彗星を追いかけた日
とある坂の上で
私の秘密の場所である。
秘密と言うと、知りたくなる人がいるらしい。
街の外れの神社の少し隣。といえば満足するか。
毎日、お婆さんが畑仕事をしている。
ただ今日は帰ってしまったらしい。
秋の音が聞こえる。
選挙車が通り過ぎる
すぐまた、秋の音が聞こえる。
西の空は、橙赤から藍へと衣替えをする最中だ。
1日で2度しかない、最も美しいひと時の訪れ。
そんな夜空の青に、己を燃やし、訴えかけてくるものがいる。そう彗星が。
我々から見た彼ら
彼らは、なかなかに興味深い天体である。我ら惑星と全く違う異質な物のように見えつつも、本質的に我々と変わらない。楕円軌道を描き、焦点の一つに恒星をもつ。ただ、彼らは離心率が我々より1に近い、というだけである。ただ一つの要素が違うだけで、なぜ、こんなにも違う運命を歩むのであろうか。彼らの生活史は、我々が見る限り、中々に波瀾万丈である。普段は英気を養い、ただ人知れず、大人しくしているが、ある一定周期で、我々の恒星に挑戦的なアプローチを仕掛けるのである。あるものは滅び、ある者は凱旋を果たし、ある者は宇宙の彼方へ追いやられる。またある者は、天文学的な数の星の中で、最も脚光を浴びる存在にもなり得る。それに比べたら、我々はずっと平凡だ。これは別に、彼らに対する嫉妬ではない。ただ、最もそばにいる存在として、もう少し、声を聞いてほしいのである。
彗星を追いかけた日
天体観測はやはり、夢のあることだ。幼い頃、将来は天文学者になりたいと思っていた。星のたくさん載っている図鑑も好きだったし、東京の冬の夜空に浮かぶ、数少ない星を眺めるのも、さぞかし、童心がくすぐられることだった。今でもその童心は変わらず持っているのだと思う。たまに、静まり返った、極寒の冬の森の中で、一晩中夜空を独り占めしたいなんて欲望が湧いてくる。
星に限らず、私が心惹かれる物に共通する特性として「儚さ」がある。彗星なんて儚さの塊である。少し調べたところによれば、この彗星が見つかったのは2023年1月。そして2024年10月に地球に再接近。再び暗黒の世界へ姿を消す。8万年ある周期の中で、1年半前に存在を認識され、一瞬にして注目を集める存在となり、また一瞬にして全ての人に忘れ去られる。またすぐに、夜空はいつもの夜空に戻ってしまう。童心を思い出し夜空を見上げていた人は、手元の世界に戻ってしまい、人生に一度のチャンス記録に残そうと、カメラを向ける人は霧のように消えていくであろう。
ただ、それでも、
儚きは、美し
2024.10.20 中村拓也