プロの定義
いわゆる典型的な医師として進むべきか、自分のやりたい医学を追求するか。
夢を持って上京したものの、迷いに迷い、悩みまくった時期がある。そのころ、僕は都内から片道2時間かけて茨城まで通勤していた。乗り物の中で4時間を過ごすため、朝、東京駅で本を買って、移動中に読みまくる、という毎日だった。
なぜ本を読んだか、というと、お金を得るためだけに働いていた当時の精神的な奴隷状態から、1日でも早く逃げ出したかったからだ。自分の価値観で生きてる人の書で気になるものは買い漁った。何か1ミリでも吸収したい、そんな心境だった。それまでの考え方自体をチェンジする必要があったのだ。
そんなとき出逢ったのが、田原総一朗さんの言葉だった。
「好きなことをしてお金を払うのが趣味、好きなことをしてお金をもらうのがプロ」
非常にシンプルな定義だが、ガツンと来た。
今でこそ働き方改革とか、副業推進なんて言われてるけど、まだまだ僕が社会人になった時代は、「仕事」と「遊び」どちらかの価値観だった。「仕事」という言葉は、「じゃあ仕方ないよね、食っていくためには」という返答を導き出すためのキーワードでもあり、背後にどんよりとした諦念を漂わせる人も少なくなかった気がする。
しかし、今は時代が違う。僕は好きなことをやらせてもらえてる。趣味、仕事、趣味から仕事に変換中のもの、仕事から趣味に戻るものまで。混在してる感じがとても心地良い。「好きの軸」があるから、病院での仕事も楽しいし、趣味が価値を持ち、仕事になる瞬間にも興奮できる。
僕は、みんながみんな「好きなことだけで食っていく」必要はないと思ってる。好きなことに価値が生まれ、100円にでも500円にでもなれば、そこに自己肯定感が生まれる可能性がある。仮に金額は小さくとも、自分の価値観を肯定しながら生きていける効果は、決して小さくない気がするのです。
ちなみに朝まで生テレビは、視聴途中で必ず寝てしまい、全部観れたことは1度もありません。田原さん、ごめんなさい。
(2018年11月27日のfacebookより)
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20代後半に自分に起きた出来事を回想しながら書いた文章。田原さん言葉を、ほぼ日手帳に手書きで書いては、何度も何度も読み返した。
2022年12月に刊行した『強さの磨き方』。僕は20年近く前に知った田原さんの言葉と共に、このエピソードを記すことができた。
君が行きたい(生きたい)方向に、どんどん行けよ!
そんなメッセージを勝手に受け取った僕は、なんだかんだでその通りに進んで今に至る。田原さんの言葉は、自分の可能性が拡がる方向に「言葉を再定義していい」というパスポートでもあった。
すると・・・信じられないことが起きた。
書籍が書店に並びはじめた頃、ある若者とSNS上でつながることになった。その名を田中渉悟さんという。田中さんは、田原さんと食事をした後、たまたま書店で拙書に出逢い、開いたページに田原さんの言葉を見つけて驚き、拙書を即買いしたそうだ。
そこから僕らのご縁がまるで「意志をもった生き物」のように動き出し、1月16日、田原さん、津田大介さん、田中さんのトークセッション、田原カフェVol.12にオーディエンスのひとりとして早稲田の喫茶店「ぷらんたん」にお邪魔することになった。
登壇者はもちろん、参加者ひとりひとりが真剣に考え、本音で話し合う空間は『言論の自由』をそのまま実践していて、今の、これからの日本人に必要な「自立した個」の強さを磨く、インタラクティヴ(双方向的)な空間だった。これこそまさに「道場」だと僕は直感した。
ちなみに僕は海外に招聘された時、道場をこのように説明している。
"A Place 2 find your way"(あなたの道を見つける場所)
この日のテーマは『SNSは人を幸せにするか?』
ジャーナリスト・津田大介さんの現代社会の問題点を鋭く射抜く視線と、総理大臣や大物政治家を含む、強さの象徴のような歴戦の猛者たちと渡り合って積み重なった田原さんのエベレストのような圧倒的経験値が、尊重と敬意の上に真剣に交差する。気づきと学びに溢れたスリリングな対談だった。
SNSとそれを取り巻く問題点を軸に、人間の幸福、心の守り方、友達とは何か?そして自由への展望。「SNS禍」に苛まれたことがある皆さんにはぜひご覧いただきたい。
田中さんの計らいにより、休憩時間に田原さんにご挨拶をさせていただいた。田原さんは、思いっ切りチャーミングな笑顔で僕を迎えてくださった。「朝生」で鋭く切り込んでいくイメージがあるけど、この笑顔に至近距離で接するとKOされる。本当に強くて優しい人特有のオーラを浴び、88歳の好例者にパワーをもらう。
直接お会いできるだけでも光栄なのに、きたる2月17日、不肖・二重作が『田原カフェ』に登壇させていただくことになった。
田原さんの言葉を信じ抜いた僕が書いた言葉を、今、田原さんが読んでくれている。人との巡り合いは本当に面白い。少しでも人生の大先輩に学べるように、可能な限り心身を練磨して2月を迎えようと思う。ここまでのドミノのようなひとつひとつの全てのご縁のおかげです。