ファイナンスの設計次第で、ソーシャルビジネスはもっとスケールできる。僕がインパクト投資に取り組むわけ
LivEQuality代表の岡本です。家を借りられないシングルマザーに低価格で物件を貸す会社と、シングルマザーの自立を支援する認定NPO法人を経営しています。
僕はいま、 株式会社とNPOをかけあわせた事業運営を行っています。なぜこんな形態をとっているかというと、ファイナンスにこそソーシャルビジネスをスケールさせる肝があると考えているからです。
このnoteでは、そのことについて書いてみたいと思います。
ソーシャルとファイナンスにはほとんど結びつきがない
僕たちは困窮世帯のシングルマザーなどを対象に、暮らしを支える居住支援と、住まいを低価格で貸す住居支援の取り組みを行っています。
暮らしを支える居住支援は福祉の領域で、厚生労働省の管轄。住まいを低価格で貸す住居支援は国土交通省です。
そして事業として経済性を生み出すことや、ファイナンスの分野は経済産業省の管轄になります。
僕たちの取り組みは、この「住居・福祉・経済」の3つに橋をかけたチャレンジになります。
いま家を借りられない方々がいる一方で、国土交通省は空き家問題で頭を悩ませています。
もちろん人口減少が大きな要因ですが、大家さんたちは「リスクが高い人にはなるべく物件を貸したくない」と考えざるをえないため、解決が難しくなっている部分もあります。
家を借りるときには入居審査があります。大家さんは賃料で収入を得ているわけなので、家賃を滞納せずに支払えるかどうかを審査する。
すると“勤続年数が短い”というだけで審査に落ちてしまうこともあります。大家さんによって、何をどのくらいのリスクと判断するかも変わってしまう。
配偶者のDVから着の身着のまま逃げてきたり、外国籍で日本語が不自由だったり、何らかの課題を抱えるシングルマザーの方々が家を借りることは、とても難しくなっています。
ところがここに、課題を抱えている方々の自立を支援し、暮らしに伴走する第三者がいればどうでしょうか。さまざまなリスクが軽減されるので、受け入れる大家さんも多くなるはずです。
こういったことに、暮らしの支援を進める厚生労働省と、空き家問題を解決したい国土交通省はすでに気付き連携をはじめています。
ただここに、経済やファイナンスを応用しようという経済産業省の文脈は入っていません。
ソーシャルとファイナンスは、ほとんど結びついていないのが現状です。
「新しいお金のながれをつくりデザインする」こと。
このファイナンスの設計にこそ、ソーシャルインパクトをスケールさせる肝があると思います。
インパクト投資で寄付と投資の間に新しいお金の流れをつくる
ソーシャルとファイナンスをつなげる有効な方法の1つが、僕たちが挑戦しているインパクト投資です。
いま、どのスタートアップも社会課題の解決を目的に事業を運営し、そのために資金調達をしています。
目指すところは同じですが、僕たちが取り組むインパクト投資は通常のスタートアップが受ける投資ともESG投資や寄付とも、少しずつ違います。
上の図で、資金調達の種類とそれぞれの違いを表してみました。
インパクト投資は経済的リターンが市場よりも低くなりますが、社会課題解決のインパクトが大きい事業への資金提供ニーズを引き受けるモデルです。
経済的リターンを追求する左側の資金調達手法だけでは、どんどん貧富の差が拡大してしまいます。
いま企業も少しずつ右側の手法を取ろうとしていて、特にESG投資は環境・再生可能エネルギーの分野を中心に広がりをみせています。
最も経済的リターンが少ない手法には、寄付があります。
僕たちも自立に向けてシングルマザーに伴走するNPOの活動は、寄付を財源としています。
寄付は重要な手法ですが、大家さん事業については、不動産を自社で取得するため大きな初期投資がかかります。これを寄付だけで資金調達し、スケールさせていくのは難しい。
例えばこれがアメリカであれば、寄付への税額控除が高いうえに富裕層が自分で選んで自己資産を寄付する文化があるので、やり方があるかもしれません。
日本では、高額寄付をするほどの税制メリットがなく、寄付の文化も根付いているというほどではない。寄付だけで100億、200億の資金を集められるか?というと、難しいように感じています。
こういった背景があり、住居支援を行う株式会社LivEQuality大家さんは、事業性と社会性を同時に追求するインパクト投資に挑戦しました。
投資といえばリスクもリターンも大きいという思考が強いですが、“寄付と投資の間”をつくることに希望を感じているんです。
インパクト思考の投資家が増えれば、社会課題を解決する可能性はかなり広がると考えています。
アフォーダブルハウジングの分野はインパクト投資でスケールできる
