6月からが大事!暑熱馴化!!暑熱馴化の仕方と暑熱下の対応策
「6月のマラソン大会は大変!」
ランニングドクターの間で言われています。
「暑さでやられちゃうランナーが多いんだよねぇ」
皆さんは7月・8月の方が暑くて大変と思うかもしれません。
ですが毎日が暑い真夏は、多くのランナーが暑熱馴化が出来ています。
それに暑さ指数が高い日は、運営側も暑さ対策や無理をさせない仕組みをつくっています。
逆に6月は暑さに対して、ランナーも大会も油断しています。
ランナーは暑熱馴化をせず、大会も暑さ対策を怠り、そしてそんな時に気温が30度まで上がったりすると、失速や足の攣り、嘔気嘔吐などでランナーがたくさんリタイアする。そんな事が多いんです。
6月に大会を控えた人は特に、
改めて今の時期から暑熱馴化について考えてみて下さい。
1.暑熱馴化とは
1-1.暑熱馴化のイメージ
暑いものは暑い!慣れろって言ったって無理!!
多くの人は、なかなか想像できないと思います。
ただ暑さに体が慣れてくると、暑いものは暑いのですが、
だんだんと暑さによる有害事象が減ることが知られています。
グラフは運動ではなく、高温下労働の有害事象をみたものですが、
3-4日目からグーンと減って、1週間もたつとだいぶ少なくなることが分かります。
運動でも同じことが言えます。
文献によりますが、4日、1週間、2週間程度の暑熱馴化で有害事象が減るという研究をされているものを多く見かけます。
暑い大会をしっかり走るためには、直前でもよいので準備をして欲しいんです。
1-2.「暑熱馴化」で体の何が変わる!?
暑熱馴化とは、上がってくる深部体温に対する抵抗力です。
実際に暑熱の中で運動を継続して身につく変化は、
①循環血液量の増加
②皮膚血管拡張機能の亢進
③汗腺機能の亢進
④暑さの不快感の緩和
です。それにより、
・暑熱の運動の中での最大酸素摂取量が高くなる(①のため)
・深部体温が上がりにくくなり(②③のため)
・塩分を失いにくくなる(③のため)
・メンタル的に強くなる(④のため)
となります。
結果、暑熱下でのパフォーマンスがアップします。
分かりやすく言いうと、
身体的には、暑さに対する防御スイッチが速く入る、防御力も増す。
感覚的には、暑さに対する苦痛が和らぐ。
ということです。
そして暑熱馴化は数日でもついてきますが、
2週間程度行った方が馴化が高いのがわかります。
2.暑熱馴化の仕方
2-1.暑熱下で練習できるときは
暑熱馴化とは、上がってくる深部体温に対する抵抗力です。
深部温度の上がる速さは
1.温度・湿度・日照(暑さ指数:WBGT)
2.風(追い風・向かい風)
3.運動の強度
4.身体冷却の有無
などで決まります。
そして暑熱馴化では、本番と同様の暑熱に慣らすことが大事です。
なので大会では35度の環境でキロ4分で走るなら、
35度の環境でジョグをしても、十分な暑熱馴化はつきません。
30度の環境でキロ4分で走っても、十分な暑熱馴化はつきません。
できれば35度の環境でキロ4分で走って下さい。
でもそんな事をしたら疲弊してしまいます。
本番のレースペースで2-3キロ走って十分に体温が上がったら、ジョグにしてもいいと思います。
本番ペースのラン+ジョグ、それで本番へのピーキングに見合う距離を走るようにして下さい。
2-2.大会前に涼しい日が続くときは
とはいえ、大会の日まで涼しい日が続くときもあります。
特に6月は雨上がりの、暑い蒸した日に大会が重なることもよくあります。
そんなときは暑熱馴化するのはなかなか難しいです。
暑熱の環境下での練習が難しいときは、入浴やサウナと組み合わせて下さい。練習後のサウナは、赤血球量・血漿量の増加、持久性運動力の向上が得られるとの文献や、練習後に40度の温水浴を6日行うと暑熱馴化が得られるとの文献もあります。
十分にとはいかないまでも、多少は馴化できると思います。
また、例えば暑熱馴化していないのに「大会の気温が高い」と3日前に気づいても、
3日前と2日前に暑熱下の練習、または練習後のサウナ・入浴をすることで、多少は暑熱馴化ができます。
直前だからって諦めないで下さい!!
