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フテ女がふと、暴力を振るう時

 先日のこと、とあるお店――自分の場合、大体中古店ですが――で見つけた『鉄砲玉の美学 中島貞夫の世界』というCDを購入。

 劇中で使用された頭脳警察の楽曲に、中島監督の他作品のサウンドトラックも入っているお得な一枚。

 中島貞夫監督は、ヤクザよりもその下で蠢く、いわゆるチンピラや半端ものを描くのが上手いというのが持論である。元コックのチンピラが組織にいいように利用され、イキがって自滅する『鉄砲玉の美学』もそうだし、あの時代劇超大作『真田幸村の謀略』だって、武士社会の枠組みから外れた忍者、傾奇者、浪人、草の者、外国人にキリシタン、火野正平、果ては宇宙人も加わり、打倒徳川家康のために立ち上がり、歴史をちょっと変えつつも散っていく。

 そしてそれから数日後。中島監督の訃報を知った。大学時代、学科長で教授だった中島監督のイメージは『こわい人』だった。だってあの当時、教授陣のほとんどがヤクザと時代劇の東映京都と様式美の大映京都のスタッフで固められていたから、ちょっとした組事務所みたいなものでしたよ。『東映の教授は武闘派ヤクザ、大映の教授はインテリヤクザ』なんて失礼な冗談を言ったりしたものでした。それに自分は『先生』とつくものが苦手だったのです。それにあの頃の自分を含める学科の連中はそんな昔の人たちのことよりも新しいことに目先が行って、ろくに話も聞かない失礼な連中だったのです。『大学の先生の話なんか10年後に分かるもの』とある教授に教わりましたが、まさにその通り。今にして思えば、あれだけ貴重な証言を持っている人たちに、もっとお話を聞けばよかったと悔やむことばかりなのです。

 だから中島先生と密に会話した、とかいうこともほとんどなかったのですが、一度撮影所見学の授業の際、『何でも聞け』という先生に『なぜ松山千春をキャスティングしたんですか?』という素っ頓狂な質問をしたことぐらい。本当は演出とか撮影方法を聞け、というニュアンスだったのでしょうが、それでも先生は『……最初はイヤだったんだよ……』と教えてくれました。あと、自分の卒業シナリオ(おじいさんが昔取った杵柄で路面電車強盗をするも失敗、夕陽の向こうにカブに乗って去っていく話)を『いいファンタジーだな』といってくれたことぐらい。『いいファンタジー』というのは『どうにも絵空事のクセが強いぜ、ダメだぜ』ということだったのかな、と今にして思うのです。

 そして昨日のこと。追悼上映とかあまり好きじゃない(追悼の前に故人の作品を見ておくべき、生前からリスペクトせよ。さもなくば周りに便乗して悼んでも嘘くさくない? というこれまた持論)のですが、偶然とはいえ追悼上映の形になってしまった中島監督の『ジーンズ・ブルース明日なき無頼派』に『0課の女 赤い手錠(ワッパ)』を見に新世界東映へ。

『ジーンズブルース明日なき無頼派』梶芽衣子がとてつもなくクール。いつもけだるそうにタバコをふかしているのさ。そんな彼女が、殺しの報酬をネコババして逃走中の渡瀬恒彦に出会ったとき、彼女は生き生きとし始め、そして逃避行を共にする。あの出会いは彼女の世界ががらりと変わった瞬間だったのか。平凡な日常から抜け出すためには大金持った渡瀬恒彦に、爆発炎上する自動車が必要だった。終始フテた顔でつまらなそうな顔をしていた彼女に顔に精気が宿った瞬間。