ほかに“寄付と投資の間”というと、僕が以前代表をつとめていたソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)があります。
寄付で資金提供をしながら、ベンチャーキャピタルのようにハンズオンで寄付先のチームに入って一緒に成長を目指すモデルです。
ベンチャーキャピタルが経営支援に取り組むのは、自分たちのファイナンシャルリターンを最大化するためですが、SVP東京では社会的リターンを最大化することが目的です。
お金の出し方としては寄付になります。非常に効果的な取り組みですが、どうしても寄付として提供できる金額に限度がある、という課題があります。
インパクト投資で、社会的リターンに加えて出資した分が返ってくるという新しいお金の循環がうまれることが重要だと思っています。
この分野で上場企業がでるほどうまくいっているのが、マイクロファイナンスです。
スタートアップの資金調達環境が悪化する中、金融サービスを途上国に提供する五常・アンド・カンパニーは、数十億から100億円規模の資金調達に成功しています。
アジアを中心に発展途上国の銀行を買収してグループ会社化。低〜中間所得者層の個人事業主や零細企業に、少額ローンを貸し出す小口融資に取り組む会社です。
マイクロファイナンスは確実に利益がでるうえに、通帳すら持てなかった人が銀行口座をつくり、事業活動に取り組んで自立ができる。社会的にも素晴らしい取り組みです。
僕はマイクロファイナンスの次に可能性があるのが、不動産じゃないかと思っています。不動産にはリターンがあります。
僕たちは快適な住まいを低価格で提供するコンセプトをもっていて、いい物件を購入しているので、空室率が低く値崩れもしにくい。住居は単価✕数量なので、単価となる家賃を下げても、稼働率があがれば売上はあがります。
不動産とインパクト投資はとても相性がいいと考えています。
ただ、インパクト投資には一般化した仕組みがありません。僕たちのように自前でやることはできますが、金融庁の規制がある部分もあり専門的な知識が必要です。
いずれはアフォーダブルハウジングの分野で、インパクト投資のプラットフォームをつくれたらと考えています。
取り組みに合ったファイナンスのあり方をデザインすることが重要
インパクト投資とアフォーダブルハウジングについて話していると、ときどきこんな質問をもらうことがあります。
「いい部屋を安く提供することにすべてのリソースを振り切って、大量の住まいを提供したほうが課題解決に近づくということはないのでしょうか?」と。
そういう考え方もあるかもしれません。
ただ、僕たちは一人ひとりの自立という本質的な課題解決をしたくてこの取り組みをはじめています。
入居いただく方たちは、大変な状況の方が多くいます。
例えば日本語が全く読めないのに、区役所から日本語表記だけの難しい書類がたくさん届いたりするわけです。行政サービスを受けるだけでも大変です。
住まいだけでなく、日常に伴走する頼れる人の存在が必ず必要だと考えています。
この伴走支援の分野では、利益を出すことはできません。
支援するのは金銭的に困っている方々で、サービスを提供する相手から売上をあげることが難しいからです。一人ひとりに寄り添うので、人手も時間も必要でコストも増えてしまいます。
そのため伴走支援の取り組みについてはNPO法人化。共感ベースの寄付を中心に、サステナブルに続けられる仕組みをつくろうとしています。
経済的に回る仕組みの中にどうやって社会性をブレンドするのか?を考えたときに、僕は法人を分けたほうがよいと判断しました。
インパクト投資は、社会課題を解決するための資金調達の手法の1つに過ぎません。
解決したい社会課題の性質、理想の状態とそのために必要な取り組み。そういったものをふまえて、最適なファイナンスのあり方をデザインすることで、スケールの可能性が広がります。
家賃を低くしただけの大家事業であれば、インパクト投資家のみなさんは参画はしてくれなかったかもしれません。
通常の大家さんと何が違うのか?となってしまう可能性があったと思います。
家を借りられない人たちに安く住居を貸して、暮らしの再建と自立という最も本質的で大変な課題に伴走する。そのために、寄付で運営するNPOと、投資と利益で経営する株式会社のハイブリッドで事業を運営する。
そういう取り組みだからこそ、期待いただいているように思っています。
ソーシャル ✕ ファイナンスのよいモデルとなれるように、引き続き頑張っていきます。
インパクト投資家のみなさんへのインタビューもはじめました。よければこちらもぜひ読んでみてください。
僕がこんな取り組みをするようになった経緯は、このnoteにまとめています。