2-3.暑熱馴化と脱馴化
でも残念ながら獲得した暑熱馴化は、暑熱下のトレーニングをしないと徐々に失われます。
一般に長期間かけて獲得した暑熱馴化は長く維持され、短期間で獲得した暑熱馴化は短期間で失われます。
4日間で獲得した暑熱馴化は3週間でほぼ100%失われますが、9日間かけて獲得した暑熱馴化は3週間経っても30%程度しか失われません。
そして暑熱下で運動しなかった期間が2週間程度であれば、2日間で再馴化、4週間程度であれば4日間で再馴化できると言われています。
(山崎文夫「暑熱馴化と運動」臨床スポーツ医学2018(35)より)
なので秋のレースで暑くなりそうな時は、直前に1-2回の暑熱負荷をかけるだけで、暑熱馴化できたりします。
3.暑熱下のレースの対策
しっかりと暑熱馴化ができたと言っても、それで暑熱対策は完了!ではありません。
暑熱馴化は、暑熱の体への影響を遅らせるだけです。
さらにしっかり準備をして、レースに挑まないといけません。
3-1.水分摂取を
暑い日は全身の血管が広がり、相対的に血漿の量、つまりは水分が不足します。
さらには猛烈に発汗します。
体重の1%減少するにつれ、深部体温が0.4度上昇すると報告があります。
体重の2%以上脱水すると、暑熱下の持久系運動のパフォーマンスが低下すると言われています。
発汗する分の水分を十分に摂らないといけません。
米国スポーツ医学は、運動開始の数時間前に体重1kgあたり5-10mlの水分摂取、運動中は0.4-0.8㍑/時間を摂取することをすすめています。
例えば北海道マラソンであれば、2kmおきに給水があります。
キロ5分で走れば1時間に6回給水ができるので、給水ごとに100ml飲めばいいことになります。
ただ発汗量は個人差があります。
普段から暑熱下の運動で、1~2時間の運動でどの程度体重が減るかを把握して、その分飲水をしっかり摂るよう心掛けるのがよいと思います。
3-2.塩分摂取を
古くから、汗の中の塩分は1g/㍑(0.3-2.0g/㍑)と言われていました。
冬であれば、水分摂取はスポーツドリンク(塩分1.5g/㍑)でよいのです。
ですが発汗量が多くなると、塩分濃度は高くなります。
左のグラフは暑熱馴化できていない方に対して、屋内のトレッドミルで調べたものです。軽いVO2max30-50%の運動で、環境により発汗量が4倍、塩分濃度が2倍、塩分喪失は8倍となることが分かります(ちなみに暑熱馴化すると汗の量はほぼ変わらなものの、塩分喪失は2/3になります。暑熱馴化は大事!!)
WBGT36℃なんていう過酷な状況では走らないかもしれませんが、レースではもっと高負荷のVO2max70-80%台で走るでしょう。
暑い中で一生懸命走るならば、もっともっと塩分を補うことが必要です。
そして汗の塩分濃度は個人差があります。
普段のレースで、周囲の人に比べて塩を吹きやすい人!!
顔が塩だらけになる人は、しっかり塩分を補給してください!!
スポーツドリンクは平時の汗対策です。
暑熱下はOS-1、なければ梅干しや塩昆布などで摂取しましょう。
塩飴は大して塩分が多くないので、ご注意下さい!!
興味あるかたは、自分のNote「汗腺をきたえるということ」を読んで下さい。
3-3.身体冷却を
・プレクーリング(走る前のクーリング)
もちろん走る前から体が冷えていた方が、体温が上がるまでの時間がかかります。運動前の冷水浴で、持久力運動が向上したとの文献もあります。瞬発系運動では適していないもののの、特に30-60分の持久力運動では効果が高いと言われています。
暑熱の中では、準備運動は動的ストレッチ程度にとどめて、日陰で冷たい水分でも摂りながらゆっくり休みましょう。
序盤5kmを準備運動と思いゆっくりスタートしましょう。
・パークーリング(走りながらのクーリング)
走り始めると、暑熱下ではぐんぐんと体温が上がります。
体が体温を下げようとしているうちは、体が熱を逃がそうとしている部位を冷やすのが効果的です。具体的には顔面や手掌などです。
手や顔に水を掛けたり、手を開いて走るなどをして同部位を冷やすようにしましょう。
もちろん冷水の飲用も効果があり、そして最近はアイススラリーがさらなる効果があるとされています。
他、日差しを遮る帽子や、冷却用の衣類、メンソールの内服や顔への塗布は有効とされています。
3-4.ペースを上げない
以上をしっかりしても、冬のレースのようにしっかり走れるわけではありません。
図は2007年の酷暑で開催されたシカゴマラソンと、2009年の極寒となった大会のペースの比較です。
やはり暑い時には序盤からペースの維持に苦しみ、終盤大失速する。
そんなイメージです。
特に
・男性
・遅いランナー
・高齢者
・体重の重いランナー
は暑熱の影響を受けやすいと言われています。
夏場のレースは無理をせずにゆっくりと入り、体温を上げないように気を付けないといけません。
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