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母で、格闘家で、ラウンドガール。あきぴさん×Dr.F② ~狂った時間~

Dr.F RIZINガールを始めるぐらいまでは、あきぴさんにとって格闘技は「みるもの」だったわけですよね。でも、やるべきだと思ってやってみた。「みる」と「やる」では大違いだと思うんですけど、その中で「うわ、こんなに違うんだ!」といちばんショックに感じたのはどんな瞬間でしたか?

あきぴ まず、私はそもそも運動能力も経験も本当になくて、まず5分3R動き続けることが本当に大変でしたね。「こんなにつらいのか!」って。

Dr.F 格闘技は相手がいるから、休めないですもんね。

あきぴ 本当にそうでしたね! 関節技とかも、見てるだけのときは「もっと力入れれば極めれるでしょ?」って思ってたんですけど、やってみたら「あ、こんなに極まらないものなんだ!」って(笑)。「投げれないんだ、ここで!」とか、すごく思いましたね。


Dr.F そうそう(笑)。全力で暴れてる相手を抑え込むなんて、ふつう無理ですよね。

あきぴ そうなんです! だから大変ですけど、始めてよかったなと思います。でも弱いんですよ(笑)。

Dr.F いやいや。初めての試合で負けて、車の中で反省していた投稿を見ましたけど、強くなる人だと感じました。試合に出始めてから得たものってありますか?

あきぴ 私はライブ配信を3年近くやっていて、「あ、あきぴさんだ!」って言われるぐらいのところまでは何とかやってきたんですけど、人間ってどうしても調子に乗ったり、初心を忘れたりしてしまうものじゃないですか。

でも格闘技は残酷で、奇跡は起こらないというか、自分の能力でしかできないものなんですよね。特に試合はそうで。

そこで、「ああ、私って全然ダメなんだ」っていうことを、試合で気づかされたというか。

Dr.F うわぁ、すごくわかります!(笑) 自分を見せつけられるんですよね。

あきぴ そうなんです。どれだけ自分が調子に乗ってたかというのを突きつけられました。

Dr.F 「練習通りに動ければ……」とか僕も散々愚かな言い訳してきたんですけど、試合場の自分の方が圧倒的にリアルなんですよね。

 頭の中では「この相手ならこうやってこうすれば勝てる」とか勝手に想像してるんですけど、試合では100分の1出ればマシで、しかもその100分の1こそが等身大の自分なんですよね。

あきぴ ホントにそうです!

Dr.F そこに気づかざるを得ないという点で、本当に残酷ですよね(笑)。あきぴさんは、格闘技をディスったり、見下してくる人たち、暴力的に煽るをする人たちに対して、まっすぐもの申すじゃないですか。そのあたりはどうですか?

あきぴ 実際、一つの大会をやるにはすごくお金がかかるし、いろんな人に見てもらわないと成り立たないじゃないですか。それも込みの部分があるから、選手同士の過剰な煽り合いとかも仕方ないんだろうなとは思うんですけど、でもいつかは、MMAを子供たちに堂々と見せられるようになってもらいたいんですよ。

 今はいろんなやり方を使って盛り上げていても、将来的にはある程度以上過激なやり方はナシで、もっとクリーンなイメージのものになってほしいなと思います。

 大会後の会場にゴミの放置がなくなるとかもそうだし、いろんな面で「子供にやらせたいな」と思うお母さんが増えるような時代になってほしいなと。もともとがケンカとかに近いものではあるので、難しくはありますけどね。


Dr.F そこはやっぱり、母親としての目線も出てくるわけですね。とても重要なことだと思います。

 僕がリングドクターやチームドクターをやっていた頃は、K-1MAXやPRIDE、リングスなどが盛り上がっている時期だったんです。

リングスでのメディカルチェック

その頃も「将来的には……」って話題になってたんですけど、あれから20年近く経って、むしろ逆行してる部分もあるかも。

 格闘技自体、顔を殴ったり骨を折ったり、脳をゆらしたりと、暴力性を含むものなんですが、それを、ルールを決めてお互いリスペクトを持ってやるという美しさがあるんですけど、一方で過激さも売りになるのも事実だから……。


あきぴ 行きすぎてるな、と思うところもありますよね。煽り方も、相手の容姿や家族まで否定したりして、「美しい世界じゃないな」と思ってしまうところはありますよね、正直。


Dr.F リング外での態度は意識していくと、もっと全体がいい空気になっていくのかも知れないですね。


あきぴ 平本蓮選手なんかもインタビューではちょっとやんちゃな感じですけど、バックステージでお会いするとすごくニコニコしていて、そういうのがいいですよね。



Dr.F そうなんですね!直接お会いしたことはないですけど、人間的に惹かれる魅力がありますよね。格闘技愛も伝わってきます。

──先ほどから出ているように、あきぴさんはラウンドガールとして活躍しながら母親としてお子さんたちを育て、同時に格闘技もやられていて、とてもお忙しそうですよね。限られた時間をどうやりくりしているのかというのが気になるんですが。

あきぴ そうですね、睡眠時間はいつも2~3時間です。健康的にも精神的にもよくないのは分かってるんですけど、そうじゃないと単純に時間が足りないんですよね(笑)。

 子供たちが幼稚園や小学校に行っている間にジムで格闘技を練習して、お迎えに行って宿題を見たりして、晩ご飯を作って食べさせて、寝かしつけてから自分のライブ配信をして、それからSNSをチェックして家事をして、夜中になったのでちょっと寝ます。で、朝起きて……という繰り返しですね。


Dr.F うわぁ、すごいなぁ!

あきぴ Dr.Fもお医者さんやりながらの選手ですから、時間が無かったでしょう?

Dr.F ドクターの仕事をして、その後当直に入ったら夜中に救急車がバンバン来るので対応をして、空いた時間にはリハビリ室のカギを借りて練習して、朝になったら手術室に行って……。道場に行けるときは終電まで練習して。

 一緒に練習してる大学生の選手が

「二重作さん、今日泊まりに行っていいすか?」
「今日って、お前毎日泊まりに来るじゃん」って(笑)。

「全日本大会のビデオ研究しましょう!」とか言い出して、夜中3時まで技術研究をするという。で、また6時になったら起きて病院に行く準備を始める・・・。

あきぴ えー、すごい!

Dr.F 相当に狂った時間を過ごしてたんですけど、それをあきぴさんは今、現役でやってるわけですね(笑)。

あきぴ 狂ってますね(笑)。

Dr.F 僕はもう同じことはできないですけど、やはり「20代で狂った時間を過ごせた」というのは、今考えるとすごく貴重ですよね。

研修医時代の聴診器。名前の代わりに『極真』と入れていた。


あきぴ そうですよね。ウチは一番下の子が3歳で、その子が成人するまでは生き抜かないといけないので、健康にも気を使わないといけないのは分かってるんです。今やってることって育児にもつながってると思っているんですね。

自分の時間を持つことによって、育児もちょっと余裕を持ってできたりとか、頑張ってる姿を子供たちに見せるのもいいことなのかなとも思いますし。


Dr.F ああ、すばらしい!背中での教育ですね。

あきぴ 今でも、母親が外に出てるといろんな意見が来るんですけど(笑)、これが私の生き方なので。

Dr.F いいなぁ、私の生き方。

たとえ向かい風の中でも、説明のつかない衝動を実現できる人というのは自由を感じさせます。だからいろいろ意見する人も、内心はうらやましい部分があるんだと思います。
 
あきぴ ハハハハハ! そうなんですかね。

③に続く

PS 狂った時間から生まれた、格闘技医学


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