「生きる辛さ」まで体現したアーティスト
またひとつ、星が消えた。
シンニード・オコナー。
彼女ほど、毀誉褒貶の激しいアーティストを僕は知らない。
アイルランド出身のシンニードは、アメリカの国民的番組、サタデーナイトライヴに出演、歌った直後にローマ法王の写真を破り捨て、公然とカトリックを批判した。そして最後に言い放った。
「本当の敵と戦え!」と。
保守的なアメリカでは、彼女のアルバムの不買運動が起き、ブルドーザーでCDが処分されるというニュースも流れた。シンニードは文字通り「民衆の敵」となった。
ボブ・ディラン30周年記念コンサートに出演した際には、ブーイングが鳴りやまなかった。シンニードは、予定していたボブ・ディランの曲を中止して、ボブ・マーリーのWARをアカペラで歌った。
「人間の肌の色が、人間の瞳の色と同じように無意味になるまで、この世は戦争である」
当時TVで視聴した僕は、コンサート映像で「背筋が凍った」のは初めてだった。今見ても、異様な雰囲気が画面越しに伝わってくる。
そしてプロテストソングを豪胆に歌い切った直後、観客に背を向けて嗚咽するシーン。なんだかシンニード・オコナーというアーティストを象徴しているような気がしてならない。
今朝、シンニードの訃報をネットで知った。
僕の知ってる小さな範囲おいて、だけど。
あまりに繊細で、あまりにトラウマティックで、あまりに複雑で、あまりに不器用な人、の印象があった。
実際にトラブルの多い人だったし、ショービジネスの水が合うようなタイプではないし、おそらく精神疾患も抱えていたんだと思う。
まるで「生きる辛さ」まで体現したアーティスト。
少なくとも僕の眼にはそう映っていた。
僕はシンニード・オコナーの大ファンというわけではないし、アルバムも全て聴いたわけじゃないし。
彼女は、プリンスの楽曲をカバーして全米1位となり、一般層にも広く存在が知れ渡ったにも関わらず、プリンスに関するかなり悪質なデマを流したこともあったから、そういう意味では正直「めんどくさい人だなぁ」とも思っていた。
だけど、そのシンニードがいなくなったことが、なんか無性に寂しいのだ。
「こんな大変な人生だけどね、それでも私だって生きてるのよ」
今日、僕たちが見失った星は、誰よりもそんなセリフが似合う星だったから。
ありがとう、シンニード・オコナー。