じて再構成する。
そしてまた再構成したアウトラインに基づいて書けるところを書く。ここでは再びトップダウンに戻っています。
以上を繰り返しながらアウトラインを育てていくプロセスが「シェイク」です。トップダウン(構成から考えること)とボトムアップ(内容から考えること)を行ったり来たりしながら揺さぶるからです。
図にすると以下のようなイメージです。
※『アウトライナー実践入門』に載せた図とは少し言葉が変っています。
シェイクの意義
シェイクでやっているのは、構成を考えることと内容を考えることを分けて、一度に一方だけに集中するということです。これを繰り返しつつ、それぞれの成果を相互にフィードバックする。
文章を書くという作業は、この両方を同時にやろうとするから難しいという面がある。だからこそ、シェイクは「楽」なのです。
「シェイク」というのは私の造語ですが、こういうやり方自体は昔から言われていたことで、まったく新しい発想ではありません(トップダウン/ボトムアップという言葉を使うかどうかは別として)。たとえば執筆の進捗に合わせてアウトラインをアップデートしていく、というようなことです。
ただ、この作業を何十回も(内容や規模によっては何百回も)繰り返すことは、手書きはもちろん、通常のワープロやエディタでも物理的にほとんど不可能です。アウトライナーの機能の意義は、現実的な労力でシェイクができるようになったことなのです。
シェイクについて紹介すると「アウトライナーは使っていないけれど同じようなことをしている」という反応をしばしばいただくのですが(そしてそれはまったくその通りだと思うのですが)、おそらく違うのは「気軽さ」と「回数」です。
文章以外もシェイクできる
ずっと「文章」を例にお話ししてきましたが、アウトライナーとシェイクの有効性は文章を書く場面に限りません。たとえば「プロジェクト計画」のアウトラインならこうなるかもしれません。
「目標を達成するまで」のアウトラインならこうでしょうか。
こうしてみると、アウトライン・プロセッシングは(その対象が「文章」であるかどうかに関わらず)確かに「文章を書き、考えること」なのだなと思います。
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