見出し画像

感動に向かって。白崎映美さん 還暦大感謝祭

感動とは?ーーー言葉を超える経験だ。

 脳科学者、茂木健一郎氏によれば、自分が大きく変わる可能性を予感する変化であるという。その圧倒的な脳への衝撃は、それまでの言葉のストックではおいつくわけがないので、私たちが真に感動したときは言葉を尽くせない。もしくは「すげぇ」とか、「わー」とか、「うおー」とか、「やべー、マジかー!」とか、腹から出てくる言葉。脳内では多種多様な脳内麻薬物質が放出され、一過性の感覚性失語症にも似た状態になる。

 そして人は感動の衝撃を、運動を介して、言葉にしたり、音楽にしたり、絵画にしたりする。「あの衝撃」を時間をかけて形にするというわけだ。僕も拙文ながら書くという行為を通じて形にしてみたい。

 11/19、僕は山形県酒田市にやってきた。白崎映美さんの一大イベントを体感するためだ。

 白崎映美さんのステージは圧巻だった。5時間に渡る3部構成、まさに「白崎映美フェス@酒田」だった。ほとんど出ずっぱりでエネルギッシュに歌い、踊り、語り、煽り、決める映美さんを観て、還暦という言葉は「人生の真ん中ちょいすぎ」という意味に再定義すべきとカクシンした。織田信長が人生50年と詠ったけど、2倍してちょうどいいのが今という時代である。

 1部の白崎映美&白ばらボーイズは、精鋭たちのジャズバンドで演奏レベルがビックリするくらい高かった。ピアノはデヴィッド・ボウイが見つけてきたマイク・ガースンかと思うほどキレキレだったし、ドラムもベース凄腕で、サックスもみんな凄くてホントに達人揃いだった。

 でも、それを「高尚で敷居の高い音楽」ではなく「キャバレーのエンターテイメント」として誰にでも受け入れやすい共有するのが白崎さんの素敵なところ。全くの新ジャンルともいえる「庄内弁シャンソン」とか、多芸を誇る「ジャズマンたちの一発芸」とかもあって、懐かしくも斬新なステージに気がついたら魅了されていた。
 ここでの白崎さんは完全に「スター」だった。スターを演じているというよりも、白崎さんの中の「スターとしての一面」が前面に出てきたような気がした。

 第2部は上々颱風。10年ぶり、1日だけの再結成。ステージ上にはさっきまでの白崎さんはもうどこにもいない。いまも数多くの人々に影響を与え続ける伝説のグループ、上々颱風。九州や大阪、東京など全国からファンが集まった。ふつう「10年ぶり」とかになると、どうしても時の流れの残酷さを感じてしまうものだけど、上々颱風に限ってはそんな心配は全く無用だった。それぞれの活動で実力をさらに高めた各メンバーが再び集い、最新型の上々颱風を魅せてくれた。演奏も、歌も、シンプルな力強さがあったし、「上々颱風のフロントメンバー」に徹する白崎さんの振る舞いもホント凄かった。ホントに10年もお休みしていたとは信じられない。うん、多分、誰も知らないところで、メンバーさんたちも知らないところで、上々颱風は動き続け、この時を待っていたんじゃないかな。

 僕が思う上々颱風の魅力は「魂を解放してみんなでたのしもう」のポジティヴな姿勢だ。ご本人たちが音楽を思いっ切り楽しむ様子を目の前で示してくれる。老若男女、その場にいる誰もがその圧倒的なエナジーに吸い込まれていく。分け隔てない音楽は、まさに「何でもありの理想形」で、これはもう個々に鍛錬して基礎体力を高め、なおかつ本気でせめぎ合っていないと難しいと思う。楽しいけど、ゆるくない。だから楽しませられる。

 当時から時代によらないタイムレスな音楽、普遍的なメッセージが多い気がするが、今回、当時の曲のメッセージ性が今の時代も真っ直ぐに響いてくる。たとえば「いつでも誰かか、きっとそばにいる」、平成狸合戦ぽんぽこの主題歌「いつでも誰かが」からの一節だけど、一日中、スマホ画面ばかり見てると、このことをいつの間にか忘れてしまう。もっと周りの人を感じなきゃ、という気になる。分断の時代にこそ必要なメッセージではないか。

 今回、なんと新曲も披露されたが、これがまた過去の名曲に負けないポジティヴな曲だった。懐メロ大会にはしない。今を生きる意志をビシビシと感じたし、オーディエンスもそれを真正面から受け止めていたような気がする。この再結成ライヴは「あの頃の気持ちをエネルギーに転化して現在のベストを魅せた好例」として記憶されるべきステージではないだろうか?

 第3部は、白崎映美&東北6県ロールショー。
 まるでジェームス・ブラウンやP-FUNKのような大所帯バンドを率いる、
リーダーとしての白崎さんが登場。東日本震災以来、東北人の誇りをもって地域を盛り上げ続け、世界がITによるグルーバル化に傾く中、生身の人間による多様性のあるローカル文化の発信は、忘れかけていた「肉体性」に訴えかける。濁流のように流れていく情報化社会の中で「どこからきたか」を忘れては前に進めない。だからこのバンドでの白崎さんは、力強い。頼もしい。猛々しい。東北の大自然のようなパワーがある。

 おそらくはかつての上々颱風がそうであったように、今度は白崎さんが若い才能、どんどん伸びていく才能たちに機会を与え、自身のバンドで育てている。文化ってこうやって受け継がれていくんだなぁ。

 最後は、全バンドが集まって、もう完全に「祭り」状態だった。やはり音楽はライヴだ。人間のパワーの凝縮で、ライフを祝う儀式だ。

 白崎さんはMCで「生きててよがっだね」と発言されていた。僕もホントにそう思った。長く人間というものをやっていると「こんな状況に耐えていけるのだろうか?」という目にもあう。悪夢よりもはるかに悪夢なこともある。今日を過ごすのに精一杯、という日もある。でも「生きる」を手放してしまえば、感動は2度と味わえない。またきっと感動できる日が来る。必ず来る。そう信じられる。


「私はうたになりたい」

それが還暦大感謝祭の標語だった。白崎さんの「うた」は次なる感動があることを教えてくれた。

今日とは次なる感動に向かう1日である。心からの感謝を胸に毎日を大切に過ごそうと思う。

白崎映美さん、大感謝祭を開催してくださった皆様、本当にありがとうございました!

























この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?