 タイトルは『ジーンズブルース』だけど、誰もジーンズなんか履いてない。ショットガンを構えるレザーの梶さんカッコイイ。東京から京都への逃避行を描くロードムービー。東映アメリカンニューシネマ。逃避行の先に夢も希望もなく、欲に染まった人間が現れ、消えていく。なにやってもうまくいかない男が一瞬きらりと輝いて、そしてまた堕ちていく、そんな映画。ここでも渡瀬恒彦はヒーローになり切れず、大金を落とした末に強盗行為を繰り返し、最後は仲間に袋叩きにあって、みじめにのたうち回る。半端ものの末路は悲しいが、そこからさらに何かが吹っ切れた梶さんがショットガン片手に警官隊と銃撃戦を繰り広げる。男の不運を吸い取ったかのように、女は生き生きと輝くのだ。まさに『明日なき無頼派』である。どこにも爽快感もない、これまた東映のジャンルムービーの中でも異色の存在、半端ものであるためか、ニュープリントもなく、たぶん当時のフィルムだろう、うっすら退色し、黒い雨の降るフィルムだった。

『0課の女赤い手錠(ワッパ)』。主演の杉本美樹もまた梶芽衣子と同じくクール女子。どこか世を拗ねたテイで、ボソボソ喋る。殺人をも厭わぬ警視庁の秘密刑事、冒頭の赤い手錠で容疑者の首締めて、全裸で銃を撃つ。マッポがマッパでワッパをかけて、タンバの娘がさらわれた! 

 かっこいいオープニングの後、潜入捜査で彼女はただひたすら傍観者となる。殴られようが犯されようが、サナギマンのようにじっと耐える。そういや杉本の上司はキャプテンサラー・室田日出男だった。出所してすぐ暴行殺人に及ぶ凶悪犯、敵は地獄のデストロン、にも所属していた郷鍈治! とその仲間。劇中、『この人は本当に人間なのだろうか?』と思うぐらいに郷鍈治の顔面が怒りのあまりに変形するシーンがある。そんな恐ろしい人が『直撃!地獄拳』でお笑い担当に回るとこれまた底抜けに楽しいから俳優さんってすごい。

 だいたい、フィクションにおいて誘拐された令嬢が無傷で帰れるわけがない、特に東映では。今回も暴行監禁シャブのフルコースで、人間として壊されていく御令嬢。でもそれをじっと見るだけの0課の女。超大物政治家タンバは娘が誘拐されたというスキャンダル発覚を恐れ、保身のため『事故か、病死で』娘を殺そうとさえ考える。すると遠回しに0ウーマンも捨て駒扱いとなるのだ。外との連絡もままならぬ中、誰を信じればいいのか、といえばもう自分自身しかない。

 

 ↑まるでタンバが暗闇指令ポジションみたいですが、二人はほとんど絡みません。丹波さんがいると映画のランクがほんの少し上がるということを作り手は知っているのです。凶暴犯罪集団の内輪もめを狙い、外部と連携して凶悪郷鍈治を追い詰めていく0課の女。最後は夢の島でのカーチェイス&銃撃戦、最後に残った郷鍈治、そこでようやく0課の女発動! 赤い手錠をぶん回し、凶悪犯をしばきまわして吊し上げる! 上司から一転敵に回った室田日出男は大火傷でゾンビみたいになってしまう。そういえば今回の二本とも室田日出男から逃げる映画だった。

 ワルモノ側がやたらと丼いっぱいのご飯をかきこみ、伸びてそうなラーメンをすすってるのが実に美味しそう……には見えないけど、食欲はそそられる。0課の女、タイトル通り手錠はおろか拳銃も警察手帳も赤い、赤いコート姿がかっこいい! でもパンツは白かった! そこも赤で!

 あと、この映画やたらと評判いいんですが、自分はまあ、普通かなと思いました。普通……いや特殊な状況の映画ですけど。人の評価は自分の評価ではないのです。

 来週も中島監督の『木枯し紋次郎関りござんせん』上映。追悼なんかしなくても中島作品は新世界の常連なのです。

 中島先生の『真田幸村の謀略』がなければ自分もライトノベルの仕事をしていませんでした、ありがとうございます。まだまだモノカキ業はぼちぼちと、何とかへばりついております。

 完




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