運動器06 収縮と筋力発揮
アスリートが最大の筋力を発揮している場面。
あなたはどんなシーンを想像しますか?
ウエイトリフティングの選手が最高重量を挙げているシーン、ラグビーのフォワードが相手チームを押し切っているシーン、NBAの選手がジャンプしてダンクシュートを決めているシーン、ゴールキーパーが思いっきり横にスライドするシーン、プロレスラーがロープから戻ってくる相手をボディースラムでマットに叩きつけるシーン……
きっとみなさんの想う「最大の筋力発揮のシーン」が浮かぶと思います。
筋の収縮と筋力の関係について、「手にダンベルをもち、肘関節を伸ばした(伸展)状態から、曲げながら(屈曲しながら)持ち上げる」という運動を考えてみましょう。
この時、力こぶにあたる「上腕二頭筋」に対して脳は「収縮」の指令を出します。実際の上腕二頭筋も長さは短くなり、筋肉の端と端が近づきます。このように「筋が収縮しながら、筋の長さが短くなる収縮を「コンセントリック収縮」と呼びます。
スクワットで下から上がるときの太もも前面の大腿四頭筋、ベンチプレスでバーベルが下から上に挙上されるときの上腕三頭筋や大胸筋などもこれにあたります。
次に「持ち上げたダンベルを元のコースを戻りながらゆっくり戻す」場合、上腕二頭筋には「収縮」の指令が出ながらも、筋肉の端と端の距離は遠くなり、筋の長さは長くなります。もしこの時、脳から上腕二頭筋に「縮め」「収縮」の指令が出ていなかったら、ダンベルは「ゴンッ」と最下点に、下手したら床に落ちてしまうでしょう。
このように「筋肉は収縮方向に筋力を発揮しているけれど、筋肉の長さは長くなっている状態」を、「エキセントリック収縮」と呼びます。高さのあるところから飛び降りた着地の瞬間、膝関節が曲がりますが、この時、大腿四頭筋は長くなりながらも筋力を発揮しています。スクワットでゆっくり下りる時も同様に、エキセントリック収縮が起きています。
エキセントリック収縮は、コンセントリック収縮よりも、より大きな筋力を発揮することができます。
たとえば「100キロのバーベルをコンセントリック収縮で挙げられる人は、125キロのバーベルを(挙げられないけれど)ゆっくりと降ろしながらエキセントリック収縮で筋力を発揮することができる」というような感じで、エキセントリック収縮で発揮できる筋力は、コンセントリック収縮の最大1.25倍という報告もあります。
ピッチャーが前足で思いっ切りフィールドを踏み込む瞬間、フィギュアスケーターがジャンプの前に身体を重力方向に沈める瞬間、横綱が相手に押されながらも土俵際で踏ん張る瞬間、体操選手が鉄棒から華麗に着地する瞬間、垂直以上の壁をよじ登るクライマーが重力にもっていかれながらも耐える瞬間、陸上選手が連続でハードルを飛び越える瞬間――人体がもつ最も大きな筋力発揮のシステムを使っている、というわけです。
興味深いのは、エキセントリック収縮は筋力向上や筋肥大にも効果的であるという点です。
「ベンチプレスで何キロ挙がるか」といった「できたことへの評価」だけでなく、「ベンチプレスでマックス以上の重量に挑戦し、挙がらずにつぶれてしまう、でもなんとか抵抗して(安全に)つぶれる」あるいは「バーベルを持ち上げる段階ではパートナーに補助してもらい、挙げられない重さに立ち向かいながらゆっくり降ろす」といった「何とかしようとしたことへの評価」も重要だということです。
まるで挑戦の肯定にも思えるお話ですね。
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