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重力‐02 型の問いかけ

日本に古来から伝わる舞踊の型、沖縄空手や東洋武術の型には「広い歩幅で移動する」という動きが数多くみられます。

あきらかに動きにくい歩幅ですから、外から見ると「そんな広いスタンスで動かなくても……」と非合理的に、あるいは非実用的に見えるかもしれません。

しかしこれらは、やっていくとわかるのですが「動きの中で重力を意識するセンスを磨く技」でもあるのです。

重力に逆らって動く要素を減らし、重力を上手に利用して動くための「発明」でもあるんですね。では、次に舞踊や武道の型のエッセンスである「広い歩幅」で動いてみましょう。

左足を前、右足を後ろにして立ちます。

 A:普通の歩幅で立ち、右足を前側にできるだけ高く上げる。
 B:広い歩幅で左足を前に大きく一歩踏み出してから、右足を前側にできるだけ高く上げる。

 この2つを比べてみましょう。どちらが右足を挙げやすかったでしょうか?

これはBだと思います。Aは後ろの右足を挙げるとき、ほとんど最初から最後まで重力に逆らうことになります。Bの動きの前半は、左足で一歩踏み出すときに「骨盤を中心に身体全体が重力方向に落ちる」という運動になります。

踏み出した左足の足底に接した床が、重力方向に加わる力を受け止め、後半はその反作用(床反力)を使って、身体全体が上(反重力方向)にあがる形になります。

 Aは「身体全体(足以外)はそのままで、足を上げる動き」、Bは「身体全体が上がりながら足も上げる動き」になります。

Bは踏み出した前足が床についたとき、今から後ろ足を上げるのに使う筋肉が強制的に引き伸ばされます。

筋肉には「既に収縮した状態からさらに収縮させる」よりも「ある程度引き伸ばされた収縮ゼロの状態から収縮させる」ほうが大きな力を発揮できる、という特性がありますので、Bは「そんなに力を使っている感じがしないのに、足が楽に上がる」という感覚だと思います。

型の中には「先人たちからの問いかけ」があります。

それらに向かう中で、身体が気づいていくような仕掛けがあって、それらを紐解いていくのも面白いですね。動きにくい制約の中で動けるようになれば、それはもうメチャクチャ動けるわけですから。

・古今東西にヒントがある、パフォーマンス医学


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