『半グレ』NHKスペシャル取材班 (著)いま一番おそろしいのはダントツで半グレ
いま一番おそろしいのは半グレである
なぜなら、暴力団は影響力をどんどん失っているからだ。半グレとは、暴力団ではないが犯罪行為でお金を稼ぐ人々のことを指す。
一般人と暴力団の中間、黒と白の間のグレーという意味をこめて「半グレ」と呼ばれている。この言葉は暴力団にくわしい作家の溝口敦氏が使い始めた造語だ。
暴力団の影響力を弱める数々の法律のおかげで、暴力団の組員は家を借りたり銀行口座を開いたりすることができない。
その弱体化した暴力団の空いたスペースにスッと入ってきてサギなどの犯罪でたっぷり稼いでいるのが半グレだ。
やっかいなのは、暴力団ではないからこの法律が適用されないことだ。堂々と犯罪をしているのだ。
警察は半グレを把握しきれない。半グレは暴力団のように事務所がないからどこにいるのかわかりにくい。しかも、ひとつの犯罪ごとにメンバーが入れ替わる。
短期集中型プロジェクトに集められたフリーランスみたいだ。メンバーはSNSや紹介で集められる。中には大学生や無職の若者など一般人も多い。
彼らはお互いのことも、もちろんリーダー格の情報も持っていないので警察は追跡するのがかなり難しい。
本書は親も子も必読
半グレによる特殊詐欺(振り込み詐欺など)はどんどん手口が巧妙になり、被害額は右肩あがり。高齢者の貯金がターゲットなのだから、高齢者の親を持つ人にとっては必読な一冊だ。
また、年頃の子供を持つ親にとっても必読だ。子供が半グレに憧れて犯罪行為に関わらないようにするため、知っておかねばならない情報が満載である。
NHKの取材力はやはりスゴい
本書は2019年7月に放映された「クローズアップ現代」をベースにしたもの。半グレが暗躍する東京、大阪、京都、福岡のNHKに勤めるディレクターやプロデューサーや記者11名が執筆した。
半グレに人生を壊されたり、深い傷を負わされた利した人々を取材した。なんと現役の半グレに顔出しインタビューまで成功させた。
インタビューした半グレが放送後すぐに逮捕されたことからも情報の信憑性の高さがわかる。
出版や放送に耐えられるレベルの取材を舐めてはいけない。
普通の若者が簡単に半グレに利用されてしまう
昨今、若者はますますお金に困っている。半グレはそんな若者を「一週間で150万円稼げるよ」「電話をかけるコールセンターのような仕事なので怪しくないよ」と甘い言葉で釣り、振り込み詐欺の末端である「受け子」や「出し子」として利用する。
受け子や出し子は被害者から直接、手渡しでお金を受け取りに行ったり、だまして振り込ませたATMから出金したりする役回りだ。
被害者に顔を見られるし、監視カメラに顔の映像は残るし、何より通報されたら真っ先に捕まる。一番リスクの高い損な役回りである。リスクが高いにもかかわらず報酬は最も安い。
沖縄の若者に最も逮捕リスクの高い仕事をさせる
本書によると、全国で検挙される特殊詐欺は5000件であり、検挙された者のうち3割は20歳未満であるらしい。
都心の若者は特殊詐欺のリスクを知っているため、大半は地方でリクルートされた若者だ。中でも沖縄はスカウトのパラダイスになっているという。
沖縄は好景気だが恩恵を受けているのは一部の人間だけで、貧困家庭に育ち教育を受けられないまま低賃金の仕事で心をすり減らしている若者が多いという。そこにつけ込んでスカウトするのが半グレだ。
半グレにとって金欠の若者は簡単に調達できるバイトのようなものだ。 逮捕されるリスクの最も高い「受け子や出し子」の役回りをする人材は履いて捨てるほどいる。
読み進むにつれ、自分の子供や親は大丈夫だろうか、と不安にならずにはいられない。
自分のカネを守れ
半グレのリーダー格から末端の出し子まで、数々の取材を通して見えてきたのは現代社会の「稼いだもの勝ち」「捕まらなければセーフ」という価値観だ。
良し悪しではなく、これが現代社会の現実だと受け止めたほうが懸命だ。財産を奪われてからでは遅いのだ。
この悪は身近にいるのに見えにくいため不気味なのだ。わかりやすい悪である暴力団のほうがおとなしく見えてしまう。
自分の身とカネを守るため、また出来心で犯罪に加担しないためにも本書を強くオススメする。
関連するオススメの本
前述した溝口敦氏の著作は外せない。特に特殊詐欺については『闇経済の怪物たち グレービジネスでボロ儲けする人々 (光文社新書)』と『詐欺の帝王』がオススメだ。
フィクションだが草下シンヤ氏の『半グレ』もオススメしたい。詐欺で収益を上げることの他、手にしたお金を警察や税務署から隠したり、仲間に裏切られて奪われないよう心を砕いたり、大変そうだなあ、犯罪しても割に合わないなあという気持ちにさせてくれる。